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25 Side 唯 02話
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「あ、秋斗さん?」
『若槻、そこで何をしてる?』
まぁ、これをいじれるのは俺と秋斗さんしかいないからね。
俺に連絡をしてくるのは当たり前。
「ちょっとリィ絡みで学校に来てます。生徒会の仕事をゲストルームでできるようにするためにルート形成したいんですけどいいですか?」
『おまえ、俺から連絡が入ること見越してただろ……』
「えー、やだなー、そんなことないですよー」
思い切り棒読みで、否定句を口にしながら肯定する。
笑いを堪えながらそんな話をしていると、俺の近くにいた司っちが呆れてものが言えないとでもいうように、メガネ中央のブリッジ部分を中指と人差し指で押し上げた。
ホント、こういう仕草まで様になっちゃうわけだ。
格好いい子だねぇ……。リィが見惚れるのもわかるよ。
しかも、素っ気無いなんて罪人、罪人。あ、でも、笑ってたら色んな意味でもっと罪人っぽいよね。
ま、つまるところはベストオブ罪人賞決定。
「ハッキングで済ませようと思ってたんですけど、司っちに正規ルートを通せって言われたから秋斗さんのマシンつなげさせてもらってます」
『あぁ、そういうことならかまわない。上には俺から連絡を入れておく。……翠葉ちゃんは?』
「午前に相馬先生とガチンコ対決して、そのあとは治療。今は自宅で強制的に睡眠取らされてますよ」
『そう……』
「因みに、明日は学校も欠席です。でも、リィが生徒会を辞めなくても済むように、今俺がここにいるのでご心配なさらず。なので、これから数時間は仕事振らないでくださいね」
『わかった、任せる』
通話を切り、
「よっし、これで仕事が振られることもない、っと……」
「俺に手伝えることがないのなら、向こうの作業に戻りたいのですが」
「ん? それは司っちが決めていいよ。聞くか聞かないかは君の自由だし」
司っちの顔を見なくても、思い切り怪訝そうな顔をしているのが気配でわかる。
「リィがなんで今日休みで明日も休みなのか。……知りたくない?」
顔を上げて立ったままの司っちを見上げると、表情が固まっていた。
「俺は知りたいんじゃないかと思ってたんだけど?」
ほら、言いなよ。知りたい、ってさ。人間素直なほうが得するんだよ?
「……教えていただけるのなら」
意外と丁寧なお願いをされた。
「うん、時間をちょうだいって言ったのはそういう意味」
すると、
「コーヒーに砂糖は?」
どうやら聞く態勢を整えるためにコーヒーを淹れることにしたらしい。
「スティックシュガー四本」
司っちは目を瞠る。
「だぁってさぁ、これからちょこっとだけ頭使うし、糖分は必須なわけですよ」
それでも納得しがたそうに簡易キッチンへ足を運ぶ彼がおかしかった。
あぁ、司っちって海斗っちとは違う面白さがあるよね。
ノリとかそういうのじゃなくて、反応ひとつひとつが俺にとってはなんだか新鮮。癖になりそう……。
どうしよう……。秋斗さん、この子俺に譲ってくんないかな?
ま、それはさておき――
自分が持ってきたノートパソコンと秋斗さんのマシンの接続を済ませてから、秋斗さんが使っているディスプレイのひとつにリィのバイタルを表示させた。
「それ、見ていいよ。内緒だけどね」
コトリ、と音を立ててダイニングテーブルにコーヒーカップとシュガースティック四本が置かれた。
どうやら、砂糖を入れる行為には抵抗があった模様。
ま、そのくらい自分でやるけどね。
司っちはディスプレイに釘付けになった。
秋斗さんから話は聞いてる。
彼は医者になるべく、すでに医学の勉強に手をつけていることも。
だから、それらが何を指すのかもわかるのだろう。
心電図のような波形は出ない。それでも、数値を追えば見えてくるものはある。
「ごめんね。司っちと海斗っちのバイタルの転送を打ち切ってくれって言い出したの俺なんだ。しかも、携帯から消去作業したのも俺。過去データから再現不可能にしたのも俺。恨んでくれてかまわないけどね」
俺の言葉なんて耳に入っていないみたいにデータを遡って見ているようだった。
「……翠は何を服用したんですか?」
だいたい目星はついてるんだろうな。
リィが手に入れられるものなんてそうたくさんあるわけじゃないんだから。
でも、訊かずにはいられない。そんなとこ。
それは、知っていながら黙認していた俺たちに文句を言うため?
