光のもとで1

葉野りるは

文字の大きさ
708 / 1,060
第十三章 紅葉祭

06話

しおりを挟む
 教室にはほとんどのクラスメイトが揃っていて、あとは川岸先生が来るのを待つだけだった。
 そんな中、今は海斗くんが佐野くんにインカムの使い方を教えている。
 私も復習がてらに聞いているけれど、機械に対して苦手意識が強いだけに、メモ帳に書いて持ち歩きたい衝動に駆られる。
 私がメモ帳を取り出そうとする傍らで、佐野くんはリモコンをポチポチといじりだした。
「こういうのは使って慣れるが常套手段!」
「翠葉は不安そうな顔してるな?」
 海斗くんに言われて情けない顔になってしまう。
「海斗くん、私、自慢じゃないけど機械にはものすごく疎いんだから」
 私なりの抗議をしてみたけれど、それは笑いを助長させるだけだった。
「俺は結構得意」という佐野くんが羨ましい。
「壊しちゃったらどうしよう……」
「翠葉、大丈夫だって。翠葉たちが持ってるのは生徒が使いやすいように改良されたものだから、リモコン操作だって高が知れてる」
 その言葉に違和感を覚えた。
 それは佐野くんも同じだったようで、操作していた手を止め海斗くんを見る。
「俺が持ってるリモコンと佐野たちが持っているリモコンはちょっと違うんだ」
 海斗くんのリモコンは私たちに配られたリモコンよりは少し大きく、ボタンの数もそれに伴い多めについている。
「こっちは藤宮警備と直にやり取りができるスーパーリモコン。基本、これを持つのは中枢で指示を出す人間のみでいいんだけどね」
 海斗くんは笑って話しているのに、どうしてこんなにも痛々しく見えるのだろう……。
「俺の場合は藤宮の人間だから持っていなさい、って感じ?」
 おどけて話しては、使い方の説明に戻る。
 何かを話そうとしてやめた――そんなふうに見えたけれど……。
 桃華さんや飛鳥ちゃん、佐野くんの様子をうかがい見たけれど、誰も何も言わない。
「ほら、翠葉。ちゃんと聞いてないとあとで困るよー」
 飛鳥ちゃんに注意されて海斗くんの説明に意識を戻す。
 チャンネルを共有してみんなに通達する方法と、個別通信のやり方、その他あれこれ使い方を教えてもらったけど、使うときになってこれらを瞬時に思い出せるかは怪しいかぎりだ。
 やっぱりメモしておきたい……。
 そう思ってかばんからメモ帳を取り出すと、桃華さんに止められた。
「翠葉、大丈夫よ。使い方がわからなければインカムを通して話しかければ誰かしら答えてくれるわ」
 とりあえずのところ、通常モードで話す分には生徒会メンバー全員が聞ける状態に設定されているため、誰かしらが答えてくれる。そういうことらしい。
 インカムについては少しほっとしたけれど、海斗くんに感じた違和感が気になって仕方なかった。
 何かいつもと違う……。でも、海斗くんは普通に笑っている。
 いつもと同じ笑顔で――

 川岸先生が来て出欠を取ると、
「明日の集客は戦略合戦だから、今日中に確保できる来場者は数伸ばしておけよー!」
 そんな激励でホームルームが終わった。
「さっ! 女子も男子もオープンに向けて準備始めるよっ!」
 理美ちゃんの掛け声で一斉に準備に取り掛かる。
 バックヤード組は男女に分かれ、女子は調理室へ向かい、朝一で焼いたタルトやパイを取りに行く。
 男子は受付の準備やテーブルセッティングに取り掛かる。
 接客組は着替えるためにバックヤードへ移動した。女子はその中でさらに区切られた一角で着替えるのだ。
 以前一度試着した衣装に着替えたものの、スカートの丈が短くて落ち着かない。
「桃華さんっ、やっぱりこれ短いっ」
 同じように着替え終わった桃華さんに泣きつく。
 スカートの裾を引っ張ってみても、サテン生地が伸びてくれるはずもなく、私の行動はなんの意味もなさない。
「翠葉ちゃん、かわいいから大丈夫!」
 同じ時間帯にウェイトレスで表に出る香乃子ちゃんが太鼓判を押してくれるけど、慣れないものは慣れないのだ。
「普段からミニスカはけばいいのに」と言ったのは飛鳥ちゃん。
 飛鳥ちゃんも放送委員の花形なので、朝一ウェイトレス組。男子のウェイターは海斗くんと佐野くん。
 バックヤード組の希和ちゃんが戻ってくると、ため息をついた。
「このメンバーが朝一ってもったいないよねぇ……」
 メンバーを見渡してみたけれど、その言葉の真意がわからない。
 私の表情を読んだのか、希和ちゃんが疑問に答えてくれた。
「だって、姫や桃がいて、さらには海斗くんと佐野くんがいるんだよっ!?」
 それだけでは理解ができず、思わず首を傾げてしまう。
「つまりね」と補足説明をしてくれたのは河野くん。
「今の四人ってのは、姫の御園生ちゃんに中等部から女帝の座譲らずの簾条。それから学年人気ナンバーワンの海斗に人気急上昇中の佐野ってこと」
 あ――
「その顔、お嬢さん、姫だってことすっかり忘れてたでしょ?」
 河野くんの口元が少し引きつった。
「これだけで十分集客が望めるのに、朝は慌しいし、情報が流れるのにも時間がかかる。集客に生かせないのがもったいないよねぇ……」
 希和ちゃんがうな垂れると、それを見ていた男子ふたりが会話に混ざった。
「希和っち、なんのための俺たち?」
 にんまりと笑って声をかけてきたのは和光くんと時田くん。
「そうね、そっち方面は和光たちに任せるわ」
 窓際で外を眺めていた桃華さんが肩越しに振り返り、にこりと笑った。
 同じ衣装を着ているのに、私とは全然違う。
 桃華さんだって普段はこんな格好はしないだろう。それなのに、様になるというかしっくりと見える気がするのだ。
「あ、そっか! 情報戦略?」
 その声に振り返ると、希和ちゃんが手をポン、と叩いたところだった。
「そっ! 中等部では情報戦略にネットは使えなかったからね。今回はクラス用のアカウント取得して朝八時にメニューのお知らせと朝一スタッフの情報は送信済み」
 和光くんは楽しそうに話し、パソコンを見せてくれた。
 ディスプレイにはすでに送信された「1-B Classical Cafe」という名のメールが表示されていた。
「朝一がフリーの人間はこぞって来るに違いない」
 自信ありげに時田くんが言う。
「翠葉ちゃんたちが抜けたあとも客足を途絶えさせないためにもタイムセールとかやるし、逐一集客のための情報を配信していくよ」
 手際の良さに唖然としてしまったけど、来場者数やポイントを獲得するためにはここまでやらないとほかのクラスと差をつけることはできないんだ、と妙に納得してしまう。
「翠葉ちゃん、楽しもうねっ!」
 香乃子ちゃんの笑顔に心がほわ、とあたたかくなる。緊張よりも、楽しもうという気持ちが強くなる。
 人の笑顔は魔法みたいだね――
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...