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Chapter 14
お姑さまから呼び出されてます ①
しおりを挟む今週末には「答え」を出さねばならないというのに、今日はもう木曜日だ。
午後、ケンちゃんが副社長を訪ねてやってきた。
わたしは、彼が執務室で副社長と面会している間に、ダッシュで秘書室へ駆け込んだ。
すっかり「乙女」になって、もじもじしている誓子さんを説得し、それでもつべこべ言うので羽交い締めにして拉致する。
両拳を握りしめた七海ちゃんが「誓子さん、ファイトですっ!」とエールで見送る。
「いやぁよおっ!わたしはフラれたのよぉっ!今さら、どんな顔をして会えっていうのよぉっ!?」
往生際の悪い誓子さんを引きずるようにして廊下を行く。
「だからっ、誤解なんですってばっ!ケンちゃんの方がお断りされたんですっ!何回も言ってるじゃないですかっ!!」
「そんなの、嘘よぉっ!」
「だったら、直接本人に聞きましょうっ!さあっ!!」
——あぁ、めんどくさい人だ。
副社長室の前室の扉を開けて、誓子さんを放り込む。ちょうど、執務室からケンちゃんが出てきたところだった。
誓子さんがグズグズ言っててなかなか動かないから、ケンちゃんが帰ってしまったあとだったらどうしようと思っていた。
「……誓子さん」
ケンちゃんの顔がぱあっと明るくなった。
——わかりやすい。
なのに……なんで誓子さんには、わかんないんだろ?
「ケンちゃん、もう三時の休憩だから、どっかでお茶でもしてきなよ?」
わたしがそう勧めると、ケンちゃんがうれしそうに肯いた。
「三時の休憩」なんて、この会社にはないけど、そのくらい、いくらでも誤魔化してあげる。
「……わかってますよね?ケンちゃんとL◯NEのID交換するんですよ?」
わたしは、頬を赤らめて俯いた「純情可憐」な誓子さんに、江戸時代の遊郭にいた遣り手婆のように耳打ちする。
そして、副社長室を出て行くアラサーとは思えぬほど初々しい二人を、この上なく清々しい気持ちで見送る。
——あぁ、「恋のはじまり」っていいなぁ。
「……うちに『三時の休憩』なんてあったか?」
超絶不機嫌な顔をした副社長が、執務室への扉を背に腕組みして立っていた。
——ごめんなさい、誓子さん。速攻でバレてしまいました。
「おまえ、他人の世話を焼いてる場合か?」
副社長が静かにこちらへ歩いてくる。
——し、島村さーんっ。来てくださーい!
わたしは心の中で、執務室にいるであろう島村さんを呼ぶ。
「そういえば……」
わたしの目の前で、ピタッと立ち止まった副社長が言う。
「島村に少し、似てるよな……あいつ」
——え?あいつ?
「朝比奈 海洋だよ」
わたしは、副社長——将吾さんの顔を見た。
「あいつのところに……今、いるのか?」
そのとき、デスクの上の電話が鳴った。
「……はい、副社長室でございます」
わたしは渡りに船、と受話器を取る。
『副社長のお母様からお電話です』
——めずらしいな。
「少々お待ちください」
『いえ、副社長にではなく、朝比奈さんにです』
「えっ、副社長のお母様が……わたくしに、ですか?」
思わず出た声に、傍にいる将吾さんが怪訝な顔になった。
『では、三番でお願いします』
わたしは三番をプッシュした。
「……お待たせいたしました。朝比奈でございます」
将吾さんは執務室に戻って行った。
『彩乃さん?会社にまで電話してごめんなさいね』
まさしく、お義母さまの声だった。
「す…すみません。急に実家に帰ってしまって」
——一応、話は合わせておいてあげよう。
『そんなことはいいのよ。……それより、結婚式の引き出物の発注なんだけど」
——あっ、招待状以外にそれもあった。
「数が千以上でしょ?わたしの知人のところとはいえ、もうそろそろ頼まないと」
——ですよね~?
「それで、彩乃さんに実物を見てもらってからと思ってるのね。それで、急で申し訳ないんだけど、わたしの仕事の都合で明日の夜しか都合がつかなくて」
——そうだな。一度、ちゃんとお目にかかってお話しないとな。
「あ、わたしの方は、全然大丈夫です」
それから、明日の待ち合わせの時間や場所をやり取りするためにL◯NEのIDを教えてもらい、取り出した自分のスマホに登録した。
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