仮面の誘惑 〜麗しの怪盗は私〜

涼華

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第一章

地味メイドの正体は?

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「怪盗……何?」

「ジョーカーだってよ。」

 その名前が耳に飛び込んできた途端、エリス・リヴェールは護衛たちの会話に耳を澄ました。彼女は薄暗い廊下に隠れ、心臓が高鳴るのを感じていた。

「ああ、確か“愛の逃避行”とか言って女をさらっていく怪盗だったか?ただ美女とデートしたいだけの女好きじゃねーかよ。」

「シンプルに迷惑だよなぁ。」

(ジョーカー…あなた言われてるわよ。やっぱり女性をさらうだなんて、世間の評判はあまり良くないじゃない。)

「んで?ソイツがどうしたって?」

「今日うちのお嬢様を盗みに来るんだってよ。」

「え、ああ…!だからあんなに旦那様が上機嫌で騒いでたのか!」

「ジョーカーが一度さらった令嬢は、婚約の申し込みが殺到するらしいもんな。」

「でも、まあ、うちのお嬢様はとびっきりいい女だし、婚約の申し入れは毎日のようにあるけどな。」

(毎日って。そんなに婚約の申し入れってされるもんなの?!)

 動揺して足に力が入らずにふらつき、どんっと何かにぶつかった。

「いたた…。右肩が痛い。」

「わるい!大丈夫か?」頭上から焦った声が聞こえた。

 振り向くと、護衛の一人が心配そうに声をかけてきた。どうやらジョーカーの噂をしていた護衛にぶつかってしまったようだ。

「は、はい…」と、エリスは急いで頭を下げた。すぐにくるっと回れ右をして、護衛たちから逃げるように早足で廊下を歩いてその場から離れる。今の彼女はメイドに変装しているので、あまり詮索されると困る。

「にしても、地味なメイドだったな。あんな子いたか?」

「新人なんじゃね。」

 去り際に聞こえてきた失礼な会話に心を痛めながらも、振り返らずに廊下を進んだ。

「ふう…、ここならもう大丈夫かな?」誰もいないのを確認し、扉を閉めてから一息ついた。目の前に広がるのは、屋敷の隅にある狭い部屋。ひんやりとした空気と古い納屋のような匂いが漂っている。

 暗い廊下を通り過ぎて辿り着いたその部屋には、窓から小さな明かりが差し込んでいた。窓から見える月は美しく、まるでエリスの心の中に広がるあの夜の記憶を呼び覚ますかのようだ。

(まるで、あの日の夜みたいね…)

 吸い寄せられるようにして窓の方に近づくと、鏡に映った自分の姿が目に入った。変装とはいえ、ボサボサ頭のおさげに瓶底眼鏡と、たしかに地味メイドと言われるくらいひどい姿だ。

 キョロキョロと辺りを見渡し、誰もいないことを確認すると、彼女は眼鏡とかつらを外し、変装を解く。そこには、紛れもない美少女が現れた。

 まだあどけなさが残るが、その下には驚くほどの美貌が隠されていたのだ。まつ毛は長く、目はパッチリとした二重で、陶器のように白い肌が輝いている。


 彼女がこんなことをする理由は、ただ一つ、ジョーカーの心を盗むためだった。
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