遠い昔からの物語

佐倉 蘭

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第三部「いつか」

最終話

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   やがて、文字どおり精力を使い果たした寬仁ともひとは、寝息を立てて眠りだした。

   わたしはおもしろがって、彼の頬っぺたをつんつんと突いてみたり、鼻をつまんだりしてみた。

   でも、寬仁は少し気だるそうに顔を動かしただけで、起きようとはしない。どうやら、一度眠りにつくと、なかなか目覚めない性質たちらしい。


   わたしの大事な大事なこの人を、赤紙一枚でかっさらって行くお国は、天皇陛下は……
   いつか、この人をちゃんとわたしに還してくれるだろうか。

   それとも、わたしも廣ちゃんのようになってしまうのだろうか。

——それだけは、いやだ。


   いつか……

   戦地に赴いたこの人が、無事でわたしの元に還ってきますように。

   いつか……

   この人と祝言を挙げて、正式な夫婦となれる日が来ますように。

   いつか……

   この人の子どもを産んで、一緒に育てられる日が来ますように。


   いつか、いつか、と思っていたら——今日が五日だったということに気づいて、一人で少し笑った。

——さあ、わたしも、そろそろ眠ろう。

   隣ですやすやと、まるで子どものように眠る寬仁を見つめた。

   わたしはもう、この人の妻なのだ、と思うと、はちきれんばかりのうれしさが、心の底から湧き上がってくる。

   先刻さっき、寬仁がわたしにしてくれたように、今度はわたしが眠っている彼の頬に接吻をする。

   わたしは、明日、世界で一番しあわせな花嫁として、朝を迎えるのだ。





第三部「いつか」〈 完 〉
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