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2.魔法契約の裏側編

9-2.方向性相違による喧嘩と懇願する特級魔法使い編

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「これがいいんです、アナタが作ったのが食べたい」
「じゃあ代わりにジャム作ってよ、味がマシになるからさ」

 柔らかいホットケーキは水っぽいが、焦げたものよりは味に影響がない。
 それでも他人の口に入るなら、少しでもマシになった方が良いと考えて提案した。
 すると役目を与えられたスヴィーレネスは、嬉しそうに近づいてくる。

「えぇ、任せてください! とびっきり甘いのを仕上げますね!」
(それに俺、あれ好きなんだよなぁ。今は面倒なことになるから言わないけど)

 幾度となく作った失敗作が消化できたのは、彼の作るジャムのおかげだった。
 スヴィーレネスの記憶が戻ったら、伝えるのもいいかもしれない。

 そしてホットケーキが仕上がると、今度は台所にドミネロが入ってきた。

「二人とも、今日はここに泊まる? それなら空いてる部屋に案内するけど」
「でしたら公爵邸に戻りましょうよ。そっちの方が慣れているでしょうし」

 転移魔法ですぐ戻れるとスヴィーレネスは提案するが、今の彼には信頼がない。
 だから俺は公爵邸から出てこれなくなる可能性を恐れて、その誘いを却下した。

「いい、施設に泊まる。監禁されても困るし」
「そう、ですか」

 すると牽制のつもりで言った言葉が否定されず、途端に不穏さが顔を出す。
 先ほどのホットケーキ作りで緩んだ空気が、少しだけ締め上げられた。

「部屋、別々にした方が良さそうだね。一緒でいいかと思ったんだけど」
「そんな! ワタクシ、もう酷いことしませんよ」

 空気を読み取ったドミネロが別室の提案をすると、スヴィーレネスが抗議する。
 けれどしばらくは、二人きりで過ごすのを避けた方が良いかもしれない。

「今のスヴィーレネスは信用できないから嫌だ。なにもしないなら、別の部屋でも「一緒にいたいだけなんです、指一本触りませんから!」」

 涙目でスヴィーレネスが粘り、意見を曲げない俺との平行線が続きそうになる。
 しかしこれ以上、忙しいドミネロを待たせるわけにもいかない。

「分かったよ、でも魔法でのちょっかいも禁止だからね」
「えぇ。これ以上嫌われたくありませんし、ちゃんと守ります」

 念押しで下手な触れ合いを禁じると、ようやく妥協したスヴィーレネスが頷く。
 そしてドミネロに案内され、俺たちは割り当てられた部屋へ向かって行った。



 用意された部屋は寝台と机が置かれているだけで、余計なものは一切存在しない。
 そこで俺たちは、先ほど作ったホットケーキを頬張っていた。

(部屋に入ってから、ずっと黙ってる。これはこれで落ち着かないな)

 変に構われるのも面倒だが、ここまで静かなのは逆に不気味だった。
 そのくせ視線はずっと注がれているから、監視されている気分になる。

「スヴィーレネス、別に喋るなとは言ってないよ」
「でも口を開くと、余計なことを言ってしまいそうなので」

 別に彼も悪意で黙っているわけではなく、衝突を避けた結果らしい。
 であれば俺もそれ以上文句は言えず、口を噤むしかない。

「今は一緒にいられるだけでいい……」
(極端だな。でも愛し仔を、どうしても手離したくないのか)

 先ほどから何度も口を開こうとしては、震わせた後に諦めて閉じてしまう。
 それがいじらしくて、俺もいけないと分かっているのに譲歩してしまった。

「言うこと聞いてくれてたら、どこかでちゃんと魔力あげるよ」
「本当ですか!? じゃあいい子にしてます!」

 スヴィーレネスが笑うと空気が華やいで、やっぱり俺まで嬉しくなる。
 だから半端に手を差し伸べて、お互い苦しくなってしまうのにやめられなかった。
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