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14 Side 蒼樹 02話
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「あのさ、俺と結婚式してくれない?」
「……蒼樹さん、話が飛躍しているか何か言葉を間違えているか、相手を間違えているか言葉が足りてないか、どれか当てはまりませんかしら」
もっともだ……。
「事情があって、ウィステリアホテルのパンフレット、ウェディングのモデルに抜擢されたんだけど、相手役の女の子は俺が選んでいいことになってて、俺が用意できなかった場合はホテル側が用意したモデルさん相手にやることになってる」
これがゲストルームを間借りさせてもらうために静さんに出された条件のひとつだった。
「質問です。それでなんで私が相手なのでしょう」
左から感じる視線が痛い……。
「君以外に思いつかなかったから?」
覚悟を決めて簾条さんに視線を移すと、簾条さんは珍しくうろたえていた。
「意味がわかりません……」
そう言って俯いてしまう。
またしても、いつもの簾条さんらしくない行動。普段の彼女ならこっちを見据えて質問してくるだろう。
「意味……か。俺、モデルのバイト経験なんてないし、ましてや初めての仕事がウェディングのパンフレット。仮にも挙式の形をとるわけですよ。それになんとも思ってない人と並びたくないからっていうのが理由」
「勘違いするようなこと言わないでくださいっ」
勘違い、か。別に勘違いってわけじゃないんだけど……。
うん、この際勘違いしてもらって全然かまわない。
「……勘違いしていいよ」
そう答えると、簾条さんは目を見開いた。
「蒼樹さんっ、からかうのもいい加減にしてくださいっ」
「ごめん……からかってるつもりはまったくないんだ。もっと時間をかけてお互いを知ってから打ち明けるつもりだったけど……俺はたぶん、簾条さんに惹かれてる」
彼女はさらにうろたえた。
「だから、相手役を選ぶとしたら、君以外には考えられなかった」
さて、俺はこれで玉砕するんだろうか……。
「わかりました、引き受けます。その代わり、こちらも引き受けてもらいますからね」
そう口にして顔を上げた彼女は、小悪魔的な笑みを浮かべていた。
「来週の日曜日、ちょっとしたパーティーに出なくてはいけなくて、でも、私はそれに出席したくないんです」
これはいったいなんの話だろう……。
「そこに集る人たちは私の花婿候補だから。そのとき、私のエスコートをしてくださいませんか?」
それって――
「相手が誰でもいいわけじゃないんです。私、自分の相手は自分で決めたいので……。家に対して食って掛かるつもりです。それには、隣に好きな人に並んでもらわないと困るんです……」
え……。
「蒼樹さん、何か言ってください……」
「っていうか、俺も誤解をしそうなんだけど……」
俺にその相手を頼むっていうのは――俺を好きって誤解するよ?
「誤解していただいて結構です」
「……ごめん、はっきりと口にさせてもらう。俺は簾条さんが好きだ」
「私も、蒼樹さんが好きです」
まさか、こんな展開が待ち受けているなんて誰が思っただろう。
「カフェで話すような内容でもなかったけど……」
「車の中で話すような内容でもなかったですね」
ふたり見合わせ肩を揺らして笑う。
緊張していた糸が緩む瞬間ってこんな感じだろうな。
「年の差で言うなら翠葉と秋斗先輩と変わらないんだけど、俺と付き合ってもらえるかな?」
「……喜んで」
ほのかに頬を染めた彼女が愛おしいと思った。
「ひとつお願いが……」
彼女が言いづらそうに口にする。
「ん?」
「名前で呼んでもらえますか?」
「……桃華さん? 桃華ちゃん?」
「桃華、が希望です」
……かわいいな。
「了解。じゃぁ桃華って呼ばせてもらう」
彼女は嬉しそうにはにかんだ。
「あと、今週学校のあとに少しだけお付き合いいただきたいんですっ」
「なんだろ?」
「本当は着物で出席しなくてはいけないのですが、どうしてもドレスで行きたくて」
「……もしかしなくてもかなり大ごと?」
「……それ相応に」
彼女は肩を竦めて見せる。
これは静さんにご助力いただくかな……。
俺の相手役とわかれば惜しまず協力してもらえるだろう。
「わかった。じゃ、ドレスのショップは俺に任せてもらえる?」
「え?」
「ホテルのオーナーが絶対に力になってくれるから」
安心させるように声をかけると、
「……助かります」
今度は彼女の肩から力が抜けた。
「よし、じゃ今度こそ家まで送るよ」
「はい」
まいったな……。俺、やっぱり彼女を好きになった……。
翠葉、年の差なんて関係ないよ。惹かれるものは惹かれる。
会った時間が少なかろうと多かろうと、惹かれることにはさほど問題ないのかもしれない。
今日の夜、そんなことを話せたらいいな……。
「ところで、これって翠葉に言ってもいいこと?」
「あの子、今はそれどころじゃないから少し待ちましょう?」
それもそうか……。
「じゃ、言うタイミングは桃華に任せるよ」
「わかりました」
相変わらず大きな門構えの前で彼女を降ろすと、軽くお辞儀をして通用口から敷地内へと入っていった。
車を発進させつつ、
「華道の家元、十五歳の彼女にお見合い話、ね……」
藤宮よりも堅いんじゃないか?
