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Side View Story 04
18~23 Side 秋斗 01話
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昨日からずっと、彼女の脈拍は振動で伝わるままにしてある。とはいえ、バッテリーの持ちが悪いこともあり、パソコンを開いているときはツールバーの脈拍を音声表示にしていた。
翌朝の今日も、彼女の脈拍は速い。
きっと蒼樹あたりにからかわれているんだろう、なんて思いながら仕事に取り掛かると、いつもよりも捗るような気がしておかしかった。
こんな気持ちは初めてだ。
君は俺に余裕があるように見えるのかもしれないけど、実際のところは余裕なんて全然ない。君の脈拍に一挙一動している単純な男にすぎない。
今までこんなにもかわいいと思える子には出逢ったことがなかったし、ここまで人にのめりこんだこともないのだから。
今日も、授業が終われば彼女はここへ来る。それまでに粗方仕事を終わらせてしまおう。
蒼樹が先に帰って盗聴器のチェックを済ませることを考えると、俺たちがここを出るのは五時半くらい。
それまで君と何を話して過ごそうか――
帰りのホームルームが終わる時間、校舎からは部室棟へ向かう生徒がちらほらと出てきている。しかし、その中に彼女の姿は見つけられなかった。
それどころか、さっきから脈拍は速いままだしいったい何をしているのか……。
きっと電話をかけるほどのことではないだろう。そう思いながらも通話ボタンを押す。
コール音が数回鳴り、しばらくして聞こえてきたのは男の声だった。
妙に聞き覚えのある声。間違いなく弟の海斗。
「なんでおまえが出るんだよ」
気持ちそのままの言葉。俺も大概大人気ない。
『悪いね、俺で』
「翠葉ちゃんは?」
『目の前にいる』
で、なんでおまえが出るんだよ……。
「脈拍かなり速いんだけど」
『え? 脈拍?』
「そう、具合悪かったりはしないよね?」
『あぁ、ただいま絶賛動揺中だからじゃね? 大丈夫だよ、元気っぽい』
「ならいいんだけど。そうだ、海斗、翠葉ちゃんを図書室まで送ってきてよ」
『うん、すぐ連れて行く。じゃ』
海斗は彼女に換わることなく通話を切った。
まぁ、いい……。海斗が連れてきてくれるなら安心だ。
あいつは司と違って彼女に恋心を抱いてはいないようだから。
司――あいつはどうするつもりなのか……。
どうしようと渡すつもりはないし、譲るつもりもないけれど……。
でも、あいつだってそろそろ自分の気持ちには気づくはずだ。
その割に行動を起こさない。それが気になるといえば気になる。
俺に遠慮してる……? まさか、それはない。
司がそんな殊勝なことをするとは思えない。何か考えるところがあるのだろう。
一番容赦ならないライバル――それが九つも年下の従弟殿なわけで、世も末っていうか、俺自身が末期なのかな?
外を見ると彼女が歩いてくるのが見え、迎えに出ることにした。
図書棟の入り口から彼女を見つめると、海斗が俺を指差し彼女に教える。が、どうしたことか、彼女は歩みを止めるは海斗の袖を掴んで引張るわその場に佇んでしまう。
海斗は仕方ないなって感じで彼女と俺の間を塞ぐように間に立った。
そのまま一、二分すると、海斗は再び彼女の隣に並ぶ。
彼女と目が合い、自分が自然と笑顔になるのがわかる。表情筋の変化に、彼女の偉大さを改めて認識するわけで……。
彼女は嬉しそうな表情で海斗を見上げ、海斗も屈託のない笑顔で応える。
まいったな……弟にすら嫉妬しそうだ。
海斗は俺に一瞥よこすと、そのまま部室棟へとつながる階段を下りていった。
「部活がんばってね」と彼女が声をかければ、振り返って「おう!」と答える。
そんな彼女に近づき、
「海斗と何内緒話してたの?」
彼女は、「ふふ」と笑って、
「秘密です」
「……ふーん。ちょっと面白くないな」
これも本音。でも、彼女が笑っているならそれでいい。
図書室にはいつもの生徒会メンバーが揃っている。
