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29 Side 海斗 01話
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ところは図書室。
ここでは紅葉祭の準備兼悪巧みが行われ、俺が引っ張り込んだ佐野もよく来る。そして、放送委員の飛鳥がいることも多い。
佐野はいつの間にか生徒会メンバーじゃないとわからないところまで状況を把握していて、周りからも生徒会役員並みの頼られぶりだ。
たぶん、誰も佐野がクラス委員だとは思ってはいないだろう。
正直、猫の手も借りたいほどに忙しい状況だから、手伝ってもらえること自体は願ってもないことで嬉しい限りなんだけど……少しだけ面白くない。
飛鳥が、俺ではなく佐野のところへ行くから。俺に訊きにくればいいのに、佐野のところばかりへ訊きに行くから。
だから、面白くない……。
「スンマセン、どうやら集中力切らしたようなので、少々集中力をかき集めてまいります」
誰に伝え誰が了承してくれたのかも不明。
とりあえず、俺は断わりを入れて図書室を出た。
テラスのガーデンチェアーに腰掛け腐っていると、俺の正面に座った人間がいた。
「……なんで秋兄が座るの?」
「通りかかったらかわいい弟が打ち拉がれてたから?」
楓くんと同じ顔してるけど、秋兄には悪魔の触覚とか悪魔の尻尾とか、そういう付属品がついていると思う。
いや、むしろ付属品というよりも標準装備……。
司につけさせる予定だけど、秋兄が黒いマントに牙生やしていても全然普通にいけると思う。
そこら中の人の血、吸いまくってそうだし……。
逆に司が吸血鬼だったとして――あいつはえり好みが激しすぎて絶対に早死にするタイプだ。
普段は食べられないものなんてないって顔してるけど、その対象が人間になった途端に偏食家決定。
「何、紅葉祭前にしてそんな顔してるんだよ」
「いや、面白くなくて……」
「それ、どんな話かお兄さんが聞いてあげるよ」
「……親身って感じじゃないよね?」
「もちろん、面白そうな匂いがするから聞きたいだけ」
にこりと笑ってそう言った。
むむむ、と唸りつつ俺は愚痴を零す。
「もっと余裕ぶってたかったなぁ……」
愚痴は愚痴でも本音中の本音。
「それ、恋愛話?」
秋兄は嬉しそうに訊いてきた。
身長は俺のほうが高いけど、それだけ。
それ以外は勝てたためしがない。
たとえば成績にしてもスポーツにしても、何においても。
なんでうちには出来のいい兄や従兄姉しかいないんだ。
あぁ、友達の数なら勝てるかも?
楓くんはそれなりに友達いそうだけど、秋兄と司は見るからに少なそう。
でも、俺が知らないだけなのかな? どうだろう?
俺から見ると、秋兄は人との交流をあまり好まないように見えるけど。
実のところは表立った場所へ出るのも嫌いで、秘書の蔵元さんにほとんどのことを放り投げていることは知っている。
たぶん、融通が利かないものだけ自分で動く。そんな人。
何より、俺が知っている秋兄の友人付き合いなんて翠葉の兄貴、蒼樹さんしか知らない。
もとは先輩後輩みたいだけど、もう友人っていっていい付き合いだと思う。
「で、どうなのよ」
先を促す言葉に、座って話ができる程度には時間があることを悟る。
このテラスって場所も、普段なら人がいっぱいでこんなにのんびりと話が出来る場所ではない。けど、今は紅葉祭前ということもあり、テラスを通る人もどこかしらに目的地を持っているからか、足しげく去っていく。
視線は感じるけど、いつもみたいにうるさくもしつこくもなかった。
「秋兄、ジュースおごって」
「はいはい、買っておいで」
コインケースを渡され、それを持って階下の自販機まで走った。
「自分にはスポーツ飲料っと……」
ボタンを押すと、ペットボトルがガコン、と音を立てて出てきた。
それを取り出したとき、上のテラスから秋兄の声がかかった。
「俺の分はいらないよ」
「あ、そう?」
コーヒーって言うかと思ったけど、缶コーヒーなんて飲まなくても仕事部屋に入れば缶コーヒーよりは数倍美味しいコーヒーが飲めるもんな。
テラスに戻って、
「いただきます」
言いながらコインケースを返した。
「で? 何が面白くないって?」
満面の笑みで訊かれる。
あまり話したいことでもないけど、ここら辺で誰かに吐いてはおきたい。
そのくらいにはくさくさしていた。
「好きな子がほかの男を頼ってると面白くないもんだなぁ、と思って……」
「くっ、何? 見込みなさそうなの?」
「……逆のはずだったのに」
どうしたことか、テスト期間中ですらすれ違いの生活をしていた秋兄と、思わぬところでゆっくりと話せる機会ができてしまった。
しかも、こんな青空テラスで。
空に浮かぶいわし雲が眩しいぜ。
なんていうか、秋兄とは年も離れているし、話したところでどうこう騒がれないってわかってるからかな? 格好悪いことをボロボロ零せる。
あんちゃん、全部拾ってくださいね?
