光のもとで1

葉野りるは

文字の大きさ
147 / 1,060
Side View Story 04

18~23 Side 秋斗 01話

しおりを挟む
 昨日からずっと、彼女の脈拍は振動で伝わるままにしてある。とはいえ、バッテリーの持ちが悪いこともあり、パソコンを開いているときはツールバーの脈拍を音声表示にしていた。
 翌朝の今日も、彼女の脈拍は速い。
 きっと蒼樹あたりにからかわれているんだろう、なんて思いながら仕事に取り掛かると、いつもよりも捗るような気がしておかしかった。
 こんな気持ちは初めてだ。
 君は俺に余裕があるように見えるのかもしれないけど、実際のところは余裕なんて全然ない。君の脈拍に一挙一動している単純な男にすぎない。
 今までこんなにもかわいいと思える子には出逢ったことがなかったし、ここまで人にのめりこんだこともないのだから。
 今日も、授業が終われば彼女はここへ来る。それまでに粗方仕事を終わらせてしまおう。
 蒼樹が先に帰って盗聴器のチェックを済ませることを考えると、俺たちがここを出るのは五時半くらい。
 それまで君と何を話して過ごそうか――

 帰りのホームルームが終わる時間、校舎からは部室棟へ向かう生徒がちらほらと出てきている。しかし、その中に彼女の姿は見つけられなかった。
 それどころか、さっきから脈拍は速いままだしいったい何をしているのか……。
 きっと電話をかけるほどのことではないだろう。そう思いながらも通話ボタンを押す。
 コール音が数回鳴り、しばらくして聞こえてきたのは男の声だった。
 妙に聞き覚えのある声。間違いなく弟の海斗。
「なんでおまえが出るんだよ」
 気持ちそのままの言葉。俺も大概大人気ない。
『悪いね、俺で』
「翠葉ちゃんは?」
『目の前にいる』
 で、なんでおまえが出るんだよ……。
「脈拍かなり速いんだけど」
『え? 脈拍?』
「そう、具合悪かったりはしないよね?」
『あぁ、ただいま絶賛動揺中だからじゃね? 大丈夫だよ、元気っぽい』
「ならいいんだけど。そうだ、海斗、翠葉ちゃんを図書室まで送ってきてよ」
『うん、すぐ連れて行く。じゃ』
 海斗は彼女に換わることなく通話を切った。
 まぁ、いい……。海斗が連れてきてくれるなら安心だ。
 あいつは司と違って彼女に恋心を抱いてはいないようだから。
 司――あいつはどうするつもりなのか……。
 どうしようと渡すつもりはないし、譲るつもりもないけれど……。
 でも、あいつだってそろそろ自分の気持ちには気づくはずだ。
 その割に行動を起こさない。それが気になるといえば気になる。
 俺に遠慮してる……? まさか、それはない。
 司がそんな殊勝なことをするとは思えない。何か考えるところがあるのだろう。
 一番容赦ならないライバル――それが九つも年下の従弟殿なわけで、世も末っていうか、俺自身が末期なのかな?

 外を見ると彼女が歩いてくるのが見え、迎えに出ることにした。
 図書棟の入り口から彼女を見つめると、海斗が俺を指差し彼女に教える。が、どうしたことか、彼女は歩みを止めるは海斗の袖を掴んで引張るわその場に佇んでしまう。
 海斗は仕方ないなって感じで彼女と俺の間を塞ぐように間に立った。
 そのまま一、二分すると、海斗は再び彼女の隣に並ぶ。
 彼女と目が合い、自分が自然と笑顔になるのがわかる。表情筋の変化に、彼女の偉大さを改めて認識するわけで……。
 彼女は嬉しそうな表情で海斗を見上げ、海斗も屈託のない笑顔で応える。
 まいったな……弟にすら嫉妬しそうだ。
 海斗は俺に一瞥よこすと、そのまま部室棟へとつながる階段を下りていった。
「部活がんばってね」と彼女が声をかければ、振り返って「おう!」と答える。
 そんな彼女に近づき、
「海斗と何内緒話してたの?」
 彼女は、「ふふ」と笑って、
「秘密です」
「……ふーん。ちょっと面白くないな」
 これも本音。でも、彼女が笑っているならそれでいい。

