【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される

2.魔法契約の裏側編

17-1.犯人推測と子供たちの噂編

　エンヴェレジオさんの元へ向かうと、彼はフィルトゥラムの治療を受けていた。
　懸命な薬師を見つめている瞳はいつもと違い、愛おしげに蕩けている。

「あんまり無茶はしないでよ。仕事とはいえ、俺も心配なんだから」
「分かってる。でもお前がいるなら、大丈夫だろ」

　反省しないエンヴェレジオさんを、フィルトゥラムが叱りながら軽く小突く。
　けどそれすらも嬉しそうに受け止めているから、普段とは立場が逆になっていた。

「というかこの程度の傷なら、魔法の方が治すの早いと思うけど」
「慣れてる方がいい、……お前がいいんだ」

　睦言を零すエンヴェレジオさんだが、対するフィルトゥラムはあまり反応しない。
　好意的だった以前とは違い、今は少し冷たい雰囲気すら感じさせた。

「そんなこと言って、夜の誘いは断るくせに。脈がないなら思わせぶりはやめて」
「それはお前が嫌いだからじゃないって。……うわ、いたのかお前ら！？」

　まだ二人きりだと思ってたエンヴェレジオさんは、フィルトゥラムに体を預ける。
　けれど体勢が変わったことで俺たちの姿が目に入った彼は、小さく悲鳴を上げた。



　甘やかだった空気は既に引き締まっているが、未だに彼の頬には朱が差している。
　そして気恥ずかしさを誤魔化す為か、エンヴェレジオさんは大きな咳払いをした。

「……お前らの推測通りだよ。他の魔法陣の近くにも、群れの目撃証言があった」
「しかし魔法執行官の方で成果がないようですが、なにか支障があるんですか」

　スヴィーレネスの指摘通り魔法執行官も動いているが、戦果は耳にしていない。
　特に実働部隊は実力者の集まりだが、それだけ相手が上手なのだろうか。

「魅了魔法で仲間割れや自滅をさせられてる。相当手強いぞ、あの魔法使い」
「ただ好きな人がいる場合は、効き目が弱いよ。魅了魔法系の特徴なんだけどね」

　治療道具を片付けながら口を挟むフィルトゥラムは、やはり色事魔法に詳しい。
　でも魅了魔法『系』と幅を広げたのが、いつもと異なり気になった。

「え、俺は独り身なのに効かなかったんスけど」
「浮気性だからじゃないのか、色んな奴に声を掛けてたろ」

　そう言うエンヴェレジオさんは未だに、軟派な獣人記者を良く思っていない。
　そして強めの指摘を受けたヴェセルは、大げさな手振りで弁解していた。

「いやあれは取材の為の交渉術でもあるんで！　決して無節操なわけでは！」
「一応聞くけど、フィルトゥラムは違うんだよね？」

　俺がフィルトゥラムに確認すると、代わりにエンヴェレジオさんが首を振る。
　ずっと一緒にいた甲斐あって、彼らは確実な冤罪回避ができるようになっていた。

「エンさんが監視についてるし、一人の時は施設から出てない。犯行は不可能だよ」
「それにもう、容疑者は絞られてるんだ。認めたくないけどな」

　そう言うエンヴェレジオさんの表情は、今までで一番険しい。
　そして彼がこういう顔をする時は、決まって隠したいことがある時だった。

「アナタがそこまで言い辛そうにしてるということは、身内の犯行ですね」
「まさか、アドミスタさん？　そういえば魔力鑑定、してないわけないよね」

　彼は今まで被害者だと思っていたけれど、ここにきて加害者の線が浮上する。
　あの人はあまり魔法を使わないけど、施設管理者に就くほどの実力者だ。

「現場の採取物からアイツの魔力は出てない。けど魔力霧散を使ったなら話は別だ」
「それにあの数の魔法使いを従えられるのって、アドさんしかいないんだよね」

　多方向からの証拠によって、犯人像とアドミスタさんが近づいていく。
　彼が襲撃事件を起こしたと断定はできないが、無罪だとも言えなくなった。

「けど犯行動機が見えませんね。それに、時戻しの魔法陣を使った理由も」
「だから捕まえて、理由を聞き出さねぇと。……助けられるなら、助けたいし」

　小声になってしまったエンヴェレジオさんは、多分事件のもみ消しを考えている。
　でもこの国では良くあることだし、彼には助かってほしいから俺も黙って頷く。

「じゃあ俺たちが、先に様子見てくるぜ！　先発隊だ！」

　相変わらず元気なヴェセルの言葉を区切りとして解散し、俺たちは部屋を出る。
　しかし事件の真相には近づいたが、思っている以上に事態は拗れていそうだった。