「俺を好きっていう子がいたんだ。で、ずっと好きでいてくれたわけさ。それが当たり前だと思ってたんだけど、最近ちょっとおかしなことになってる」
「ふーん……何がどうおかしいことになってるの?」
「俺以外の男の周りをちょろちょろしてる……。いつもなら、俺に訊きにきてたようなことを違う男のところに訊きに行くし、手伝いとか助けを求めに行く」
「ははっ、そりゃ面白くないわ」
「くっそ……楽しそうに笑いやがって」
ぐびぐび、っと一気にスポーツ飲料を喉に流し込んだら、少し歯が沁みた。
たぶん知覚過敏か虫歯。念のため、近いうちに歯医者へ行こう。
「いやさ、気持ちがわかるからだよ」
真正面から秋兄の視線を受け止める。
「俺だって面白くない。翠葉ちゃんは司よりも俺を頼ってくれていた時期がある。でも、今は司を頼ってる。俺なんて見事に蚊帳の外だよ」
まるでそのあとに、「自業自得なんだけどさ」って言葉が続きそうなニュアンスだった。
「……失礼いたしました」
「でもさ、おまえはその子に告白したことがあるの? っていうか、その子が自分のことを好きでいてくれたとき、おまえはその子に何か言ってあげたわけ?」
俺は言葉に詰まる。
つまりはそこなんだよね……。
「あぁ、言ってないんだ。しかも、好きって言ってくれてたのっていつの話だよ」
「……かれこれ二年近く前の話です」
「じゃ、そろそろ見込みなしと思って諦める時期かな。それでも、振られたあと二年も好きでいてくれたんなら本望でしょ? その期間に動かなかったおまえが悪いよ」
くっそ……耳が痛ぇ。
「ほらほら、耳と目塞いでないで」
額を軽く小突かれる。
「なんで言わなかったんだ?」
「最初はなんとも思ってなかったから……。たぶん、初等部のときから想ってくれてたと思う。告白されたときは嬉しかったけど、自分の側に恋愛感情っぽいものを見つけられなくて、今はそういうふうに考えられないって答えた」
幼稚部から同じやつらみんな仲が良くて、同じように「好き」なんだと思っていた。
ずっと一緒だった。誰よりも近くにいた。それが普通だと思っていたのに……。
告白のあとも何も変わらずにつるんできたんだ。
どこかで何かが変わるなんて思ってなかった。ずっと変わらず一緒にいられるものだと思ってた。
けど、一学期の球技大会でそのバランスが微妙に崩れた気がする。
強いていうならば、周りのバランスが崩れたのではなく、俺の心の何かが変わった。
きっかけは佐野の堂々すぎる告白。
「意識するのは意外と簡単なことだったかも……」
「こういうのってさ、気づいたときには気になってるよね」
秋兄はどこか遠くを見るように話した。
あぁ、秋兄の視線の先は図書棟だ……。
今日、翠葉は欠席。そして、これからも翠葉があそこで作業することはない。
ゲストルームで会計の仕事ができるように、何もかもセッティングしてしまったわけだから、夕方に秋兄のところで休むこともなくなる。
きっとそんなことは秋兄も知っていて――
視線の先に翠葉がいないとわかっていても、思いを馳せるのだろう。
恋って、人を好きになるって、こういうことなんだろうな――
ここでは紅葉祭の準備兼悪巧みが行われ、俺が引っ張り込んだ佐野もよく来る。そして、放送委員の飛鳥がいることも多い。
佐野はいつの間にか生徒会メンバーじゃないとわからないところまで状況を把握していて、周りからも生徒会役員並みの頼られぶりだ。
たぶん、誰も佐野がクラス委員だとは思ってはいないだろう。
正直、猫の手も借りたいほどに忙しい状況だから、手伝ってもらえること自体は願ってもないことで嬉しい限りなんだけど……少しだけ面白くない。
飛鳥が、俺ではなく佐野のところへ行くから。俺に訊きにくればいいのに、佐野のところばかりへ訊きに行くから。
だから、面白くない……。
「スンマセン、どうやら集中力切らしたようなので、少々集中力をかき集めてまいります」
