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2.魔法契約の裏側編
12-2.薬師による魔力供給の誘いと特級魔法使いの暴発編
しおりを挟むしばらくして騒動が鎮火し、ようやくフィルトゥラムがこちらに顔を向ける。
そういえば俺たちはヴェセルの検査の為に、ここを訪れたんだった。
「じゃあこれからヴェセ君の検査するけど、二人も体調不良とかない?」
「そうだ、スヴィーレネスにも魔力補給剤をあげて。魔力足りないみたいだから」
俺がそう言うと、隣で暇そうにしていたスヴィーレネスが固まる。
でもどうせなら、ここで彼も治療してもらった方がいい。
「いりません。オルディールから魔力を貰えれば、それで十分です」
「補給剤でも大丈夫だって言ったじゃん。お願いだから、言うこと聞いて」
スヴィーレネスは人からじゃないとダメだと言うが、違うことは俺が経験済みだ。
現に俺が欠乏症状に陥った時は、魔力の問題だけなら薬で解決可能だった。
「薬は嫌です。一回飲みましたけど、なにも満たされませんでした」
「症状が抜けたら楽になるよ、苦しいのは嫌でしょ」
経験則を盾に説得を試みるが、スヴィーレネスは頑として受け付けない。
子供のように首を振り、絶対に薬は受け付けないと主張する。
「それでワタクシが、オルディールを好きじゃなくなったらどうするんですか」
「俺じゃなくて、魔力を生み出す愛し仔が好きだったってだけでしょ。別にそうだとしても、責めないよ」
滅多にない脅しに心が揺れるけれど、ここだけは半端な態度を取ってはいけない。
投薬で恋心が消えるなら、俺は無理やりスヴィーレネスを付き合わせてただけだ。
「拙いけど魔法も使えるし、最悪一人で生きていける。だから」
ふとスヴィーレネスの言葉が聞こえないことに気づき、俺は顔を上げる。
すると彼の瞳から光が消え、周囲の空気が一変していた。
(周囲がスヴィーレネスの魔力威圧で押し潰されてる。このままじゃ、また被害が)
記憶を失った特急魔法使いは我慢が効かず、子供のような癇癪をすぐ起こす。
けれどここは人通りの多い廊下だから、誰が影響を受けるか分からない。
「スヴィさん一回薬飲んで落ち着いて! 本当に好きなら、薬じゃ消えないから!」
「嫌です! この子への好意がなくなるくらいなら、壊れた方がマシです!」
焦ったフィルトゥラムが説得しようと動くが、そのせいで彼に矛先が向いた。
広く漂っていた魔力が集まり、攻撃性を伴って一か所に落ちていく。
「っ、あ」
「美人さん、大丈夫か!?」
崩れ落ちるフィルトゥラムを見て、スヴィーレネスも正気に戻る。
けれど反対に、今度はエンヴェレジオさんが怒りに囚われた。
「スヴィーレネス、お前いい加減にしろよ! 表に出ろ!!」
「ごめん、スヴィーレネスつれて一回ここから離れる! こっち来て!」
エンヴェレジオさんの杖先が届く前に、俺はスヴィーレネスを引っ張っていく。
ここまでする気はなかったのか、彼の顔も真っ青になっていた。
「わ、分かりました! ごめんなさい、フィルトゥラム!」
スヴィーレネスは抵抗することもなく、俺に手を引かれるまま後を追ってくる。
ようやく足を止めたのは、人気のない階段裏についてからだった。
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