データ処理をしていた嵐子ちゃんが翠葉ちゃんに気づき、声をかけてきた。
「翠葉、今日は体調いいの?」
「はい。昨日はまともに受け答えもできなくてすみませんでした」
腰から上体を四十五度ほど傾けると、サラサラと前へ流れる彼女の髪に目を奪われる。あのケアが行き届いたきれいな髪の毛を独り占めしたい。
「そんなの気にしないで?」
次に声をかけたのはカウンター内でモニターチェックをしていた茜ちゃん。
カウンター内にはもうひとり――加納久。
加納の動体視力は大したもので、二台のモニターをひとりでチェックできるという話を聞いたことがある。
そのすてきな動体視力と合気道をうちの会社で発揮しないか、と話を持ちかけたところで、加納の道場を継ぐ人間であれば断られるに違いない。
そんなことを考えていると、隣にいたはずの彼女は司のもとで話をしていた。
椅子に座っている司に合わせて少し屈む彼女に思う。
……また無防備に至近距離まで近づいて――
あまり見ていたい光景でもなく、先に仕事部屋のロックを解除する。
そうしてふたりに視線を戻すと、先に司が気づき翠葉ちゃんに声をかけた。
彼女はゆっくりと立ち上がり、俺を目が合うとにこりと笑って歩き出す。
ただそれだけ――ただこちらを見て笑っただけ。なのに、それがひどく嬉しいと感じるのだからどうしたものかな。
彼女を仕事部屋に入れ、後ろ手にドアを閉める。そして、
「今のも内緒話?」
「違いますよ。昨日のお礼です。……昨日、帰るときにはちゃんと言えなかったので……」
海斗のときは教えてくれなかったけど、今度は教えてもらえた。ま、彼女の性格を考えればなんのために司のもとへ行ったのかは予想はついていたんだけど……。
「そういえばそうだったね。僕は昨日、嬉しい出来事があったからそのほかのことは全部忘れちゃったんだ」
彼女は不思議そうな表情で首を傾げる。
この子、昨日のメールは見たのかな?
そうは思うけれど、「おやすみなさい」という一言のみの返信は届いた。いつもなら、メールを送ればすぐに返信があるのに、昨日はだいぶタイムラグw要して。
恐らく、返信に悩み考えたけれど、「おやすみなさい」しか思いつかなかったのだろう。
まだ不思議そうな顔をしているからヒントをあげる。
「あれ? 僕の勘違いだったかな? 苺みたいだった翠葉ちゃん?」
どうやら思い出してくれたようだ。
途端に顔が赤く染まる。それはもう、苺のように真っ赤に。
どうしたことか、俺はその顔を見るとえらく嬉しくなる。
クスクスと笑いながら腰をか屈め、
「それ、僕は喜んでいいんだよね?」
顔を覗き込むと、彼女は下を向いて髪で顔を隠してしまった。これは彼女の常套手段なのだろう。
でもさ、それもこうすれば見えるんだよ?
向かって右側の髪を耳にかける。と、やっぱり首筋まで真っ赤になっていた。
君は気づいていないんだろうね。恥ずかしそうな表情や真っ赤に染め上がった首筋に、俺がものすごくそそられるということを。
そのまま右手を頬に添えるとタイミングよく上を向いてくれた。
びっくりしている顔が本当にかわいいと思う。
俺、決めたんだ。そういうことは全部伝えていこうって……。
「かわいいね」
チャンスってこういうことを言うんだろうな。
そのチャンスを逃すことなく、手を添えた反対側の頬にキスをした。
顔を離してみれば、君は目を見開いてその場に座り込んでしまう。
驚かせすぎただろうか……?
キスをした頬に手を添えてびっくりしたままの顔でいるからなおさらかわいい。
こういう反応は新鮮だな……。
その呆けた顔がおかしくて、つい笑いが止まらなくなる。彼女の両肩に自分の手を乗せ自分も座り込む。
ちょっとツボすぎた……。
俺の仕業でここまで見事にいろんな反応を見せてくれる君がかわいくて仕方ない。
「……もう、秋斗さんひどいです。……笑いすぎ」
小さな声で抗議してくる君。
「だって……本当にかわいすぎるよ」
「お願いだから、あまりいじめないでください……。ただでさえ心臓バクバクなのに」
あ、自分で認めたね? でもさ、君だけじゃないんだよ。
笑っている俺も、そんなに余裕があるわけじゃない。試しに俺の心臓の音を聞いてみない?
