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「よ、よし。お姉さんがおんぶしてあげよう。人がいる場所まで運ぼう。そうしよう」
瑠璃は泣いている幼子の前で背を向けてしゃがみ乗るよう促した。幼子は泣きながらも背中にへばり付くように全体重をかけ首にしがみ付いた。瑠璃への不信は痛みの自覚により揉み消されているらしかった。
「はぁ、よいしょっと」
後ろ手に鞄、腕と肩(首)には幼子の重みでなかなかの負荷だ。
(おんぶされたことは数多にあれどするのは今回が初めてだ)
父に母に兄に。シチュエーション、バリエーションは様々だった。あやされ、移動手段で、幼子と同じく怪我をして、自分よりも大きく温かい背中。
(あってる?やり方あってる?)
もし怪我をしている幼子を落とせば大惨事だ。屋敷はそう遠くないが怪我に響かぬよう配慮しつつ気持ち早足で進んだ。
「シュテファン様!」
未だ泣き止まぬ幼子を背に負った瑠璃の背後から声がした。おや?と瑠璃は振り返り声の主を見る。カラヤンと同じメイド服を着た女性が肩で息をしながら立っていた。
「アニカ!」
「うお。こら、急に動くな!落とす!!」
女性を見た幼子は身体を捻り手を伸ばした。その為瑠璃は体勢を崩しかけたので幼子を怒った。すんでの所で踏ん張りよたつきながら女性の方へ歩いて行く。
女性は余程慌てて探していたのだろう束ねられた赤毛はあちこちほつれボサボサになっている。瑠璃達に駆け寄り涙目で幼子に言い募った。
「今まで何処にいらしたのですか?アニカの目を盗んで部屋を抜け出して。心配したのですよ?本当に悪い子です」
「アニカ。アニカ。ごめん」
(感動の再会の所恐縮ですが背中で動かれるとバランスがですね……)
必死で踏ん張ってはいるが幼子が女性に体勢を向けているため大変危うい。
「すみません。下ろしても宜しいか?」
「え?あ。はい!お願いします」
瑠璃の存在に漸く気付いたのか抱き寄せていた幼子の頭を離した。バランスが崩れそうになる原因は女性にもあったようだ。
「はいよ」
瑠璃はゆっくり屈み幼子を下ろした。
「アニカ!」
地面に脚が着くと幼子は女性に甘えるように両手を広げて駆け寄った。
駆け寄った。
「いや、走れるんかい!!」
瑠璃渾身のツッコミを入れた。
「??もう痛くないぞ!」
(真っ赤に腫れ上がった脚して何を言う)
(何だ?アドレナリンでも出て痛覚が一時的に鈍くなってるのか?)
あっけにとられる瑠璃を余所に幼子は女性に抱っこをせがんだ。
「まあ、腫れてるじゃないですか。ちゃんとお医者様に診ていただかないと」
幼子の脚の腫れに気付いたのか女性は眉を顰めて言った。
「あの。シュテファン様を保護して頂きありがとうございます。私はシュテファン様の世話係を仰せつかっているアニカと申します」
「坂上瑠璃です。取り敢えずこの子を早めにお医者さんに診せましょう。」
「そうですね。痛くないと仰ってますがこの腫れは尋常ではありませんし」
抱きかかえたシュテファンの背中を優しく撫でながらアニカは言った。抱え慣れているのだろう足取りは確りしていてブレが無い。
「サカガミ様の事は申し送りの際聞き及んでおります。快適に過ごして頂けるよう屋敷の者皆尽力致しますので不便がありましたら遠慮無く仰って下さい」
「アニカ、こいつのこと知ってるのか?」
シュテファンはアニカの服を軽く引っ張り不思議そうに聞いた。
「お前の次はこいつ呼ばわり」
「そのように呼んではいけません。失礼ですよ」
瑠璃とアニカが同時に言った。
「じゃあ何て呼べば良い?」
シュテファンは瑠璃を見た。
「あー。サカガミでもルリでも」
「ルリが良い。短くて呼びやすい」
苗字や名前で選ぶのではなく呼びやすさでシュテファンは名前呼びを決めた。
「お好きにどうぞ」
「へへ。ルリ」
「何?」
「呼んだだけだ」
(子供か!子供だったわ)
甲斐甲斐しく、しかしどこか線を引いたように接する大人達に囲まれていたシュテファンはあけすけに話す瑠璃をいたく気に入ったようだった。
(泣いたカラスがもう笑ってる)
先程まで泣いていたのに今は元気に笑っている。勿論知己であるアニカが側にいることも大きいのだろう。
軽くなった肩を揉みながら瑠璃はそう思った。
瑠璃は泣いている幼子の前で背を向けてしゃがみ乗るよう促した。幼子は泣きながらも背中にへばり付くように全体重をかけ首にしがみ付いた。瑠璃への不信は痛みの自覚により揉み消されているらしかった。
「はぁ、よいしょっと」
後ろ手に鞄、腕と肩(首)には幼子の重みでなかなかの負荷だ。
(おんぶされたことは数多にあれどするのは今回が初めてだ)
父に母に兄に。シチュエーション、バリエーションは様々だった。あやされ、移動手段で、幼子と同じく怪我をして、自分よりも大きく温かい背中。
(あってる?やり方あってる?)