誰に伝え誰が了承してくれたのかも不明。
とりあえず、俺は断わりを入れて図書室を出た。
テラスのガーデンチェアーに腰掛け腐っていると、俺の正面に座った人間がいた。
「……なんで秋兄が座るの?」
「通りかかったらかわいい弟が打ち拉がれてたから?」
楓くんと同じ顔してるけど、秋兄には悪魔の触覚とか悪魔の尻尾とか、そういう付属品がついていると思う。
いや、むしろ付属品というよりも標準装備……。
司につけさせる予定だけど、秋兄が黒いマントに牙生やしていても全然普通にいけると思う。
そこら中の人の血、吸いまくってそうだし……。
逆に司が吸血鬼だったとして――あいつはえり好みが激しすぎて絶対に早死にするタイプだ。
普段は食べられないものなんてないって顔してるけど、その対象が人間になった途端に偏食家決定。
「何、紅葉祭前にしてそんな顔してるんだよ」
「いや、面白くなくて……」
「それ、どんな話かお兄さんが聞いてあげるよ」
「……親身って感じじゃないよね?」
「もちろん、面白そうな匂いがするから聞きたいだけ」
にこりと笑ってそう言った。
むむむ、と唸りつつ俺は愚痴を零す。
「もっと余裕ぶってたかったなぁ……」
愚痴は愚痴でも本音中の本音。
「それ、恋愛話?」
秋兄は嬉しそうに訊いてきた。
身長は俺のほうが高いけど、それだけ。
それ以外は勝てたためしがない。
たとえば成績にしてもスポーツにしても、何においても。
なんでうちには出来のいい兄や従兄姉しかいないんだ。
あぁ、友達の数なら勝てるかも?
楓くんはそれなりに友達いそうだけど、秋兄と司は見るからに少なそう。
でも、俺が知らないだけなのかな? どうだろう?
俺から見ると、秋兄は人との交流をあまり好まないように見えるけど。
実のところは表立った場所へ出るのも嫌いで、秘書の蔵元さんにほとんどのことを放り投げていることは知っている。
たぶん、融通が利かないものだけ自分で動く。そんな人。
何より、俺が知っている秋兄の友人付き合いなんて翠葉の兄貴、蒼樹さんしか知らない。
もとは先輩後輩みたいだけど、もう友人っていっていい付き合いだと思う。
「で、どうなのよ」
先を促す言葉に、座って話ができる程度には時間があることを悟る。
このテラスって場所も、普段なら人がいっぱいでこんなにのんびりと話が出来る場所ではない。けど、今は紅葉祭前ということもあり、テラスを通る人もどこかしらに目的地を持っているからか、足しげく去っていく。
視線は感じるけど、いつもみたいにうるさくもしつこくもなかった。
「秋兄、ジュースおごって」
「はいはい、買っておいで」
コインケースを渡され、それを持って階下の自販機まで走った。
「自分にはスポーツ飲料っと……」
ボタンを押すと、ペットボトルがガコン、と音を立てて出てきた。
それを取り出したとき、上のテラスから秋兄の声がかかった。
「俺の分はいらないよ」
「あ、そう?」
コーヒーって言うかと思ったけど、缶コーヒーなんて飲まなくても仕事部屋に入れば缶コーヒーよりは数倍美味しいコーヒーが飲めるもんな。
テラスに戻って、
「いただきます」
言いながらコインケースを返した。
「で? 何が面白くないって?」
満面の笑みで訊かれる。
あまり話したいことでもないけど、ここら辺で誰かに吐いてはおきたい。
そのくらいにはくさくさしていた。
「好きな子がほかの男を頼ってると面白くないもんだなぁ、と思って……」
「くっ、何? 見込みなさそうなの?」
「……逆のはずだったのに」
どうしたことか、テスト期間中ですらすれ違いの生活をしていた秋兄と、思わぬところでゆっくりと話せる機会ができてしまった。
しかも、こんな青空テラスで。
空に浮かぶいわし雲が眩しいぜ。
なんていうか、秋兄とは年も離れているし、話したところでどうこう騒がれないってわかってるからかな? 格好悪いことをボロボロ零せる。
あんちゃん、全部拾ってくださいね?