肩に乗せていた手に少し力を入れて、彼女を自分に引き寄せる。
伝わるかな……? 普段よりは鼓動が速いはずなんだけど……。
彼女は俺の胸に耳を当ててじっと心音を聞いているようだった。
いいな……ずっとこうしていたい。ずっと君を抱きしめていたい――
翌朝の今日も、彼女の脈拍は速い。
きっと蒼樹あたりにからかわれているんだろう、なんて思いながら仕事に取り掛かると、いつもよりも捗るような気がしておかしかった。
こんな気持ちは初めてだ。
君は俺に余裕があるように見えるのかもしれないけど、実際のところは余裕なんて全然ない。君の脈拍に一挙一動している単純な男にすぎない。
今までこんなにもかわいいと思える子には出逢ったことがなかったし、ここまで人にのめりこんだこともないのだから。
今日も、授業が終われば彼女はここへ来る。それまでに粗方仕事を終わらせてしまおう。
蒼樹が先に帰って盗聴器のチェックを済ませることを考えると、俺たちがここを出るのは五時半くらい。
それまで君と何を話して過ごそうか――
帰りのホームルームが終わる時間、校舎からは部室棟へ向かう生徒がちらほらと出てきている。しかし、その中に彼女の姿は見つけられなかった。
それどころか、さっきから脈拍は速いままだしいったい何をしているのか……。
きっと電話をかけるほどのことではないだろう。そう思いながらも通話ボタンを押す。
コール音が数回鳴り、しばらくして聞こえてきたのは男の声だった。
妙に聞き覚えのある声。間違いなく弟の海斗。
「なんでおまえが出るんだよ」
気持ちそのままの言葉。俺も大概大人気ない。
『悪いね、俺で』
「翠葉ちゃんは?」
『目の前にいる』
で、なんでおまえが出るんだよ……。
「脈拍かなり速いんだけど」
『え? 脈拍?』
「そう、具合悪かったりはしないよね?」
『あぁ、ただいま絶賛動揺中だからじゃね? 大丈夫だよ、元気っぽい』
「ならいいんだけど。そうだ、海斗、翠葉ちゃんを図書室まで送ってきてよ」
『うん、すぐ連れて行く。じゃ』
海斗は彼女に換わることなく通話を切った。
まぁ、いい……。海斗が連れてきてくれるなら安心だ。
あいつは司と違って彼女に恋心を抱いてはいないようだから。
司――あいつはどうするつもりなのか……。
どうしようと渡すつもりはないし、譲るつもりもないけれど……。
でも、あいつだってそろそろ自分の気持ちには気づくはずだ。
その割に行動を起こさない。それが気になるといえば気になる。
俺に遠慮してる……? まさか、それはない。
司がそんな殊勝なことをするとは思えない。何か考えるところがあるのだろう。
一番容赦ならないライバル――それが九つも年下の従弟殿なわけで、世も末っていうか、俺自身が末期なのかな?
外を見ると彼女が歩いてくるのが見え、迎えに出ることにした。
図書棟の入り口から彼女を見つめると、海斗が俺を指差し彼女に教える。が、どうしたことか、彼女は歩みを止めるは海斗の袖を掴んで引張るわその場に佇んでしまう。
海斗は仕方ないなって感じで彼女と俺の間を塞ぐように間に立った。
そのまま一、二分すると、海斗は再び彼女の隣に並ぶ。
彼女と目が合い、自分が自然と笑顔になるのがわかる。表情筋の変化に、彼女の偉大さを改めて認識するわけで……。
彼女は嬉しそうな表情で海斗を見上げ、海斗も屈託のない笑顔で応える。
まいったな……弟にすら嫉妬しそうだ。
海斗は俺に一瞥よこすと、そのまま部室棟へとつながる階段を下りていった。
「部活がんばってね」と彼女が声をかければ、振り返って「おう!」と答える。
そんな彼女に近づき、
「海斗と何内緒話してたの?」
彼女は、「ふふ」と笑って、
「秘密です」
「……ふーん。ちょっと面白くないな」
これも本音。でも、彼女が笑っているならそれでいい。
図書室にはいつもの生徒会メンバーが揃っている。
データ処理をしていた嵐子ちゃんが翠葉ちゃんに気づき、声をかけてきた。
「翠葉、今日は体調いいの?」
「はい。昨日はまともに受け答えもできなくてすみませんでした」
