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22 Side 美乃里 01話
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「ねぇ、理美……翠葉ちゃん単独行動多くない?」
部活前、更衣室で理美と話をしていた。
「う~ん……ちょっと困ってるんだよね」
理美はらしくなく眉をひそめる。
「どういうこと?」
「なんていうか、基本的には単独行動の子なのかもしれない」
話を聞けば、移動教室のときはクラス全体が移動することもあり集団で移動するらしいけど、トイレや保健室へ行くときは、周りに気づかれないように教室を出ることが多いのだとか。
「でも今は――」
「うん、そうなんだよね。わかってるからこっちも気にしてはいるんだけど……」
と言葉を濁す。
「何? 理美らしくもない」
「うーん、翠ちんがさ、呼び出しに来る女子たちと話したいみたいなんだよ」
まぁ、なんて変わった子……。
千里を覚えられないという時点で変わった子だとは思っていたけれど、それとはまた別次元で不思議な感覚の持ち主だ。
「実はね、この間女子トイレでそういうの見ちゃって」
と、私は先日見た出来事を話すことにした。
今考えてみれば、もしかしたら私は余計なことをしてしまったのだろうか――
二限の体育の授業が終わり、着替える際にヘアピンをひっかけてしまった私は髪型が崩れた。
すぐにでも直したかったのだけど、更衣室と教室が離れているため、三限はそのままの状態で我慢。三限が終わってからそれを直すためにトイレへ行ったのだ。
乙女たるもの、人前で身だしなみを直すべからず、よ。
休み時間も予習復習――そんな学校だから廊下はガランとしていて人がいない。しかし、トイレまで行くと誰かに会うことは時々ある。
その日そこで見たものは間違いなく呼び出されていると思しき光景だった。
窓際に詰め寄られていたのは翠葉ちゃんだった。
「ちょっと、何してるの?」
呼び出している人間が見知った人だったこともあり、なんの躊躇いもなく声をかけた。
「みのっ――」
私がこういうことに嫌悪感を抱くのを知っている彼女たちは少し困った顔をした。その時点で呼び出し決定。
「翠葉ちゃん、何言われたの?」
彼女のもとまで行き尋ねると、彼女は「ん?」ときょとんとした顔をした。
状況が状況だけに不謹慎なんだけど――はぁ、かわいいわ。千里が一目惚れするのもわかる。私が男でも惚れる。いや、女でも惚れる。
そんなことを考えている私をよそに、
「言われた、というか……お話をしていただけよ?」
翠葉ちゃんはそう答えた。黒目がちなきれいな瞳を私に向けて。
その目は彼女たちが怖くて言えない、というふうでもなければ、彼女たちをかばっているという感じでもなく、ただ本当に「話してただけだよ?」と素で返された気がした。
気にはなったものの、「そう?」と訊けば、「うん」と普通に笑うものだから、ちょっとその場に留まることにしたのだ。
「私、髪の毛を直しに来ただけだから、続きどうぞ? でも、トイレでお話ってかなりおかしな状況だけど」
私はチクチクと嫌みを添えて鏡に向かった。
鏡には、翠葉ちゃんの顔が映っていて、表情を見ることも可能。
「えと……つまり、ツカサと話したくて、でも話せないんですよね?」
話の内容に耳を疑いたくなる。
「あの、ツカサにも話しているのだけど、女の子が苦手って取り合ってもらえなくて……。でも、まだがんばって説得しているからもう少し待ってもらえますか?」
これ何……? なんの話?
