707 / 1,060
第十三章 紅葉祭
05話
しおりを挟む
高校校門をくぐると実行委員の人たちに声をかけられた。その中には香乃子ちゃんや空太くんの姿もある。
私に気づいた香乃子ちゃんは遠くからブンブンと手を振ってくれ、私も同じように手を振り返しながら仮設テント付近を通り過ぎた。
桜並木を抜けた先にある一、二年棟の前にはすでにほかのメンバーが揃っていた。
「わっ、遅刻かなっ!?」
慌てて時計を見たけれど、集合時間の二分前だった。
「マンション、もう少し早く出たほうが良かったかな?」
なんとなしに口にすると、
「今日は物珍しいものが入り口で待ち受けてたからじゃん?」
海斗くんに笑われ、つい先ほど通ってきたところを思い出す。
いつもなら何も気にせず通り過ぎる場所をあれこれ観察しながら歩いてくると、思わぬタイムロスが生じるらしい。
明日は気をつけなくちゃ……。
「じゃ、今日の流れをざっと話すよー」
そんなふうに仕切るのは久先輩。
一応なんて言ったら失礼だけど、やっぱり会長なんだな、と思った瞬間。
久先輩と茜先輩は、紅葉祭をもって生徒会を引退する。
久先輩との出逢いは春庭園。スズランを撮っているときに声をかけてくれ、写真部へ誘ってくれた人。
茜先輩は始めて人と音を奏でる楽しさを教えてくれた人。困ったときに声をかけてくれることが多く、心を守ってくれたり、時には背中を押してくれる人だった。
ふたりとも、「生徒会で待ってる」と私をここへ招き入れてくれた人。
その人たちが引退してしまうのは寂しい。
まだ卒業してしまうわけではないのに、妙にしんみりとしてしまう。
生徒会でのミーティングは十五分かからずに終わった。
流れは昨日のうちに確認してあったし、紅葉祭がスタートしていない現時点で何かが起こることはない。
「さすが自慢のメンバー! 問題はなさそうだね」
「こんなところで躓いていたら先が続かない」
久先輩の言葉をばっさりと斬り捨てるのはツカサ。
こんなことにも慣れっこなメンバーはクスクスと笑っている。
その中、桃華さんだけが「この男は」と怪訝そうな表情をしていた。
このメンバーが好きだな、と思うのに、このメンバーで学校行事を運営執行するのはこれで最後なのね。これからお祭りが始まるのに、なんだか寂しい。
そんなことを考えていると、一際明るい声が降ってきた。
「実行委員ご一行のお出ましだ!」
背の高い優太先輩が私の背後を指差す。
桜並木を振り返ると、さっきまで校門で作業していた人たちがこちらへ向かってぞろぞろと歩いてくるところだった。
人が集団で歩くとだらだらしているように見えることが多いけれど、そんな印象はまったく受けない。
私たちの視線に気づくと、実行委員長の号令でみんなが走りだす。
「別に走ってこなくてもよかったのに。柴内ちゃんてば相変わらず人を待たすの苦手だよねー?」
久先輩が三年の実行委員長にウヒヒ、と笑って軽くジャブを入れると、柴内ちゃんと呼ばれた先輩は、
「いやぁ、なんとなく……。生徒会ご一行をお待たせするのは肝が冷えると申しましょうかね」
などと、少しおどけた調子で話す。
そんなふたりはどうあっても組織の長で、言葉少なにも長らしい会話になる。
「守備は?」
「上々。何も問題なく滞りなく進んでる。今日に関しては身内客ばかりだから、とくに問題は起きないと思ってるけど?」
「それもそっか。ま、申し送り関連はきっちりやっていこうね」
「心得てますとも、会長殿」
ふたりの会話が終わると、
「とくに確認事項もないみたいだから、インカムの配布するよー。各学年代表取りにきて」
会長の言葉に朝陽先輩が反応し、用意されていたボックスの蓋を開けた。
私たち生徒会の分はあらかじめ取り分けられていたものをツカサが配り、簡単な説明を口にした。
渡されたのはワイヤレスイヤホンとカラビナがついているリモコン。
どうやら簡単な操作でいくつかのチャンネルを使いわけることができるらしい。
「イヤホンはしっかりと耳にはめておけば基本的には外れない。内臓バッテリーで四十八時間はもつ仕様だから、そのあたりは考えなくていい」
中等部でも使われているものなのか、海斗くんや桃華さん、サザナミくんは慣れた手つきで装着する。
聞くところによると、このインカムは藤宮警備で使っているものと同じもので、リモコンのみを生徒が使いやすいように改良されているという。
「生徒会、実行委員、クラス委員、風紀委員では使うチャンネルが異なる。それぞれのチャンネルが記されたプリントを配布するから、それを参考にするように」
合同ミーティングはミーティングというよりは、インカムの使い方説明会と化していた。
実行委員側の説明を終えた朝陽先輩が海斗くんにひとつのインカムセットを渡す。
「これ、佐野くんに渡して使い方教えてあげて」
「了解っす!」
考えてみたら佐野くんがこの場にいないのは不自然だった。
肩書き的にはいないことが正解だけれど、佐野くんは肩書きとかそういうものは抜きで紅葉祭の中枢にいる人だから。
「海斗くん、佐野くんは?」
海斗くんはにっ、と笑ってグラウンドを指差した。
「えっ……今日も?」
「そっ、佐野が部活休みなのは試験期間と年末年始くらいじゃね?」
唖然とする私に、
「特待生って大変だよね」
と、苦笑して見せたのは朝陽先輩だった。
