仮面の誘惑 〜麗しの怪盗は私〜

涼華

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第一章

満月の夜、心奪われる

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 月が高く昇り、夜空に白銀の光が広がる夜だった。静かな庭には柔らかい風が吹き、草花がささやき合うように揺れている。私の部屋から見える景色は、いつもと同じはずなのに、どこか違って見えた。月の光が強く輝き、その光がまるで魔法のように世界を彩っていた。

 その日、私の胸の内は不思議な高揚感で満ちていた。心の奥底で何かが起こる予感がして、何をしていても集中できない。14年間生きてきて、こんな感覚は初めてだった。何かが私を待っている。そんな気がしてならなかった。

 夜が更け、家族が眠りに落ちた頃、私はベッドの中で目を閉じていたが、どうしても寝付けなかった。すると、静まり返った屋敷に、かすかな物音が響いた。耳を澄ませると、確かに何者かが動く音が聞こえる。

 私はそっとベッドを抜け出し、音のする方へ向かった。胸が高鳴り、手が震える。恐怖と興奮が入り混じった不思議な感覚に支配されながら、音の源を探して足を進めた。

 やがて、部屋のテラスの方から、はっきりとした声が聞こえた。

「くそっ、今日はついてねえなぁ。」

 それは低く、やや苛立った声だった。私は息を呑んだ。誰かがテラスにいる――その事実が、私の心臓を激しく脈打たせた。

 カーテンの隙間からそっと外を覗くと、そこには人影があった。背の高い、その影は月明かりに照らされて、淡く輝いていた。

(まさか…不審者?)

 とっさにカーテンを閉めようとしたが、そこで目にした光景に、私は釘付けになった。

 その人物の姿が月光に浮かび上がった瞬間、息が止まりそうになった。長い金髪が風に揺れ、月明かりを受けてキラキラと輝いている。彼の顔は、中性的でありながらもどこか野性的な美しさを持っていた。その瞳は、まるで瑠璃石のような深い青色で、まっすぐにこちらを見つめていた。

「綺麗…」

 思わずそう呟いてしまった。彼の姿は、この世のものとは思えないほど美しかった。目が合った瞬間、彼はわずかに微笑んだ気がした。まるで、私の存在を知っていたかのように。

 その瞬間、世界が止まった。鼓動が一瞬、消えたかのように静かになり、私は彼の瞳に吸い込まれそうな感覚を覚えた。視線が絡み合い、彼の眼差しはまるで全てを見透かすようだった。

 次の瞬間、彼の姿は消えた。まるで幻だったかのように、彼は月明かりの中に溶け込んでしまった。


 呆然と立ち尽くす私の耳に、屋敷中が騒がしくなる音が飛び込んできた。駆けつけた護衛たちが、何かを叫んでいる。お父様の怒鳴り声が響き、お母様がそれを必死に宥めている声が聞こえた。


 **✼••┈┈••✼**

 窓から見えたあの人の姿は、今も鮮明に私の脳裏に焼き付いている。月明かりが金色の髪を優しく照らし、その瞳は深い夜の瑠璃色に輝いていた。まるで夢のようなひととき、私は息をするのも忘れ、彼を見つめていた。

 けれど、その美しい面立ちの裏に隠された素性を知った時、胸に走ったのは戸惑いだった。あの優雅な身のこなしの彼が、この国で名を馳せる「怪盗」だったなんて。しかも、彼が盗むのは宝石や金銀ではなく、選ばれし貴族の娘たち…それはなんと、女性の心だったのだ。

 屋敷が騒然とし始めたとき、父が怒り狂い、母が必死になだめているのを見て、私はようやく事の重大さを理解した。ジョーカーと名乗るその怪盗が、母を狙っていたことを。

「まさか…母様をさらうつもりだったなんて…」呟いたその言葉は、自分自身にも信じがたかった。確かに母は若い頃「社交界の花」と称えられ、いまだにその美貌は衰えていない。それでも、人妻である母を標的にするなんて、彼は一体何を考えているのだろう?

「なんて無謀で、浅はかな男なのかしら…」心の中でそう思いつつも、私の中の何かが強く彼に惹かれていることを感じてしまう。美しさに魅了されるなんて、なんて愚かなことだろう。彼がただの美男子であれば、こんなに苦しくなることはなかったかもしれない。でも、彼の瑠璃色の瞳に捉えられた瞬間、私は全てを忘れてしまった。 

 この胸の高鳴りを抑えようとすればするほど、彼の顔が浮かび上がる。どうしてあの瞬間、彼を止められなかったのだろう?なぜ、私は彼に対して怒りを覚えないのだろう?それどころか、胸の奥で芽生えたこの想いは、日が経つごとに強く、深くなっていくばかりだ。

「私は、どうかしてる…」


自分に問いかけながらも、答えは見つからなかった。ただ一つわかることは、私は恋をしてしまったのだ――しかも、してはいけない相手に。

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