「俺が普段飲んでる滋養強壮剤」
答えるまでもない回答を口にすると、
「これを知っていながらなんで周りの人間はっっっ――」
低い声音で話し始め、最後には声を荒げた。
「……ふーん、君みたいな子でも声を荒げたりするんだ。ちょっと意外」
鋭利な刃物のような視線を向けられるのは想定済み。
「そう、みんな知ってて黙って見てた。君は知っていたらどうした?」
「すぐに止めさせる」
即答だった。
「そう……迷わず止めたでしょ? でも、それじゃだめだったんだ。あれもだめこれもだめ――そう言われ続けたリィが最後に取った行動がこれだったんだから。みんなひやひやしながら見守っていたんだ。で、今日には相馬先生に呼び出されてガチンコ対決。すごかったよ。相馬先生の白衣にしわがあったから、もしかしたらリィが掴みかかったのかもね。ま、なんというか、今まで我慢してきたあれこれ全部吐き出して今日は終了。治療を受けて強制送還っていうのはそういう理由あってのこと」
「翠は今――」
ディスプレイに視線を戻し、彼はため息を漏らした。
「見てのとおり、寝てる。その間にこの作業を終わらせるよ」
立ったままだった司っちは、普段秋斗さんが座っているであろう立派過ぎる椅子に深く身を沈めた。
「あのさ、君は怒らないであげてくれないかな。バカとかアホとか、身の程わきまえろ、とか。そんなことは言わないであげてほしい。確かにそういうことを言わなくちゃいけないときもあるけれど、今はやめて?」
これは俺からのお願い。
「……だから、これ、ですか?」
「そっ、抜け道確保。これ以上リィから何かを取り上げるのは忍びないからね」
司っちは何か思うところがあるのか、すぐには口を開かなかった。
「言いたいことがあるなら言ってもいいよ。けど、俺ができるのはこんなことくらいだし、取り上げるくらいなら与えるほうを選びたい。それができる状況なら」
ねぇ、司っちはどうなのよ。
君がリィをセーブしてくれるのはありがたい。でも、なんでもかんでも取り上げるだけの人間なら俺は敵と見なすよ。
人って誰でも欲求や自我ってものがある。
それを押さえつけるだけの人間なんてリィには要らない。俺の妹を任せるつもりはない。
「……なんとなくですが、唯さんが俺にやらせようとしていることがわかりました」
「全部説明しなくて済むって楽でいいね」
にこりと笑いかければ、彼は冷静な表情を取り戻して、
「つまり、この抜け道すら翠の負担にならない押し付け方をしろ、と言っているわけですよね」
訊く、というよりは確認。
「ご名答! そこまでわかってくれてるなら話は早いよ。あと、そうだなぁ……二時間かからないくらいで設定できると思うんだけど」
「それにプラスアルファの設定をお願いします」
ん……?
「リトルバンクへのアクセス時間ですが、十時半以降はアクセス禁止。それから、そのパソコンからのアクセス時間は最長でも一時間半。さらには、アクセスしたら俺の携帯に通知が届くともっといいですね」
にこりと笑みを向けられる。
ついさっき見せた激情の欠片すら見当たらない。
いいねぃ……。好きだよ、こういう子。
「さすがだね。うんうん、いいよいいよ、追加しちゃう。一時間半過ぎたらビービー警告音とか鳴らしちゃおうね」
ノリノリになってきた俺を横目に、
「作業終わったら呼んでください。そのときには自分も一緒に引き上げます」
「りょうかーい!」
彼はすぐに部屋から出ていった。
俺はピュー、と口笛を鳴らす。
「さっすが、切り替え早いね」
とっとといつもの自分を取り戻してその先を見据える。自分が取るべき行動、自分に求められている行動を見越して動く。
なるほどねぇ……。
秋斗さんやオーナーにとって、俺ってこういう人間に見えてるわけか。
「でも……普通にいい子じゃん。ちょっと癖があるだけでさ」
それが彼への第二印象。第一印象の「素っ気無い」はそのまま存続。
「リィが懐くのもちょっとわかるかな」
女の子は弱いよね。無愛想だったりきついこと言う人間が、時々ものすごく優しい言葉発するのとか。
秋斗さんも甘辛をもう少し使いわけてみたらどうだろう?