私に気づいた香乃子ちゃんは遠くからブンブンと手を振ってくれ、私も同じように手を振り返しながら仮設テント付近を通り過ぎた。
桜並木を抜けた先にある一、二年棟の前にはすでにほかのメンバーが揃っていた。
「わっ、遅刻かなっ!?」
慌てて時計を見たけれど、集合時間の二分前だった。
「マンション、もう少し早く出たほうが良かったかな?」
なんとなしに口にすると、
「今日は物珍しいものが入り口で待ち受けてたからじゃん?」
海斗くんに笑われ、つい先ほど通ってきたところを思い出す。
いつもなら何も気にせず通り過ぎる場所をあれこれ観察しながら歩いてくると、思わぬタイムロスが生じるらしい。
明日は気をつけなくちゃ……。
「じゃ、今日の流れをざっと話すよー」
そんなふうに仕切るのは久先輩。
一応なんて言ったら失礼だけど、やっぱり会長なんだな、と思った瞬間。
久先輩と茜先輩は、紅葉祭をもって生徒会を引退する。
久先輩との出逢いは春庭園。スズランを撮っているときに声をかけてくれ、写真部へ誘ってくれた人。
茜先輩は始めて人と音を奏でる楽しさを教えてくれた人。困ったときに声をかけてくれることが多く、心を守ってくれたり、時には背中を押してくれる人だった。
ふたりとも、「生徒会で待ってる」と私をここへ招き入れてくれた人。
その人たちが引退してしまうのは寂しい。
まだ卒業してしまうわけではないのに、妙にしんみりとしてしまう。
生徒会でのミーティングは十五分かからずに終わった。
流れは昨日のうちに確認してあったし、紅葉祭がスタートしていない現時点で何かが起こることはない。
「さすが自慢のメンバー! 問題はなさそうだね」
「こんなところで躓いていたら先が続かない」
久先輩の言葉をばっさりと斬り捨てるのはツカサ。
こんなことにも慣れっこなメンバーはクスクスと笑っている。
その中、桃華さんだけが「この男は」と怪訝そうな表情をしていた。
このメンバーが好きだな、と思うのに、このメンバーで学校行事を運営執行するのはこれで最後なのね。これからお祭りが始まるのに、なんだか寂しい。
そんなことを考えていると、一際明るい声が降ってきた。
「実行委員ご一行のお出ましだ!」
背の高い優太先輩が私の背後を指差す。
桜並木を振り返ると、さっきまで校門で作業していた人たちがこちらへ向かってぞろぞろと歩いてくるところだった。
人が集団で歩くとだらだらしているように見えることが多いけれど、そんな印象はまったく受けない。
私たちの視線に気づくと、実行委員長の号令でみんなが走りだす。
「別に走ってこなくてもよかったのに。柴内ちゃんてば相変わらず人を待たすの苦手だよねー?」
久先輩が三年の実行委員長にウヒヒ、と笑って軽くジャブを入れると、柴内ちゃんと呼ばれた先輩は、
「いやぁ、なんとなく……。生徒会ご一行をお待たせするのは肝が冷えると申しましょうかね」
などと、少しおどけた調子で話す。
そんなふたりはどうあっても組織の長で、言葉少なにも長らしい会話になる。
「守備は?」
「上々。何も問題なく滞りなく進んでる。今日に関しては身内客ばかりだから、とくに問題は起きないと思ってるけど?」
「それもそっか。ま、申し送り関連はきっちりやっていこうね」
「心得てますとも、会長殿」
ふたりの会話が終わると、
「とくに確認事項もないみたいだから、インカムの配布するよー。各学年代表取りにきて」
会長の言葉に朝陽先輩が反応し、用意されていたボックスの蓋を開けた。
私たち生徒会の分はあらかじめ取り分けられていたものをツカサが配り、簡単な説明を口にした。
渡されたのはワイヤレスイヤホンとカラビナがついているリモコン。
どうやら簡単な操作でいくつかのチャンネルを使いわけることができるらしい。
「イヤホンはしっかりと耳にはめておけば基本的には外れない。内臓バッテリーで四十八時間はもつ仕様だから、そのあたりは考えなくていい」
中等部でも使われているものなのか、海斗くんや桃華さん、サザナミくんは慣れた手つきで装着する。
聞くところによると、このインカムは藤宮警備で使っているものと同じもので、リモコンのみを生徒が使いやすいように改良されているという。
「生徒会、実行委員、クラス委員、風紀委員では使うチャンネルが異なる。それぞれのチャンネルが記されたプリントを配布するから、それを参考にするように」
合同ミーティングはミーティングというよりは、インカムの使い方説明会と化していた。
実行委員側の説明を終えた朝陽先輩が海斗くんにひとつのインカムセットを渡す。
「これ、佐野くんに渡して使い方教えてあげて」
「了解っす!」
考えてみたら佐野くんがこの場にいないのは不自然だった。
肩書き的にはいないことが正解だけれど、佐野くんは肩書きとかそういうものは抜きで紅葉祭の中枢にいる人だから。
「海斗くん、佐野くんは?」
海斗くんはにっ、と笑ってグラウンドを指差した。
「えっ……今日も?」
「そっ、佐野が部活休みなのは試験期間と年末年始くらいじゃね?」
唖然とする私に、
「特待生って大変だよね」
と、苦笑して見せたのは朝陽先輩だった。
3
あなたにおすすめの小説
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる