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2.魔法契約の裏側編
13-1.すれ違いと妖精少年の介入編
しおりを挟むスヴィーレネスに害意はなかったけど、今回は制御できず人を攻撃してしまった。
だから彼を叱ろうと口を開いたが、本人は既に怒られた後のように震えている。
「何度も迷惑かけてごめんなさい。でもオルディールは、一人でも平気なんですね」
萎れる彼を見ていると、強い魔法使いにも弊害があるのだと思い知らされる。
強大な魔法が使えても、本能に振り回されて疲れ果てていた。
「俺は一人で生きていこうと思ってた時期が長いから。それに今のスヴィーレネスが、本当に俺が好きか分からないし」
「大好きですよ。信じてくれないのは、アナタの方じゃないですか」
衝動を抑え切れないと判断したのか、もうスヴィーレネスは俺に触れてこない。
それは寂しいことだけど、正しいことでもあった。
「じゃあ、魔力はいらない?」
「それは欲しい……」
「ならずっと、俺は信じてあげられないよ」
欲しいものが定まらないスヴィーレネスに、俺はため息を吐くしかない。
魔力ではなく俺そのものが欲しいなら、惜しみなく全部あげたいと思う。
けれどそうでないなら、俺が愛し仔の力で情を強いているだけだ。
(平行線だな、本当にどうすればいいんだろう)
二人して出口のない迷路に迷い込んでしまったようで、解決策が全く見えない。
――けれどそこに鈴を転がすような声が降り注ぎ、俺たちは頭上を見上げた。
「平行線なら、一回距離を置けば?」」
階段の上を覗くと、そこには愛らしい印象の少年が見下ろしていた。
彼は可愛らしくあどけない、そして油断ならない存在。
「ドーリィ、まだ生きてたんだ」
「勝手に殺さないでよ、確かに殺されかけたけどさ」
ふわふわとした衣装を揺らして降りてきたドーリィは、相変わらず可憐だ。
けれど特急魔法使いの怒りを買って、生きているのは不気味でもある。
「ワタクシは、確実に殺したと思ったんですがね。というか、なんの用です?」
「保護施設が面白いことになってるみたいだから、侵入してきちゃった」
ドーリィから邪気は感じられないが、彼こそ見かけを信じてはならない。
一度は無力を装って、特急魔法使いを欺いた実力者だ。
「僕は妖精との混血だしね。並みの魔法使いより古いし、ずっと強いよ」
「そのようですね。施設だって、相当な保護魔法を組んでいるのに」
侵入率が高く思える施設だが、彼の言う通り大半の悪意はここを知覚できない。
逆説的に中に入って来た存在は、それだけ尋常ならざる力を持つことになる。
「っていうか、随分な修羅場じゃん。魔法契約、結ぶくらいの仲だったのに」
一連の話を聞いていたらしいドーリィは、対立する俺たちを見て首を傾げている。
けれどそれは彼の中にある、俺たちの記憶が古いせいだ。
「襲撃事件に巻き込まれて、スヴィーレネスが記憶喪失になっちゃったんだよ。だから、もう関係も良く分からな、い」
自分の言葉が途中でぶれて、俺はだんだんとうまく喋れなくなる。
それは途中で嗚咽になり、視界も滲んで見えなくなった。
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