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Chapter 6

同僚から政略結婚を相談されてます ④

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 名家と言われる家に生まれ、家のために嫁ぐわたしのような者には、逆に人並みの幸せはない、ってことか。

 ——「政略結婚」なんて。もともと、恋も愛もない結婚だもんね。

 例えば、もし……将吾さんの気持ちがわかばさんにあるのなら、わたしは彼らの邪魔者以外の何者でもない。
 例えば、もし……将吾さんがわかばさんを思う気持ちが、わたしが海洋を思う気持ちのようなものであるのなら。

——わたしは迷わず、彼をわかばさんに渡す。

 わたしがしたあの思いを、ほかのだれにも、してもらいたくはないから……


 もうそろそろ、お昼休憩も終わりだ。

「……あ、そうだ。大橋さ……」
と、言いかけて——「誠子さん」と言い直す。

「誠子さん、お料理始めるんでしたら、お弁当をつくることから始めるといいですよ?」
 わたしは食べ終わった容器を片しながら言った。今日は話に夢中で、いつの間にか食べ終えていた。

「……わたしも、そうでしたから」
 わたしはふっくら微笑んだ。

 誠子さんも微笑んで肯いた。
   美しかったけれど皮肉めいて見えた笑みは、もうない。

 そういえば、今日は、彼女は長い髪を後ろで一つ結びにしている。ルージュもいつもより薄めだった。

 昨日の今日でのあまりの変わりように、はじめはびっくりしたけれど……今ではすっかり感心している。
 もしかしたら、この人も、このままではいけないなと、どこかで感じていたのかもしれない。

 そして、自分を変える「チャンスの女神」と真正面からがっぷり四つになって、その前髪をがっちりと掴んだ。
   女神さまは後ろ髪を刈り上げにしたファンキーなお方だからね。

 ——いずれにせよ、いい傾向と対策だ。


 わたしがお弁当をつくるようになったのは、中学生の頃だ。高校生だった海洋の剣道の試合のときに差し入れするためだった。

 だれもいない体育館の裏で、ビニールシートを敷いて、二人で並んで座って食べた。

 わたしがつくった、からっと揚がった鶏の唐揚げを……
 ちょっと味付けを濃くしてみた豚の生姜焼きを、ほんの少し甘めの卵焼きを……

 頬張る海洋の横顔も、
 割り箸を持つ海洋の長い指も、
 割り箸を持ち上げたときに筋張る、海洋の手の甲も……

 なにもかも……わたしの目蓋まぶたに焼きついている。


「……彩乃さん?」
 七海ちゃんに声をかけられて、ハッと我に返る。

 ——あぁ、また、ぼんやりしていた。

「……きっかけはお見合いでも、彩乃さんは今、とってもしあわせですよね?」

 七海ちゃんがうらやましそうに、わたしを見る。彼女の視線の先には、わたしの左手薬指があった。

 ——わたしのピヴォワンヌが輝いている。

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