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1.魔法契約編

15-1.魔法使いの狩猟祭編1

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 穏やかな日々が続くある日、スヴィーレネスが手紙を眺めていた。
 差出先は公共組織的な名称で、彼も真面目な顔をしている。

「ワタクシ、これから魔法使いとしての威厳を取り戻していこうと思うんですよね」
「舞踏会の時の威圧で充分じゃないの? みんな怖がっていたでしょ」

 あの時の魔力威圧は結構な騒動になっていて、後日新聞にまで載ってしまった。
 俺の存在にも言及されてたから、会場に新聞記者が紛れていたのかもしれない。

「でも定期的に表に出ないと、記憶って風化していきますから」
「まぁ、それはあるかも」

 強大な特級魔法使いであっても、表にいない期間が長ければ雑に扱われてしまう。
 現に舞踏会が始まった時は軽視されて、魔力威圧の雨を喰らわされていた。

「なので次回の狩猟会に、ワタクシも参加します。オルディールも来てくださいね」
「行ったところで、俺にできることないでしょ。下手すれば狩られる側だよ」

 魔物がいる場所についていっても、魔力なしでは足手まといになるだけだ。
 それなら留守番してた方が安全だと思うけれど、なにか意図があるのだろうか。

「今回は座っているだけでいいです。警備もいますから、安全なはずですよ」
「ふぅん。ちなみに狩猟祭ってことは、魔物を狩るの?」

 魔法使いが主催しているなら、魔物より魔力なしを狩らせることを好む。
 そうでないなら、王国とは別の組織が主催している可能性が高かった。

「今回はそうです。魔法使い主催だと、獲物の奪い合いを装った暗殺もありますが」
(公爵邸にいると忘れがちだけど、王国って権力争いの場だもんな)

 殺伐とした国内では、魔法使い同士でも同族と認められる場合は少ない。
 弱い魔法使いを狙った殺人も存在し、新聞には悲惨な記事が踊ることもあった。

「とにかく今回は見てるだけでいいので、よろしくお願いします」
「分かったよ、じゃあ席で大人しくしてる」

 どうしても俺を連れていきたいらしいスヴィーレネスに、根負けして頷き返す。
 それに脱走した前科があるから、強く言い返そうとは思わなかった。



 一応人前に出るということで、俺は再び外出用の服を見繕われていた。
 舞踏会の時に貰った衣装も上等なのに、どうも気に食わないらしい。

「丈は合ってますか? 前回と装いを変えるので、希望があれば」
「別に前のでいいのに」

 また着せ替え人形として遊ばれるのかと身構えたが、彼は真剣な表情をしていた。
 けれどさっきから、やたら装飾の多い服ばかりを選ぼうとしている。

「いえ、変えましょう。趣向を凝らして、他の魔法使いに舐められないように」
「だからいいってば。気に入ってるし、前の奴」

 装飾品にまで手を出し始めたところで、俺は抗議の声を上げる。
 疲れたのもあるが、それ以上に服が重いし似合わない。

「前は俺に似合うように用意してくれたんでしょ。なら威嚇する為のものよ、り」

 自分がなにを言っているかに気づいて、途中で言葉が切れる。
 喋りすぎた。多分、ここまで言う必要なかったのに。

「……そうですか。ワタクシが選んだのがいいなら、今回はそれにしましょう!」
「う、うん。まだ変える必要なんてないから」

 ぱっと表情を明るくしたスヴィーレネスに、少し気恥ずかしさを感じる。
 けれど下手に言い訳するのも恰好がつかないから、結局口を噤むことになった。
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