もし怪我をしている幼子を落とせば大惨事だ。屋敷はそう遠くないが怪我に響かぬよう配慮しつつ気持ち早足で進んだ。
「シュテファン様!」
未だ泣き止まぬ幼子を背に負った瑠璃の背後から声がした。おや?と瑠璃は振り返り声の主を見る。カラヤンと同じメイド服を着た女性が肩で息をしながら立っていた。
「アニカ!」
「うお。こら、急に動くな!落とす!!」
女性を見た幼子は身体を捻り手を伸ばした。その為瑠璃は体勢を崩しかけたので幼子を怒った。すんでの所で踏ん張りよたつきながら女性の方へ歩いて行く。
女性は余程慌てて探していたのだろう束ねられた赤毛はあちこちほつれボサボサになっている。瑠璃達に駆け寄り涙目で幼子に言い募った。
「今まで何処にいらしたのですか?アニカの目を盗んで部屋を抜け出して。心配したのですよ?本当に悪い子です」
「アニカ。アニカ。ごめん」
(感動の再会の所恐縮ですが背中で動かれるとバランスがですね……)
必死で踏ん張ってはいるが幼子が女性に体勢を向けているため大変危うい。
「すみません。下ろしても宜しいか?」
「え?あ。はい!お願いします」
瑠璃の存在に漸く気付いたのか抱き寄せていた幼子の頭を離した。バランスが崩れそうになる原因は女性にもあったようだ。
「はいよ」
瑠璃はゆっくり屈み幼子を下ろした。
「アニカ!」
地面に脚が着くと幼子は女性に甘えるように両手を広げて駆け寄った。
駆け寄った。
「いや、走れるんかい!!」
瑠璃渾身のツッコミを入れた。
「??もう痛くないぞ!」
(真っ赤に腫れ上がった脚して何を言う)
(何だ?アドレナリンでも出て痛覚が一時的に鈍くなってるのか?)
あっけにとられる瑠璃を余所に幼子は女性に抱っこをせがんだ。
「まあ、腫れてるじゃないですか。ちゃんとお医者様に診ていただかないと」
幼子の脚の腫れに気付いたのか女性は眉を顰めて言った。
「あの。シュテファン様を保護して頂きありがとうございます。私はシュテファン様の世話係を仰せつかっているアニカと申します」
「坂上瑠璃です。取り敢えずこの子を早めにお医者さんに診せましょう。」
「そうですね。痛くないと仰ってますがこの腫れは尋常ではありませんし」
抱きかかえたシュテファンの背中を優しく撫でながらアニカは言った。抱え慣れているのだろう足取りは確りしていてブレが無い。
「サカガミ様の事は申し送りの際聞き及んでおります。快適に過ごして頂けるよう屋敷の者皆尽力致しますので不便がありましたら遠慮無く仰って下さい」
「アニカ、こいつのこと知ってるのか?」
シュテファンはアニカの服を軽く引っ張り不思議そうに聞いた。
「お前の次はこいつ呼ばわり」
「そのように呼んではいけません。失礼ですよ」
瑠璃とアニカが同時に言った。
「じゃあ何て呼べば良い?」
シュテファンは瑠璃を見た。
「あー。サカガミでもルリでも」
「ルリが良い。短くて呼びやすい」
苗字や名前で選ぶのではなく呼びやすさでシュテファンは名前呼びを決めた。
「お好きにどうぞ」
「へへ。ルリ」
「何?」
「呼んだだけだ」
(子供か!子供だったわ)
甲斐甲斐しく、しかしどこか線を引いたように接する大人達に囲まれていたシュテファンはあけすけに話す瑠璃をいたく気に入ったようだった。
(泣いたカラスがもう笑ってる)
先程まで泣いていたのに今は元気に笑っている。勿論知己であるアニカが側にいることも大きいのだろう。
軽くなった肩を揉みながら瑠璃はそう思った。
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