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Chapter 10
酔った勢いで素直になってます ③
しおりを挟む部屋の中はフロアライトのムーディーなオレンジの灯りだけだった。
将吾さんがわたしの部屋でのように、ベッドスプレッドとブランケットを捲って誘ってくれる。
「……お邪魔します」
わたしがそう言うと、ノートPCとブルーライトカットの眼鏡をサイドテーブルに片していた将吾さんがくくっ、と笑った。
——だって、このベッドでは初めてなんだもん。
わたしはベッドに入って、将吾さんの隣に座った。将吾さんが、してやったりのドヤ顔でニヤリと笑う。
「ようこそ……おれのベッドへ」
そして、わたしをすっぽり包み込むように抱きしめた。
こんなことされたら……悪口も、文句も、なにも言えなくなっちゃうじゃん。
——いや、素直になりましょう。
わたしは、こうしてほしくて来たのだ。本当は、今日は一人で眠りにつきたくなかったのだ。
そう、今夜こそ……こんなふうに将吾さんに抱きしめられて、眠りたかったのだ。
——あれ?
わたしはあることに気づいた。
あんなにわたしとのキスが好きな将吾さんが、今日は一度もしてこないのだ。
わたしは彼の顔を仰ぎ見た。
——どうして、今夜は一度もキスをしないの?
そう思った瞬間……わたしの方から将吾さんに、ちゅっ、とくちびるを重ねていた。
そういえば、今まで自分から男の人にキスをするのは、ちょっと記憶にない。
海洋とのときだって、あいつは剣道バカの朴念仁だったから、こちらから甘いムードを仕掛けるっていうふうにはなれなかったし。
だけど、将吾さんには幾度か、自分からキスをしていた。
「……っとに、酔った彩乃は」
将吾さんは目を細めた。
そして、わたしをくるんと反転させて、ベッドの上に押し倒した。
「素直になって……かわいいな」
将吾さんから、貪るようなキスが降ってくるのを期待……じゃなくて「覚悟」した。
——が、なにもなかった。
将吾さんは、わたしを見つめたままだった。
それどころか……
「……今日、同じテーブルだったおまえの親戚の上條ってヤツのさ」
——はぁ? なんで突然、大地の話?
「ヤツの奥さんをさ。……どっかで見たことがあるはずなんだが、どうしても思い出せないんだ」
将吾さんは、もう少しで思い出せそうなのにできないでいるときの気持ちの悪い顔をしていた。
——なんで、こんなときに亜湖さんのことを思い出してんのよっ。
確かに、亜湖さんは日本人形のように美しくて儚げだから、外国の血が入った人には特に魅力的かもしれないけどもっ!
わたしは明らかにムッとした顔になった。
将吾さんはまた満足げに、してやったりのドヤ顔になった。
下から将吾さんの顔を見上げる。
——どうして、今夜は一度もキスをしてくれないの?
きっと今のわたしは不安げで、そして、焦れたように乞う表情になっているはずだ。
将吾さんのカフェ・オ・レ色の瞳が……その眼差しが……溢れんばかりの艶っぽい色気を湛えて、次第に熱を帯びた琥珀色に変わっていく。
なのに……将吾さんがくちびるを落とした先は、わたしの耳だった。
ちゅっ、と音をさせてから、わたしの耳たぶを甘噛みした彼が囁いた。
「お仕置きだ……今夜はキスはしない」
——えっ、バレてる?海洋とキスしたこと、知ってるの?
わたしは目を見開いた。
「キス以上のことはしていないようだけどな?どこにも『印』はついてないみたいだし」
もしかして……普段は入ってこないわたしのパウダールームで、セミアフタヌーンドレスを脱がせたのは……その「確認」のため?
「ご…ごめんなさい」
わたしは正直に謝った。
すると、とたんに将吾さんの顔が不機嫌になった。
——ま、まさか……カマをかけられた?
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