でも、おかげで意志の疎通ができた、かな。
恋愛におけるドキドキ感はとくにない。どっちかと言うならば、面食らった感が満載だ。
ただ、彼女が隣にいると嬉しいと思う。話をしていて楽しいと思うし、どうしてか安心感を得られる。
彼女が見せる表情をひとつひとつ知るたびに幸せだと感じる。
人を好きになるってこういうことをいうものなのかもしれない。
やっと、わかった気がした――
何にせよ、彼女は翠葉とはまったく違う。
歴代の彼女たちはどこか翠葉の影を追っていた感が否めない。けれど、どこを見ても彼女には翠葉の影は見えない。
そして、今まで付き合ってきた相手と決定的に異なるのは、翠葉を大切に思ってくれていること。
翠葉が原因で別れることはなさそうだ。
それどころか、翠葉を彼女に取られそうな気がしてならないのは気のせいだろうか……。
いやいやいや……それでも別にかまわないけれど、独占されると少し寂しい気はするかな。
こんなふうに思うのは初めてだ。
彼女を――桃華を大切にしよう。翠葉と同じくらいに大切にしよう。
……彼女はまだ高校一年生だ。向上心ある彼女のことだから、きっと大学にも進むだろう。そのころには俺も職に就いていたい。
自分ひとりではなく相手を含めての未来を想像しながら、心にあたたかい想いを抱え、翠葉の待つゲストルームへと急いだ。
「……蒼樹さん、話が飛躍しているか何か言葉を間違えているか、相手を間違えているか言葉が足りてないか、どれか当てはまりませんかしら」
もっともだ……。
「事情があって、ウィステリアホテルのパンフレット、ウェディングのモデルに抜擢されたんだけど、相手役の女の子は俺が選んでいいことになってて、俺が用意できなかった場合はホテル側が用意したモデルさん相手にやることになってる」
これがゲストルームを間借りさせてもらうために静さんに出された条件のひとつだった。
「質問です。それでなんで私が相手なのでしょう」
左から感じる視線が痛い……。
「君以外に思いつかなかったから?」
覚悟を決めて簾条さんに視線を移すと、簾条さんは珍しくうろたえていた。
「意味がわかりません……」
そう言って俯いてしまう。
またしても、いつもの簾条さんらしくない行動。普段の彼女ならこっちを見据えて質問してくるだろう。
「意味……か。俺、モデルのバイト経験なんてないし、ましてや初めての仕事がウェディングのパンフレット。仮にも挙式の形をとるわけですよ。それになんとも思ってない人と並びたくないからっていうのが理由」
「勘違いするようなこと言わないでくださいっ」
勘違い、か。別に勘違いってわけじゃないんだけど……。
うん、この際勘違いしてもらって全然かまわない。
「……勘違いしていいよ」
そう答えると、簾条さんは目を見開いた。
「蒼樹さんっ、からかうのもいい加減にしてくださいっ」
「ごめん……からかってるつもりはまったくないんだ。もっと時間をかけてお互いを知ってから打ち明けるつもりだったけど……俺はたぶん、簾条さんに惹かれてる」
彼女はさらにうろたえた。
「だから、相手役を選ぶとしたら、君以外には考えられなかった」
さて、俺はこれで玉砕するんだろうか……。
「わかりました、引き受けます。その代わり、こちらも引き受けてもらいますからね」
そう口にして顔を上げた彼女は、小悪魔的な笑みを浮かべていた。
「来週の日曜日、ちょっとしたパーティーに出なくてはいけなくて、でも、私はそれに出席したくないんです」
これはいったいなんの話だろう……。
「そこに集る人たちは私の花婿候補だから。そのとき、私のエスコートをしてくださいませんか?」
それって――
「相手が誰でもいいわけじゃないんです。私、自分の相手は自分で決めたいので……。家に対して食って掛かるつもりです。それには、隣に好きな人に並んでもらわないと困るんです……」
え……。
「蒼樹さん、何か言ってください……」
「っていうか、俺も誤解をしそうなんだけど……」
俺にその相手を頼むっていうのは――俺を好きって誤解するよ?