「あ、でも、ツカサから話しかけてくるというのはかなりハードルが高いから、できれば話しかけてみてほしいな……」
翠葉ちゃんはものすごく一生懸命に話していた。挙句、
「たぶん、想像しているほど怖い人じゃないから」
と、どうしたことか藤宮先輩の擁護までする。
これ、なんなのかしら――。
呼び出した側であろう、麗と朱莉の表情を盗み見れば、きょとんとしていた。朱莉なんて口をポカンと開けている始末だ。
たぶん、言ったことに対して的外れな答えが返ってきたか、話の方向がとんでもなくずれたか
――そんなところだろう。
そこで思い出す。
彼女の脳内変換力の素晴らしさは千里の折り紙つきだということを。
もう少しことの成り行きを見守りたいところだけど、あと少しで始業チャイムが鳴る。だとしたら、棟の中ほどにあるトイレから、桜林館寄りにある一年B組へ戻るのにはそろそろここを出なくてはいけないだろう。
「翠葉ちゃん、そろそろ戻らないと始業チャイムが鳴るよ」
ヘアピンも直し終え後ろを向くと、彼女は時計に目をやり、「わ……」と驚いた顔をした。そして、次に口にした言葉は、
「ごめんなさい。教室に戻らなくちゃ……。またお時間があるときに声をかけてください」
そんな彼女を見送り、後ろにいるふたりに目をやる。
「ご感想は?」
訊いてみたくもなるというものだ。
「みの……私たちね、藤宮先輩に近寄らないでって言ったの」
と、そこにはもういない彼女の残像でも見るように麗が口にした。
「そしたら……」
と、朱莉が続けるけれど、
「その返事がさっきの翠葉ちゃんの答えだったのね?」
私だって聞いていたわよ。
「そう、なんかずれてる……?」
ふたり揃って私に答えを求めてくる。
ずれてると言えばずれてるのだろうけれど、どうしたことかプラス思考と思えなくもない。少なくとも、呼び出されたことに萎縮はしていなかったと思う。
理美の話だと、翠葉ちゃんは中学のときに結構嫌な思いをしてきているようだったから、そのあたりを心配して声をかけたのだけど、彼女に異変は見られなかった。それどころか笑みすら浮かべていた。
「脳内変換力の素晴らしさなら、千里あたりから聞けるわよ?」
そこでチャイムが鳴った。
「ふたりともっ、その話はまた放課後ねっ!」
そう言って、各自教室へと猛ダッシュしたのだった。
麗と朱莉は女バスの部員であり、女子力向上委員のメンバーでもある。
麗はきれい系の顔をしており、朱莉はかわいい系。ふたりとも猫目できりっとして見える分、こういう場ではかなりきつい顔に見えると思う。
それでも、翠葉ちゃんが臆しているようには見えなかった。
部活前、更衣室で理美と話をしていた。
「う~ん……ちょっと困ってるんだよね」
理美はらしくなく眉をひそめる。
「どういうこと?」
「なんていうか、基本的には単独行動の子なのかもしれない」
話を聞けば、移動教室のときはクラス全体が移動することもあり集団で移動するらしいけど、トイレや保健室へ行くときは、周りに気づかれないように教室を出ることが多いのだとか。
「でも今は――」
「うん、そうなんだよね。わかってるからこっちも気にしてはいるんだけど……」
と言葉を濁す。
「何? 理美らしくもない」
「うーん、翠ちんがさ、呼び出しに来る女子たちと話したいみたいなんだよ」
まぁ、なんて変わった子……。
千里を覚えられないという時点で変わった子だとは思っていたけれど、それとはまた別次元で不思議な感覚の持ち主だ。
「実はね、この間女子トイレでそういうの見ちゃって」
と、私は先日見た出来事を話すことにした。
今考えてみれば、もしかしたら私は余計なことをしてしまったのだろうか――
二限の体育の授業が終わり、着替える際にヘアピンをひっかけてしまった私は髪型が崩れた。
すぐにでも直したかったのだけど、更衣室と教室が離れているため、三限はそのままの状態で我慢。三限が終わってからそれを直すためにトイレへ行ったのだ。
乙女たるもの、人前で身だしなみを直すべからず、よ。
休み時間も予習復習――そんな学校だから廊下はガランとしていて人がいない。しかし、トイレまで行くと誰かに会うことは時々ある。
その日そこで見たものは間違いなく呼び出されていると思しき光景だった。
窓際に詰め寄られていたのは翠葉ちゃんだった。
「ちょっと、何してるの?」
