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2.魔法契約の裏側編
10-1.限界を迎えた特級魔法使い編
しおりを挟む魔力を渡す約束をしてから、スヴィーレネスは頻繁にその時期を聞いてくる。
けれどあまりにも回数が多くて、俺も精神的に参ってきていた。
「オルディール、いつ魔力くれるんですか? ワタクシ、ずっと待ってるのに」
「そのうちだって言ったでしょ。それに今は、聞き込み調査中じゃん」
ヴェセルは新聞社への報告に行ってしまったので、今日は二人で街に来ていた。
一応目星をつけて調査をしているが、相変わらず状況は芳しくない。
「そうだ、欲しいものとかってありませんか。なんでも買ってあげますよ」
「いいよ、変に貢がないで。必要な物もないし」
彼にその財力があるのは分かっているが、俺が欲しいのはそういうものではない。
それに断わられた彼は不満げだが、今は受け取って喜べる自信もなかった。
「愛し仔なのに、どうしてそんなにつれないんですか。恋人みたいなものでしょう」
(みたいっていうか、恋人だったんだけど。でも覚えてないんだろうな)
スヴィーレネスは俺との記憶を失ってから、精神が不安定になっていた。
事件に巻き込まれた瞬間も覚えておらず、愛し仔の魔力ばかりを追い求めている。
「しつこいな。そんなに魔力が欲しいなら、フィルトゥラムに、薬もらってよ」
「せめてこっち見てくださいよ、オルディール。ちゃんと話しましょう」
振り向かない俺に業を煮やしたスヴィーレネスが、俺の肩を掴んで振り向かせる。
それを嫌がって乱暴に振り払うと、余計に彼は苛立った。
「嫌だ、今は放っておいてよ」
今振り向いたら泣きそうなのがバレるくらい、きっと俺は酷い顔をしている。
そう考えて、意固地になったのが良くなかった。
「ワタクシ、そこまで邪険にされなければいけませんか。こんなに我慢してるのに」
「……待ってスヴィーレネス、魔力暴走を起こしてる!」
彼の言葉に顔を上げると、周りにいた街の人々が逃げ惑っているのが見えた。
いつの間にかスヴィーレネスから、毒のような魔力が漏れ出している。
「オルディールに、触れたいだけなのに」
「分かった、こっち来て! ちょっとだけ魔力をあげるから!」
このままでは特級魔法使いの魔力が周囲を汚染し、街に被害をもたらしてしまう。
そう判断した俺は、スヴィーレネスの手を引いて人気のない方へと移動した。
(路地裏だから、誰かに見られるかもしれない。けどそんなこと言ってられない)
俺はスヴィーレネスの機嫌を取るべく、彼を抱き寄せて鼻先に口づける。
しかし背中に手をまわしながら様子を見るも、魔力が止まる様子はない。
「足りない」
「は」
唐突にスヴィーレネスに口を塞がれ、彼の舌が入り込んできた。
呼吸が苦しくなるほど激しく、執拗に口内を荒らされる。
「っん、ぅ……ふぁ……!?」
上顎や歯の裏側を無遠慮に舐め回され、その感覚に腰が震えた。
さらには歯列をなぞられ、舌を絡められると、徐々に体の力が抜けてくる。
(俺が嫌がってるの分かっているはずなのに、全然引いてくれない!)
首を振って逃れようとするが、後頭部を押さえられているせいで上手くいかない。
その間でお互いの唾液が湿った音を立てて、羞恥でどうかなりそうだった。
「ちょっと、やだ、やめてよ! 嫌だってば……!」
「全然足りないです、オルディール」
咳き込みながら見上げた瞳は暗く、純粋な金色の光を放っていた。
初めて向けられた剥き身の欲望に、思わず背筋が凍り付く。
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