素質は十分にあると思うんだけど――
『若槻、そこで何をしてる?』
まぁ、これをいじれるのは俺と秋斗さんしかいないからね。
俺に連絡をしてくるのは当たり前。
「ちょっとリィ絡みで学校に来てます。生徒会の仕事をゲストルームでできるようにするためにルート形成したいんですけどいいですか?」
『おまえ、俺から連絡が入ること見越してただろ……』
「えー、やだなー、そんなことないですよー」
思い切り棒読みで、否定句を口にしながら肯定する。
笑いを堪えながらそんな話をしていると、俺の近くにいた司っちが呆れてものが言えないとでもいうように、メガネ中央のブリッジ部分を中指と人差し指で押し上げた。
ホント、こういう仕草まで様になっちゃうわけだ。
格好いい子だねぇ……。リィが見惚れるのもわかるよ。
しかも、素っ気無いなんて罪人、罪人。あ、でも、笑ってたら色んな意味でもっと罪人っぽいよね。
ま、つまるところはベストオブ罪人賞決定。
「ハッキングで済ませようと思ってたんですけど、司っちに正規ルートを通せって言われたから秋斗さんのマシンつなげさせてもらってます」
『あぁ、そういうことならかまわない。上には俺から連絡を入れておく。……翠葉ちゃんは?』
「午前に相馬先生とガチンコ対決して、そのあとは治療。今は自宅で強制的に睡眠取らされてますよ」
『そう……』
「因みに、明日は学校も欠席です。でも、リィが生徒会を辞めなくても済むように、今俺がここにいるのでご心配なさらず。なので、これから数時間は仕事振らないでくださいね」
『わかった、任せる』
通話を切り、
「よっし、これで仕事が振られることもない、っと……」
「俺に手伝えることがないのなら、向こうの作業に戻りたいのですが」
「ん? それは司っちが決めていいよ。聞くか聞かないかは君の自由だし」
司っちの顔を見なくても、思い切り怪訝そうな顔をしているのが気配でわかる。
「リィがなんで今日休みで明日も休みなのか。……知りたくない?」
顔を上げて立ったままの司っちを見上げると、表情が固まっていた。
「俺は知りたいんじゃないかと思ってたんだけど?」
ほら、言いなよ。知りたい、ってさ。人間素直なほうが得するんだよ?
「……教えていただけるのなら」
意外と丁寧なお願いをされた。
「うん、時間をちょうだいって言ったのはそういう意味」
すると、
「コーヒーに砂糖は?」
どうやら聞く態勢を整えるためにコーヒーを淹れることにしたらしい。
「スティックシュガー四本」
司っちは目を瞠る。
「だぁってさぁ、これからちょこっとだけ頭使うし、糖分は必須なわけですよ」
それでも納得しがたそうに簡易キッチンへ足を運ぶ彼がおかしかった。
あぁ、司っちって海斗っちとは違う面白さがあるよね。
ノリとかそういうのじゃなくて、反応ひとつひとつが俺にとってはなんだか新鮮。癖になりそう……。
どうしよう……。秋斗さん、この子俺に譲ってくんないかな?
ま、それはさておき――
自分が持ってきたノートパソコンと秋斗さんのマシンの接続を済ませてから、秋斗さんが使っているディスプレイのひとつにリィのバイタルを表示させた。
「それ、見ていいよ。内緒だけどね」
コトリ、と音を立ててダイニングテーブルにコーヒーカップとシュガースティック四本が置かれた。
どうやら、砂糖を入れる行為には抵抗があった模様。
ま、そのくらい自分でやるけどね。
司っちはディスプレイに釘付けになった。
秋斗さんから話は聞いてる。
彼は医者になるべく、すでに医学の勉強に手をつけていることも。
だから、それらが何を指すのかもわかるのだろう。
心電図のような波形は出ない。それでも、数値を追えば見えてくるものはある。
「ごめんね。司っちと海斗っちのバイタルの転送を打ち切ってくれって言い出したの俺なんだ。しかも、携帯から消去作業したのも俺。過去データから再現不可能にしたのも俺。恨んでくれてかまわないけどね」
俺の言葉なんて耳に入っていないみたいにデータを遡って見ているようだった。
「……翠は何を服用したんですか?」
だいたい目星はついてるんだろうな。
リィが手に入れられるものなんてそうたくさんあるわけじゃないんだから。
でも、訊かずにはいられない。そんなとこ。
それは、知っていながら黙認していた俺たちに文句を言うため?