腰から上体を四十五度ほど傾けると、サラサラと前へ流れる彼女の髪に目を奪われる。あのケアが行き届いたきれいな髪の毛を独り占めしたい。
「そんなの気にしないで?」
次に声をかけたのはカウンター内でモニターチェックをしていた茜ちゃん。
カウンター内にはもうひとり――加納久。
加納の動体視力は大したもので、二台のモニターをひとりでチェックできるという話を聞いたことがある。
そのすてきな動体視力と合気道をうちの会社で発揮しないか、と話を持ちかけたところで、加納の道場を継ぐ人間であれば断られるに違いない。
そんなことを考えていると、隣にいたはずの彼女は司のもとで話をしていた。
椅子に座っている司に合わせて少し屈む彼女に思う。
……また無防備に至近距離まで近づいて――
あまり見ていたい光景でもなく、先に仕事部屋のロックを解除する。
そうしてふたりに視線を戻すと、先に司が気づき翠葉ちゃんに声をかけた。
彼女はゆっくりと立ち上がり、俺を目が合うとにこりと笑って歩き出す。
ただそれだけ――ただこちらを見て笑っただけ。なのに、それがひどく嬉しいと感じるのだからどうしたものかな。
彼女を仕事部屋に入れ、後ろ手にドアを閉める。そして、
「今のも内緒話?」
「違いますよ。昨日のお礼です。……昨日、帰るときにはちゃんと言えなかったので……」
海斗のときは教えてくれなかったけど、今度は教えてもらえた。ま、彼女の性格を考えればなんのために司のもとへ行ったのかは予想はついていたんだけど……。
「そういえばそうだったね。僕は昨日、嬉しい出来事があったからそのほかのことは全部忘れちゃったんだ」
彼女は不思議そうな表情で首を傾げる。
この子、昨日のメールは見たのかな?
そうは思うけれど、「おやすみなさい」という一言のみの返信は届いた。いつもなら、メールを送ればすぐに返信があるのに、昨日はだいぶタイムラグw要して。
恐らく、返信に悩み考えたけれど、「おやすみなさい」しか思いつかなかったのだろう。
まだ不思議そうな顔をしているからヒントをあげる。
「あれ? 僕の勘違いだったかな? 苺みたいだった翠葉ちゃん?」
どうやら思い出してくれたようだ。
途端に顔が赤く染まる。それはもう、苺のように真っ赤に。
どうしたことか、俺はその顔を見るとえらく嬉しくなる。
クスクスと笑いながら腰をか屈め、
「それ、僕は喜んでいいんだよね?」
顔を覗き込むと、彼女は下を向いて髪で顔を隠してしまった。これは彼女の常套手段なのだろう。
でもさ、それもこうすれば見えるんだよ?
向かって右側の髪を耳にかける。と、やっぱり首筋まで真っ赤になっていた。
君は気づいていないんだろうね。恥ずかしそうな表情や真っ赤に染め上がった首筋に、俺がものすごくそそられるということを。
そのまま右手を頬に添えるとタイミングよく上を向いてくれた。
びっくりしている顔が本当にかわいいと思う。
俺、決めたんだ。そういうことは全部伝えていこうって……。
「かわいいね」
チャンスってこういうことを言うんだろうな。
そのチャンスを逃すことなく、手を添えた反対側の頬にキスをした。
顔を離してみれば、君は目を見開いてその場に座り込んでしまう。
驚かせすぎただろうか……?
キスをした頬に手を添えてびっくりしたままの顔でいるからなおさらかわいい。
こういう反応は新鮮だな……。
その呆けた顔がおかしくて、つい笑いが止まらなくなる。彼女の両肩に自分の手を乗せ自分も座り込む。
ちょっとツボすぎた……。
俺の仕業でここまで見事にいろんな反応を見せてくれる君がかわいくて仕方ない。
「……もう、秋斗さんひどいです。……笑いすぎ」
小さな声で抗議してくる君。
「だって……本当にかわいすぎるよ」
「お願いだから、あまりいじめないでください……。ただでさえ心臓バクバクなのに」
あ、自分で認めたね? でもさ、君だけじゃないんだよ。
笑っている俺も、そんなに余裕があるわけじゃない。試しに俺の心臓の音を聞いてみない?
肩に乗せていた手に少し力を入れて、彼女を自分に引き寄せる。
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