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モブにも驚くべき背景があるんですのよ1
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目尻にはほんの少し赤みを足す。これだけで、ぐっとイマドキ顔になれるから。最後の仕上げはハイライトだ。私はブラシを持ちかえると、新作のラベンダーカラーをたっぷりと含ませ、鼻筋にひとはけする。シェーディングやハイライトは省かれがちだけど、個人的には超重要だと思っている。輪郭がキレイなことは美人の必須条件だから。
「はい、完成です。いかがでしょうか?」
私のその声で、お客様がゆっくりと目を開ける。鏡で自分の顔を確認して、驚きと喜びの混ざった笑顔を見せてくれる。
私はこの瞬間がなにより好きだ。仕事の疲れなんて、一瞬でふき飛んでしまう。
「すごっ。全然違う~我ながら、なかなか美人かも」
「はい。とってもお綺麗ですよ」
本日のお客様、金沢様はアラサーのOLさん。かれこれ二年ほど私を指名で通ってくれているお得意様だ。
「でも自分じゃここまでは再現できないのよね~。さすがは詐欺メイクの伝道師、新田さんだわ」
詐欺メイクの伝道師。誰が呼びはじめたのか、いつの間にかついた私のあだ名だった。
新田菜穂26歳。美容部員歴六年。数十の有名ブランドが集まるこの東都百貨店化粧品売場で、二年連続売上ナンバーワンを誇っている。思いっきり自慢しちゃうけど、マジでこの仕事が天職だと思っている。
「やっぱ、このハイライトがポイントよね~。お高いけど、買っちゃおうかなぁ」
新作ハイライトを手に、金沢さんはうなっている。ハイライトは5,900円。同じ金額を投資するならば……。
「ハイライトは以前ご購入いただいたベージュ系のものでも代用可能です。それよりは、この最初に使用した下地クリームがオススメです」
「そうなの?」
「はい。金沢様のお肌はきめ細かく透明感があるのですが、その分乾燥に弱いので……」
「ありがとう。また来ますね」
「はい。下地クリームのお買い上げ、ありがとうございました」
金沢さんのお見送りを済ませると、もう上がりの時間だった。同僚に挨拶をしてロッカールームへと向かう。
ゆるく巻いた長い髪はハーフアップにまとめて、制服はボディラインのしっかり出るアイボリーのワンピース。足元は7センチのヒール。仕事中はイイ女風に装っているが、着替えを済ませた素顔の私はいたって地味な女だった。まるで魔法のとけたシンデレラみたいに。
小さい頃はひとりで黙々と絵を書いているような大人しい子供だった。クラスの端っこでポツンとしているタイプだ。
高校生のとき、描くキャンパスがノートから自分の顔に変わったというだけで中身はあまり変わっていない。
接客業をしているくせに、プライベートになると人付き合いは苦手で、彼氏はもう数年いない。休みの日はひたすらゲームをして終わってしまうような、イイ女とは程遠い存在だ。
「ま、でもいいんだ~。私には愛するキース様がいるし」
職場の百貨店から駅までは歩いて十分弱。その十分すら待てずに、私はスマホを取り出した。ピンクのアプリアイコンをタップすると、きらびやかなテーマ音楽とともにタイトルが流れ出てくる。
【クイーンズルーレット】
私がいまハマりにハマっている女性向けゲームだ。半年前にリリースされたばかりの比較的新しいゲームなのだが、これに出てくるキースという登場人物に惚れこみ、すでに彼にいくら注ぎ込んだかわからないほどだ。
ゲームの内容そのものは、まぁありがちなものではあった。中世ヨーロッパ風の王国を舞台にした宮廷ラブロマンスだ。ヒロインのアリスは、攻略対象である王子ラフェルの
お妃候補のひとり。数多いる恋敵と競い合いながら、王子をゲットしていくというストーリーだ。
脚本の出来は並だが、作画は神レベル。アリスは可愛いし、ラフェルは超イケメン。なにより、私の心をとらえたのはラフェルの親友であるキースだった。
銀縁眼鏡が似合いすぎるインテリキャラで、腹黒紳士という絶妙な設定がツボだった。
彼と、もうひとりの親友ポジションであるルークの攻略ルートは、ボーナスステージとして設定されていて、かなりゲームをやりこまないと進めない。そのボーナスステージに、私は昨夜、ようやく進むことができたのだ。
つまり、念願だったキース様との恋愛モードを堪能できるという素晴らしい状況。駅までの十分を我慢できないのも、仕方ないでしょう?
