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きみは運命の人
§ 3 ②
しおりを挟む和哉から聞かされた話は、返す返すも突拍子もない話だった。
たっぷりの残業をいつものようにこなして、ゆりかもめの有◯テニスの森駅近くにあるタワーマンションの自宅へ帰ってきた智史は、リビングのソファに座るなり考え込んだ。
——あの人、確か大学は経営学部の商学科やったよな?文系といえども、数字やデータを扱う機会が多いはずやのに。……まさか、こんな話を信じとるとはな。
和哉は、妻となった美咲と「再会」したのは、「偶然」ではないと言った。
『もともとは佳祐に教えてもらったんだけどな』
新田 佳祐は和哉の高校時代からの親友で、智史も何度か会って一緒に酒を呑んだことがある。大手の広告代理店でプランナーの仕事をしている人だった。
——小笠原みたいにバカ単純そうだから、彼がそれを信じるのはわかるが……
自分の親友を引き合いに出す。
それはともかく、和哉も新田も、愛しい妻と結婚できたのは【あなたの運命の相手に逢わせてあげます】という、サイトのおかげだと言うのだ。
和哉にしても、新田にしても、そのサイトに登録したら、翌朝にメールが来て「運命の人に会える日時と場所」が記されていたという。
——なんで、そんな怪しげなサイトに登録するねん?個人情報やプライバシーに関わる危機管理意識ゼロやな。
そして、指示されるままに赴くと……和哉の場合には「忘れられない初恋の人」だった美咲が、新田の場合には「自身の浮気のせいで別れてしまった元カノ」の長澤 香里が……
「偶然」そこにいたらしい。
『おれも、佳祐も、「運命の相手」に会えたんだ!』
和哉は、智史が震災のあと大阪に落ち着くまで、しばらく奈良にある彼の家に身を寄せていた子どもの頃のように、無邪気に笑いながらそう言った。
——怪しい。怪しすぎるぞ。
『言いたかありませんが……美咲さんたちにしてやられたんじゃないですか?』
『美咲も香里ちゃんも、そんなサイトは一切知らない、と言った。そもそも、佳祐が最初にそのサイトに迷い込んだのも、偶々だしな』
即座に、きっぱりと言い切られる。
『ヘンな宗教とか、絡んでるわけじゃないですよね?』
『おまえ、おれが佳祐に訊いたのと同じことを言ってるな』
和哉がさもおかしそうに、ニヤリと笑った。
『じゃあ……和哉さん、幸せすぎて頭沸いてます?』
思わず、口走っていた。
和哉はとたんに苦虫を噛み潰したような顔になって、呻いた。
『うっせえよ。……智史、おまえもやってみな?』
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