呼び出している人間が見知った人だったこともあり、なんの躊躇いもなく声をかけた。
「みのっ――」
私がこういうことに嫌悪感を抱くのを知っている彼女たちは少し困った顔をした。その時点で呼び出し決定。
「翠葉ちゃん、何言われたの?」
彼女のもとまで行き尋ねると、彼女は「ん?」ときょとんとした顔をした。
状況が状況だけに不謹慎なんだけど――はぁ、かわいいわ。千里が一目惚れするのもわかる。私が男でも惚れる。いや、女でも惚れる。
そんなことを考えている私をよそに、
「言われた、というか……お話をしていただけよ?」
翠葉ちゃんはそう答えた。黒目がちなきれいな瞳を私に向けて。
その目は彼女たちが怖くて言えない、というふうでもなければ、彼女たちをかばっているという感じでもなく、ただ本当に「話してただけだよ?」と素で返された気がした。
気にはなったものの、「そう?」と訊けば、「うん」と普通に笑うものだから、ちょっとその場に留まることにしたのだ。
「私、髪の毛を直しに来ただけだから、続きどうぞ? でも、トイレでお話ってかなりおかしな状況だけど」
私はチクチクと嫌みを添えて鏡に向かった。
鏡には、翠葉ちゃんの顔が映っていて、表情を見ることも可能。
「えと……つまり、ツカサと話したくて、でも話せないんですよね?」
話の内容に耳を疑いたくなる。
「あの、ツカサにも話しているのだけど、女の子が苦手って取り合ってもらえなくて……。でも、まだがんばって説得しているからもう少し待ってもらえますか?」
これ何……? なんの話?
「あ、でも、ツカサから話しかけてくるというのはかなりハードルが高いから、できれば話しかけてみてほしいな……」
翠葉ちゃんはものすごく一生懸命に話していた。挙句、
「たぶん、想像しているほど怖い人じゃないから」
と、どうしたことか藤宮先輩の擁護までする。
これ、なんなのかしら――。
呼び出した側であろう、麗と朱莉の表情を盗み見れば、きょとんとしていた。朱莉なんて口をポカンと開けている始末だ。
たぶん、言ったことに対して的外れな答えが返ってきたか、話の方向がとんでもなくずれたか
――そんなところだろう。
そこで思い出す。
彼女の脳内変換力の素晴らしさは千里の折り紙つきだということを。
もう少しことの成り行きを見守りたいところだけど、あと少しで始業チャイムが鳴る。だとしたら、棟の中ほどにあるトイレから、桜林館寄りにある一年B組へ戻るのにはそろそろここを出なくてはいけないだろう。
「翠葉ちゃん、そろそろ戻らないと始業チャイムが鳴るよ」
ヘアピンも直し終え後ろを向くと、彼女は時計に目をやり、「わ……」と驚いた顔をした。そして、次に口にした言葉は、
「ごめんなさい。教室に戻らなくちゃ……。またお時間があるときに声をかけてください」
そんな彼女を見送り、後ろにいるふたりに目をやる。
「ご感想は?」
訊いてみたくもなるというものだ。
「みの……私たちね、藤宮先輩に近寄らないでって言ったの」
と、そこにはもういない彼女の残像でも見るように麗が口にした。
「そしたら……」
と、朱莉が続けるけれど、
「その返事がさっきの翠葉ちゃんの答えだったのね?」
私だって聞いていたわよ。
「そう、なんかずれてる……?」
ふたり揃って私に答えを求めてくる。
ずれてると言えばずれてるのだろうけれど、どうしたことかプラス思考と思えなくもない。少なくとも、呼び出されたことに萎縮はしていなかったと思う。
理美の話だと、翠葉ちゃんは中学のときに結構嫌な思いをしてきているようだったから、そのあたりを心配して声をかけたのだけど、彼女に異変は見られなかった。それどころか笑みすら浮かべていた。
「脳内変換力の素晴らしさなら、千里あたりから聞けるわよ?」
そこでチャイムが鳴った。
「ふたりともっ、その話はまた放課後ねっ!」
そう言って、各自教室へと猛ダッシュしたのだった。
麗と朱莉は女バスの部員であり、女子力向上委員のメンバーでもある。
麗はきれい系の顔をしており、朱莉はかわいい系。ふたりとも猫目できりっとして見える分、こういう場ではかなりきつい顔に見えると思う。
それでも、翠葉ちゃんが臆しているようには見えなかった。
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