 図書室にはいつもの生徒会メンバーが揃っている。
 データ処理をしていた嵐子ちゃんが翠葉ちゃんに気づき、声をかけてきた。
「翠葉、今日は体調いいの?」
「はい。昨日はまともに受け答えもできなくてすみませんでした」
 腰から上体を四十五度ほど傾けると、サラサラと前へ流れる彼女の髪に目を奪われる。あのケアが行き届いたきれいな髪の毛を独り占めしたい。
「そんなの気にしないで?」
 次に声をかけたのはカウンター内でモニターチェックをしていた茜ちゃん。
 カウンター内にはもうひとり――加納久。
 加納の動体視力は大したもので、二台のモニターをひとりでチェックできるという話を聞いたことがある。
 そのすてきな動体視力と合気道をうちの会社で発揮しないか、と話を持ちかけたところで、加納の道場を継ぐ人間であれば断られるに違いない。
 そんなことを考えていると、隣にいたはずの彼女は司のもとで話をしていた。
 椅子に座っている司に合わせて少し屈む彼女に思う。
 ……また無防備に至近距離まで近づいて――
 あまり見ていたい光景でもなく、先に仕事部屋のロックを解除する。
 そうしてふたりに視線を戻すと、先に司が気づき翠葉ちゃんに声をかけた。
 彼女はゆっくりと立ち上がり、俺を目が合うとにこりと笑って歩き出す。
 ただそれだけ――ただこちらを見て笑っただけ。なのに、それがひどく嬉しいと感じるのだからどうしたものかな。
 彼女を仕事部屋に入れ、後ろ手にドアを閉める。そして、
「今のも内緒話?」
「違いますよ。昨日のお礼です。……昨日、帰るときにはちゃんと言えなかったので……」
 海斗のときは教えてくれなかったけど、今度は教えてもらえた。ま、彼女の性格を考えればなんのために司のもとへ行ったのかは予想はついていたんだけど……。
「そういえばそうだったね。僕は昨日、嬉しい出来事があったからそのほかのことは全部忘れちゃったんだ」
 彼女は不思議そうな表情で首を傾げる。
 この子、昨日のメールは見たのかな?
 そうは思うけれど、「おやすみなさい」という一言のみの返信は届いた。いつもなら、メールを送ればすぐに返信があるのに、昨日はだいぶタイムラグw要して。
 恐らく、返信に悩み考えたけれど、「おやすみなさい」しか思いつかなかったのだろう。
 まだ不思議そうな顔をしているからヒントをあげる。
「あれ? 僕の勘違いだったかな? 苺みたいだった翠葉ちゃん?」
 どうやら思い出してくれたようだ。
 途端に顔が赤く染まる。それはもう、苺のように真っ赤に。
 どうしたことか、俺はその顔を見るとえらく嬉しくなる。
 クスクスと笑いながら腰をか屈め、
「それ、僕は喜んでいいんだよね?」
 顔を覗き込むと、彼女は下を向いて髪で顔を隠してしまった。これは彼女の常套手段なのだろう。
 でもさ、それもこうすれば見えるんだよ?
 向かって右側の髪を耳にかける。と、やっぱり首筋まで真っ赤になっていた。
 君は気づいていないんだろうね。恥ずかしそうな表情や真っ赤に染め上がった首筋に、俺がものすごくそそられるということを。
 そのまま右手を頬に添えるとタイミングよく上を向いてくれた。
 びっくりしている顔が本当にかわいいと思う。
 俺、決めたんだ。そういうことは全部伝えていこうって……。
「かわいいね」
 チャンスってこういうことを言うんだろうな。
 そのチャンスを逃すことなく、手を添えた反対側の頬にキスをした。
 顔を離してみれば、君は目を見開いてその場に座り込んでしまう。
 驚かせすぎただろうか……?
 キスをした頬に手を添えてびっくりしたままの顔でいるからなおさらかわいい。
 こういう反応は新鮮だな……。
 その呆けた顔がおかしくて、つい笑いが止まらなくなる。彼女の両肩に自分の手を乗せ自分も座り込む。
 ちょっとツボすぎた……。
 俺の仕業でここまで見事にいろんな反応を見せてくれる君がかわいくて仕方ない。
「……もう、秋斗さんひどいです。……笑いすぎ」
 小さな声で抗議してくる君。
「だって……本当にかわいすぎるよ」
「お願いだから、あまりいじめないでください……。ただでさえ心臓バクバクなのに」
 あ、自分で認めたね? でもさ、君だけじゃないんだよ。
 笑っている俺も、そんなに余裕があるわけじゃない。試しに俺の心臓の音を聞いてみない?
 肩に乗せていた手に少し力を入れて、彼女を自分に引き寄せる。
 伝わるかな……? 普段よりは鼓動が速いはずなんだけど……。
 彼女は俺の胸に耳を当ててじっと心音を聞いているようだった。
 いいな……ずっとこうしていたい。ずっと君を抱きしめていたい――
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...