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2.魔法契約の裏側編

16-2.記者の傷跡と新たな恋編

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「ほら、大丈夫だったろ? でもなんか、大きくなってないか?」
「そうだね。俺もさっき見た時は、子供だと思ってたのに」

 俺たちがヴェセルに抱き留められた影を見ると、それは青年のように見えた。
 変異はより進行していて、頭からも禍々しい角が生えつつあるが。

(それに皮膚が爛れて、内部から魔力が漏れ出してる)

 崩れ落ちた肌の隙間からは魔力が溢れ、ヴェセルがそれを抑え込んでいる。
 これは魔法使いの子供が、内包した魔力に耐えられない時の症状でもあった。

(けど大人になってから、下級魔法使いみたいになるのは珍しい)

 後から魔力を植え付けられた場合は別だが、普通は出生時か幼少期に異常が出る。
 しかし彼は青年なのに変異部位から血が滴っていて、傷も新しい。

(大人になれば体が魔力に馴染むのに、拒絶反応を起こしてるようにも見えるし)

 魔力に侵された体は何回も痙攣し、振りまわされているような感じがする。
 でもこの年まで生きてきたのであれば、とっくに解決しているはずの問題だ。

(まさか急に成長させられて、体が追いついていない?)

 彼は身なりがいいから多分高位魔法使いだし、魔力制御に手間取るとは思えない。
 であれば外的要因で肉体が変化し、それによって魔力が飽和しているのか。

「彼、時間が巻き戻っていたのでは。魔法使いの子は異形になる確率が高いですし」
「じゃあ魔法使いの群れの中身は、変わってなかったってこと?」

 スヴィーレネスの言葉に俺が尋ねると、彼は静かに肯定した。
 であれば事件とは無関係だと断じていた時戻しの魔法陣に、関係性が生じてくる。

「でも子供は基本的に弱いから、戻る理由がない気がするけど」
「なら不慮の事故で時戻し魔法が暴発して、巻き込まれたのかもな」

 思わぬところで捜査が進展して、ヴェセルが大きく尻尾を振る。
 彼は青年を担ぐと、そのまま治療部屋へと向かっていった。

「これは調査する価値がありそうだな。後でもう一度、魔法陣を見に行こうぜ!」
「なら先にエンヴェレジオさんの話を聞いてみたら? 独自に情報を集めてるから」

 外出の計画を立てる俺たちに、ドミネロが思い出したように提案する。
 確かに彼は魔法執行官だから、色々な情報を掴んでいると思うけど。

「あの人、また働いてるの? フィルトゥラムが止めてなかったっけ」
「その本人が未だに疑われてるからでしょう。彼が原因の内部分裂も起きてますし」

 そう言われて俺も、エンヴェレジオさんが率いてた執行官たちの様子を思い出す。
 彼らの大半は、フィルトゥラムに好意を抱いているのが丸わかりだった。

「しかも裏で、美人さんに付け入ろうって奴も出てきてる。あれは魔性だな」

 ヴェセルも言葉を付け足すが、俺は彼の様子に首を傾げる。
 あれだけ鼻の下を伸ばしていた相手なのに、今は凪いだように落ち着いていた。

「そういえばヴェセル、フィルトゥラムが好きなんじゃないの? 随分冷静だけど」
「仲良くはしたいけど、脈がないのは分かったし。他に気になる人もできたからさ」

 ヴェセルは何でもない風に語るが、俺とスヴィーレネスは顔を見合わせる。
 だって彼は分かりやすいから、相手がいるならすぐにばれそうなもののに。

「え、誰」
「群れの主人。まぁ、記者らしいだろ!」

 快活に笑う彼の笑みはさっぱりとしていて、少しの未練も感じない。
 けれど本当かは分からないから、俺も頷くだけに留めておいた。
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