「誤解していただいて結構です」
「……ごめん、はっきりと口にさせてもらう。俺は簾条さんが好きだ」
「私も、蒼樹さんが好きです」
まさか、こんな展開が待ち受けているなんて誰が思っただろう。
「カフェで話すような内容でもなかったけど……」
「車の中で話すような内容でもなかったですね」
ふたり見合わせ肩を揺らして笑う。
緊張していた糸が緩む瞬間ってこんな感じだろうな。
「年の差で言うなら翠葉と秋斗先輩と変わらないんだけど、俺と付き合ってもらえるかな?」
「……喜んで」
ほのかに頬を染めた彼女が愛おしいと思った。
「ひとつお願いが……」
彼女が言いづらそうに口にする。
「ん?」
「名前で呼んでもらえますか?」
「……桃華さん? 桃華ちゃん?」
「桃華、が希望です」
……かわいいな。
「了解。じゃぁ桃華って呼ばせてもらう」
彼女は嬉しそうにはにかんだ。
「あと、今週学校のあとに少しだけお付き合いいただきたいんですっ」
「なんだろ?」
「本当は着物で出席しなくてはいけないのですが、どうしてもドレスで行きたくて」
「……もしかしなくてもかなり大ごと?」
「……それ相応に」
彼女は肩を竦めて見せる。
これは静さんにご助力いただくかな……。
俺の相手役とわかれば惜しまず協力してもらえるだろう。
「わかった。じゃ、ドレスのショップは俺に任せてもらえる?」
「え?」
「ホテルのオーナーが絶対に力になってくれるから」
安心させるように声をかけると、
「……助かります」
今度は彼女の肩から力が抜けた。
「よし、じゃ今度こそ家まで送るよ」
「はい」
まいったな……。俺、やっぱり彼女を好きになった……。
翠葉、年の差なんて関係ないよ。惹かれるものは惹かれる。
会った時間が少なかろうと多かろうと、惹かれることにはさほど問題ないのかもしれない。
今日の夜、そんなことを話せたらいいな……。
「ところで、これって翠葉に言ってもいいこと?」
「あの子、今はそれどころじゃないから少し待ちましょう?」
それもそうか……。
「じゃ、言うタイミングは桃華に任せるよ」
「わかりました」
相変わらず大きな門構えの前で彼女を降ろすと、軽くお辞儀をして通用口から敷地内へと入っていった。
車を発進させつつ、
「華道の家元、十五歳の彼女にお見合い話、ね……」
藤宮よりも堅いんじゃないか?
でも、おかげで意志の疎通ができた、かな。
恋愛におけるドキドキ感はとくにない。どっちかと言うならば、面食らった感が満載だ。
ただ、彼女が隣にいると嬉しいと思う。話をしていて楽しいと思うし、どうしてか安心感を得られる。
彼女が見せる表情をひとつひとつ知るたびに幸せだと感じる。
人を好きになるってこういうことをいうものなのかもしれない。
やっと、わかった気がした――
何にせよ、彼女は翠葉とはまったく違う。
歴代の彼女たちはどこか翠葉の影を追っていた感が否めない。けれど、どこを見ても彼女には翠葉の影は見えない。
そして、今まで付き合ってきた相手と決定的に異なるのは、翠葉を大切に思ってくれていること。
翠葉が原因で別れることはなさそうだ。
それどころか、翠葉を彼女に取られそうな気がしてならないのは気のせいだろうか……。
いやいやいや……それでも別にかまわないけれど、独占されると少し寂しい気はするかな。
こんなふうに思うのは初めてだ。
彼女を――桃華を大切にしよう。翠葉と同じくらいに大切にしよう。
……彼女はまだ高校一年生だ。向上心ある彼女のことだから、きっと大学にも進むだろう。そのころには俺も職に就いていたい。
自分ひとりではなく相手を含めての未来を想像しながら、心にあたたかい想いを抱え、翠葉の待つゲストルームへと急いだ。
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