「俺が普段飲んでる滋養強壮剤」
答えるまでもない回答を口にすると、
「これを知っていながらなんで周りの人間はっっっ――」
低い声音で話し始め、最後には声を荒げた。
「……ふーん、君みたいな子でも声を荒げたりするんだ。ちょっと意外」
鋭利な刃物のような視線を向けられるのは想定済み。
「そう、みんな知ってて黙って見てた。君は知っていたらどうした?」
「すぐに止めさせる」
即答だった。
「そう……迷わず止めたでしょ? でも、それじゃだめだったんだ。あれもだめこれもだめ――そう言われ続けたリィが最後に取った行動がこれだったんだから。みんなひやひやしながら見守っていたんだ。で、今日には相馬先生に呼び出されてガチンコ対決。すごかったよ。相馬先生の白衣にしわがあったから、もしかしたらリィが掴みかかったのかもね。ま、なんというか、今まで我慢してきたあれこれ全部吐き出して今日は終了。治療を受けて強制送還っていうのはそういう理由あってのこと」
「翠は今――」
ディスプレイに視線を戻し、彼はため息を漏らした。
「見てのとおり、寝てる。その間にこの作業を終わらせるよ」
立ったままだった司っちは、普段秋斗さんが座っているであろう立派過ぎる椅子に深く身を沈めた。
「あのさ、君は怒らないであげてくれないかな。バカとかアホとか、身の程わきまえろ、とか。そんなことは言わないであげてほしい。確かにそういうことを言わなくちゃいけないときもあるけれど、今はやめて?」
これは俺からのお願い。
「……だから、これ、ですか?」
「そっ、抜け道確保。これ以上リィから何かを取り上げるのは忍びないからね」
司っちは何か思うところがあるのか、すぐには口を開かなかった。
「言いたいことがあるなら言ってもいいよ。けど、俺ができるのはこんなことくらいだし、取り上げるくらいなら与えるほうを選びたい。それができる状況なら」
ねぇ、司っちはどうなのよ。
君がリィをセーブしてくれるのはありがたい。でも、なんでもかんでも取り上げるだけの人間なら俺は敵と見なすよ。
人って誰でも欲求や自我ってものがある。
それを押さえつけるだけの人間なんてリィには要らない。俺の妹を任せるつもりはない。
「……なんとなくですが、唯さんが俺にやらせようとしていることがわかりました」
「全部説明しなくて済むって楽でいいね」
にこりと笑いかければ、彼は冷静な表情を取り戻して、
「つまり、この抜け道すら翠の負担にならない押し付け方をしろ、と言っているわけですよね」
訊く、というよりは確認。
「ご名答! そこまでわかってくれてるなら話は早いよ。あと、そうだなぁ……二時間かからないくらいで設定できると思うんだけど」
「それにプラスアルファの設定をお願いします」
ん……?
「リトルバンクへのアクセス時間ですが、十時半以降はアクセス禁止。それから、そのパソコンからのアクセス時間は最長でも一時間半。さらには、アクセスしたら俺の携帯に通知が届くともっといいですね」
にこりと笑みを向けられる。
ついさっき見せた激情の欠片すら見当たらない。
いいねぃ……。好きだよ、こういう子。
「さすがだね。うんうん、いいよいいよ、追加しちゃう。一時間半過ぎたらビービー警告音とか鳴らしちゃおうね」
ノリノリになってきた俺を横目に、
「作業終わったら呼んでください。そのときには自分も一緒に引き上げます」
「りょうかーい!」
彼はすぐに部屋から出ていった。
俺はピュー、と口笛を鳴らす。
「さっすが、切り替え早いね」
とっとといつもの自分を取り戻してその先を見据える。自分が取るべき行動、自分に求められている行動を見越して動く。
なるほどねぇ……。
秋斗さんやオーナーにとって、俺ってこういう人間に見えてるわけか。
「でも……普通にいい子じゃん。ちょっと癖があるだけでさ」
それが彼への第二印象。第一印象の「素っ気無い」はそのまま存続。
「リィが懐くのもちょっとわかるかな」
女の子は弱いよね。無愛想だったりきついこと言う人間が、時々ものすごく優しい言葉発するのとか。
秋斗さんも甘辛をもう少し使いわけてみたらどうだろう?
素質は十分にあると思うんだけど――
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