「俺を好きっていう子がいたんだ。で、ずっと好きでいてくれたわけさ。それが当たり前だと思ってたんだけど、最近ちょっとおかしなことになってる」
「ふーん……何がどうおかしいことになってるの?」
「俺以外の男の周りをちょろちょろしてる……。いつもなら、俺に訊きにきてたようなことを違う男のところに訊きに行くし、手伝いとか助けを求めに行く」
「ははっ、そりゃ面白くないわ」
「くっそ……楽しそうに笑いやがって」
ぐびぐび、っと一気にスポーツ飲料を喉に流し込んだら、少し歯が沁みた。
たぶん知覚過敏か虫歯。念のため、近いうちに歯医者へ行こう。
「いやさ、気持ちがわかるからだよ」
真正面から秋兄の視線を受け止める。
「俺だって面白くない。翠葉ちゃんは司よりも俺を頼ってくれていた時期がある。でも、今は司を頼ってる。俺なんて見事に蚊帳の外だよ」
まるでそのあとに、「自業自得なんだけどさ」って言葉が続きそうなニュアンスだった。
「……失礼いたしました」
「でもさ、おまえはその子に告白したことがあるの? っていうか、その子が自分のことを好きでいてくれたとき、おまえはその子に何か言ってあげたわけ?」
俺は言葉に詰まる。
つまりはそこなんだよね……。
「あぁ、言ってないんだ。しかも、好きって言ってくれてたのっていつの話だよ」
「……かれこれ二年近く前の話です」
「じゃ、そろそろ見込みなしと思って諦める時期かな。それでも、振られたあと二年も好きでいてくれたんなら本望でしょ? その期間に動かなかったおまえが悪いよ」
くっそ……耳が痛ぇ。
「ほらほら、耳と目塞いでないで」
額を軽く小突かれる。
「なんで言わなかったんだ?」
「最初はなんとも思ってなかったから……。たぶん、初等部のときから想ってくれてたと思う。告白されたときは嬉しかったけど、自分の側に恋愛感情っぽいものを見つけられなくて、今はそういうふうに考えられないって答えた」
幼稚部から同じやつらみんな仲が良くて、同じように「好き」なんだと思っていた。
ずっと一緒だった。誰よりも近くにいた。それが普通だと思っていたのに……。
告白のあとも何も変わらずにつるんできたんだ。
どこかで何かが変わるなんて思ってなかった。ずっと変わらず一緒にいられるものだと思ってた。
けど、一学期の球技大会でそのバランスが微妙に崩れた気がする。
強いていうならば、周りのバランスが崩れたのではなく、俺の心の何かが変わった。
きっかけは佐野の堂々すぎる告白。
「意識するのは意外と簡単なことだったかも……」
「こういうのってさ、気づいたときには気になってるよね」
秋兄はどこか遠くを見るように話した。
あぁ、秋兄の視線の先は図書棟だ……。
今日、翠葉は欠席。そして、これからも翠葉があそこで作業することはない。
ゲストルームで会計の仕事ができるように、何もかもセッティングしてしまったわけだから、夕方に秋兄のところで休むこともなくなる。
きっとそんなことは秋兄も知っていて――
視線の先に翠葉がいないとわかっていても、思いを馳せるのだろう。
恋って、人を好きになるって、こういうことなんだろうな――
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