「はい、完成です。いかがでしょうか?」
私のその声で、お客様がゆっくりと目を開ける。鏡で自分の顔を確認して、驚きと喜びの混ざった笑顔を見せてくれる。
私はこの瞬間がなにより好きだ。仕事の疲れなんて、一瞬でふき飛んでしまう。
「すごっ。全然違う~我ながら、なかなか美人かも」
「はい。とってもお綺麗ですよ」
本日のお客様、金沢様はアラサーのOLさん。かれこれ二年ほど私を指名で通ってくれているお得意様だ。
「でも自分じゃここまでは再現できないのよね~。さすがは詐欺メイクの伝道師、新田さんだわ」
詐欺メイクの伝道師。誰が呼びはじめたのか、いつの間にかついた私のあだ名だった。
新田菜穂26歳。美容部員歴六年。数十の有名ブランドが集まるこの東都百貨店化粧品売場で、二年連続売上ナンバーワンを誇っている。思いっきり自慢しちゃうけど、マジでこの仕事が天職だと思っている。
「やっぱ、このハイライトがポイントよね~。お高いけど、買っちゃおうかなぁ」
新作ハイライトを手に、金沢さんはうなっている。ハイライトは5,900円。同じ金額を投資するならば……。
「ハイライトは以前ご購入いただいたベージュ系のものでも代用可能です。それよりは、この最初に使用した下地クリームがオススメです」
「そうなの?」
「はい。金沢様のお肌はきめ細かく透明感があるのですが、その分乾燥に弱いので……」
「ありがとう。また来ますね」
「はい。下地クリームのお買い上げ、ありがとうございました」
金沢さんのお見送りを済ませると、もう上がりの時間だった。同僚に挨拶をしてロッカールームへと向かう。
ゆるく巻いた長い髪はハーフアップにまとめて、制服はボディラインのしっかり出るアイボリーのワンピース。足元は7センチのヒール。仕事中はイイ女風に装っているが、着替えを済ませた素顔の私はいたって地味な女だった。まるで魔法のとけたシンデレラみたいに。
小さい頃はひとりで黙々と絵を書いているような大人しい子供だった。クラスの端っこでポツンとしているタイプだ。
高校生のとき、描くキャンパスがノートから自分の顔に変わったというだけで中身はあまり変わっていない。
接客業をしているくせに、プライベートになると人付き合いは苦手で、彼氏はもう数年いない。休みの日はひたすらゲームをして終わってしまうような、イイ女とは程遠い存在だ。
「ま、でもいいんだ~。私には愛するキース様がいるし」
職場の百貨店から駅までは歩いて十分弱。その十分すら待てずに、私はスマホを取り出した。ピンクのアプリアイコンをタップすると、きらびやかなテーマ音楽とともにタイトルが流れ出てくる。
【クイーンズルーレット】
私がいまハマりにハマっている女性向けゲームだ。半年前にリリースされたばかりの比較的新しいゲームなのだが、これに出てくるキースという登場人物に惚れこみ、すでに彼にいくら注ぎ込んだかわからないほどだ。
ゲームの内容そのものは、まぁありがちなものではあった。中世ヨーロッパ風の王国を舞台にした宮廷ラブロマンスだ。ヒロインのアリスは、攻略対象である王子ラフェルの
お妃候補のひとり。数多いる恋敵と競い合いながら、王子をゲットしていくというストーリーだ。
脚本の出来は並だが、作画は神レベル。アリスは可愛いし、ラフェルは超イケメン。なにより、私の心をとらえたのはラフェルの親友であるキースだった。
銀縁眼鏡が似合いすぎるインテリキャラで、腹黒紳士という絶妙な設定がツボだった。
彼と、もうひとりの親友ポジションであるルークの攻略ルートは、ボーナスステージとして設定されていて、かなりゲームをやりこまないと進めない。そのボーナスステージに、私は昨夜、ようやく進むことができたのだ。
つまり、念願だったキース様との恋愛モードを堪能できるという素晴らしい状況。駅までの十分を我慢できないのも、仕方ないでしょう?
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