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Chapter 3
⑤
しおりを挟む「松波先生……?」
彼からは今までに聞いたことがないほどの低ーい声に、思わず麻琴が振り向く。
不意に、松波から右手を取られた。
「僕がプレゼントしたこのリング、約束どおり、毎日肌身離さずつけてくれてるんだね。……うれしいよ」
先刻とは打って変わって、明るい声でそう言ったかと思えば……麻琴のオパールとダイヤのピンキーリングに、ちゅっ、と口づけた。
「まっ、まっ、松波先生……っ⁉︎」
突然のことに、麻琴は固まった。
目の前でいきなり繰り広げられる光景に、守永もぎょっとした顔をしていた。
その後、麻琴は守永と一緒にMD課に一緒に戻ることとなった。
「なぁ、あの人、新しく入った産業医だろ?」
「あ…あの医師、イギリス人の血が入ったクォーターらしくて、しかもイギリスの大学に留学してたそうなの。だから、あんなのただの『挨拶』感覚なんでしょうね。ほら、わたしも留学経験があるから、そういうの大丈夫だと思ったんじゃないかしら?」
麻琴はあわてて「弁明」する。社内で妙なウワサになっては困る。
「……なぁ、麻琴」
——な、なに⁉︎
「一度、呑みに行かないか?」
——は、はぁ⁉︎
「あ…あぁ、そうね。チームも結成されたことだし、みんなで一度呑みに行きましょうか?」
——きっと、そういうことよね?
すると一瞬だけ、守永の眉間にシワが寄った……ような気が麻琴にはした。
「……ま、それでもいいけどな」
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
その週の土曜日の夜、古民家をそのまま移築したという居酒屋の個室で、青山 稍は生中のビールジョッキを高々と掲げた。この店の生ビールはサ◯トリーのプレミアムモ◯ツだ。
「麻琴ちゃんのチームリーダー昇進と、ちょっぴり早いけど、麻琴ちゃんの誕生日を祝して、かんぱーいっ!」
「ややちゃん、美咲さん、ありがとう!プレゼントまでもらっちゃって。大事に使わせていただきます」
麻琴は自分のプレモルのジョッキを稍に合わせたあと、魚住 美咲の持つ冷酒のグラスにも合わせた。
ビールが苦手で日本酒の好きな美咲は、自身の故郷の微発泡酒、風◯森をオーダーした。
日本各地の名酒が揃うこの店を見つけたのは、美咲だった。早速、個室を予約してくれたのだ。
麻琴が二人からプレゼントされたのは、仕事用に会社から配布されているタブレットのケースだった。
クリムゾンレッドに染められた鞣し革のケースはオーダーメイドで、世界に一つしかない。ハンドホルダーとポケットが付いていて、使い勝手もよさそうだ。
「きっと、麻琴ちゃんが取引先や会議とかでタブレットを取り出したときに『カッコいい女上司』に見られるよー」
稍はそう言ってにっこり微笑んだ。
「あ、お鍋がいい感じで煮えてきたよー」
美咲が土鍋の蓋を開けると、もわぁーっとした煙の中から、白濁した豆乳スープがぐつぐつ煮えているのが見えた。
異常気象が叫ばれる昨今、ついこの前ようやく残暑が去り、はっきり言ってまだまだ「鍋の季節」にしては早過ぎるくらいなのだが……
「女子会限定コラーゲンたっぷりヘルシー美肌鍋」なら真夏でもOK、年中無休だ。
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