13 / 40
5-2.妖精卿と解放の誘い編2【R-15:深めのキス】
しおりを挟むヴァルネラに手を引かれて廊下を歩くと、血の匂いと魔力が強く漂ってきた。
それは激戦の名残だろうが、ふと竜と戦ったにしては帰宅が早いことに気づく。
「にしてもこんなに早く帰ってくると思わなかった。ちゃんと倒したんだよね?」
「貴方の方が大事なんで、手早く片付けてきました。それとお土産見てください!」
彼の帰還が早かったことに裏はないようで、単純に力で竜を排除してきたらしい。
そしてヴァルネラは立ち止まると懐から赤黒い塊を取り出し、俺に手渡してきた。
(すごい魔力だ。見てるだけで気持ち悪くなる、けど取り入れたら確実に強くなる)
竜の心臓が結晶化した核は、未だ高濃度の魔力を帯びて存在感を主張している。
下手に手を出せば、受け入れ側が負けて浸食されかねない迫力だ。
「なかなか強い魔力ですから、一欠片だけ飲み込んでください。後は私が頂きます」
「それこそ俺、魔力汚染を起こさない? 一口でもかなりきつそうなんだけど」
核から放たれる魔力に俺がたじろいでいると、ヴァルネラがそれを摘まみ上げる。
そして彼は躊躇なく核を口に含み、咀嚼しては飲み下していった。
「では私が取り込んで、経口で徐々に魔力を与えましょうか。……んっ」
(うわ、飴みたいに一口で飲み込んだ。しかも全然平気そうだし)
改めてヴァルネラが一般人とは違うことを思い知り、俺は若干の畏敬を覚える。
けれど当の本人は気にした様子はなく、ゆっくりと俺に身を寄せてきた。
「グレイシス、口を開けて。唾液を媒介に、魔力を流し込みますので」
「え、こんな窓際で? あ、ん、んうっ」
俺たちは未だ部屋にも辿りついていないのに、廊下の一角で唇を奪われる。
けれどヴァルネラの舌が俺の口内に入り込むと、異質な魔力が伝わってきた。
「……ちゃんと魔力が流れているの、分かりますか」
「うん、なんだか頭がぼぅっとする……」
唾液を通じて俺の全身を魔力が循環し、酩酊感にも似た熱が体を駆け巡る。
行為を重ねた末に抵抗感は薄まり、今はヴァルネラの舌先を追ってしまう。
「魔力を受け入れられている証拠ですよ、良い子ですね」
「んっ、んふ、っん……」
舌を擦り合わせると甘い痺れが走って、俺はヴァルネラに縋りついた。
すると彼は俺の体を抱き寄せ、更に深く唇を貪ってくる。
「ん、……は、ぁ」
「そろそろやめておきますか。少しずつ、できるようになればいいですからね」
俺が息苦しそうなこと気づいたヴァルネラは、唇を一舐めしてから体を離した。
まだ熱の引かない頭は朦朧としていて、失われた距離に寂しさを覚えてしまう。
「……グレイシス?」
「やだ、待って。お願いヴァルネラ、もうちょっとだけしようよ」
俺はヴァルネラの襟を握りしめて引き止め、自分から唇を寄せて啄んでいく。
彼は一瞬目を丸くしたが、すぐに俺の腰を抱いて応えてくれた。
「! ……はい、貴方が望むなら!」
(ヴァルネラ、嬉しそうな顔してる。まだ続けてくれそうだ)
鼻先を擦り合わせるように唇を合わせ、俺は魔力と血の匂いに酔う。
息継ぎよりも、舌先を擦り合わせるのに夢中になっていく。
「こういう行為に、だいぶ抵抗なくなってきましたね。グレイシス」
「んぅ、だって魔力を受け入れるには、これが一番の手段でしょ」
唇が離れると混ぜ合わされた唾液が糸を引き、ヴァルネラの口元を濡らす。
妖艶に光るそこにも舌を這わせようとすると、指を押しあてられて止められた。
(あ、今度は不機嫌になった。でもなんで)
目の前の男に不満を表されるが、理由が分からず俺は首を傾げるしかない。
するとヴァルネラは深々と溜め息を吐いて、俺の唇を指でなぞる。
「……そうでしたね、貴方は。じゃあもう少し、深くしましょうか」
「んぅ!? ま、待って。なんかぞくぞくする……!」
ヴァルネラは噛みつくように俺の唇を塞ぎ、舌を根元まで入れて貪ってくる。
今度は獰猛に歯列を撫でられ、舌裏をくすぐられる度に背筋が震えた。
「んっ、ん……っ! ヴァルネラ、苦しい……!」
「グレイシス、ちゃんと息継ぎをして。酸欠になりますよ」
胸を叩いて抗議しても、ヴァルネラは唇を離すどころか激しく責め立ててくる。
段々と酸素が足りなくなっていき、溺れるような感覚に体から力が抜けていく。
「ん、ふぅ、……っあぁ!」
「立てなくなっちゃいましたか? ふふ、じゃあ私に寄り掛かって」
膝を震わせながら、俺は言われた通りに体を預けてヴァルネラに縋りつく。
いつの間にか彼の機嫌は治っていて、優しく俺の体を抱き留めていた。
「も、おしまいでいい! 魔力も充分受け取ったから! っはぁ、あぁ……!」
「経口摂取、思ったより良さそうですね。これから積極的に行いましょうか」
口移しを終えたヴァルネラは嬉しそうに提案をしながらも、俺を離そうとしない。
体液を介していないから魔力は伝わらないが、俺は好きなようにさせていた。
(こんなことしたって、意味ないのに。でも振り解こうと思わない自分もいる)
最近は唇を落とされる度に多幸感に包まれ、抵抗する力を奪われてしまう。
けれどいつの間にかヴァルネラは窓の外へと目を移し、鋭く目を細めていた。
「……? どうしたのヴァルネラ、窓の外になんかいる?」
「いえ、気にしなくて結構です。それよりまた、おかえりって言ってくれませんか」
再び俺に目を戻した時には、ヴァルネラの表情は甘やかなものに変わっていた。
俺は少しだけ違和感を覚えつつも、彼の望む言葉を口にする。
「え、おかえり。これってそんなに嬉しい?」
「はい! 何度でも聞きたくなります!」
俺にとっては珍しくもない言葉だが、ヴァルネラには心底魅力的なものらしい。
その表情に嘘は見つけられず、つまりは混じりけのない本心だと伝わってくる。
「そんな大層な挨拶じゃないのにな……」
俺が困惑しながらも帰宅の挨拶を口にすると、彼は抱きしめる力を強めてくる。
するともう魔力は不足していないのに、どうしてか胸が疼いてやまなくなった。
123
あなたにおすすめの小説
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。
水凪しおん
BL
オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。
過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。
「君はもう、頑張らなくていい」
――それは、運命の番との出会い。
圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。
理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!
【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】
ゆらり
BL
帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。
着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。
凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。
撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。
帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。
独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。
甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。
※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。
★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる