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2.魔法契約の裏側編

21-2.嘆く愛し仔と獣の玉座編

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「そう。互いを愛せれば、二人は生き続けられる。その為に、魔力なしは変質する」
「それでアドミスタさんは魅了、いや、愛し仔の魔力を生み出すようになったのか」

 王の気が狂えば、同じ場所に閉じ込められた魔力なしは確実に殺される。
 それを避ける為に篭絡の才に目覚め、彼は生き残ることに成功した。

(俺と同じなんだ。魔法契約は愛し仔の生存手段であり、魔法使いの拠り所だから)

 今思えば魔力なしを統率していたのも、愛し仔の力によるものかもしれない。
 その力を利用して彼は施設に身を隠し、再起する機会を窺っていた。

(じゃあ魔力霧散は、後から手に入れた力なのかな)

 アドミスタさんの代名詞だと思っていた力こそ、付随物の可能性がある。
 もしくは国を建て直す手段の一つとして、更に手に入れた力なのか。

「それが魔法契約の起源。けど差別階級に魔法を与えた王は、追放されてしまった」
「なんで追放刑? 殺した方が、確実だと思うけど」

 横で話を聞いていたドミネロが眉を寄せ、ドーリィはそれに苦笑を浮かべた。
 弟の考え方は一般的だが、王たる存在には当てはまらなかったようだ。

「強すぎて殺せなかったんだよ。でも処刑を試みた時に、魔力指輪が発動した」
「え、これってなんか魔法的な効果があるの」

 俺は自分の魔力指輪が眺めるが、所有痕以上の役割があるとは思えない。
 けれどドーリィは首を振って否定し、それは護りの魔法なのだと教えてくれた。

「魔力指輪は危機が迫ると、宿った魔力と記憶を犠牲にして対象者を守るんだよ」
「そっか。スヴィーレネスもあの日アドミスタさんに襲われて、記憶を失ったのか」

 魔力指輪は刻んだ相手の魔力で作られるから、守護の力が宿るのも納得できる。
 そして正しく発動した代償に、スヴィーレネスは記憶を失ってしまった。

「そう。そして王に変化する条件は相応しい魔法を行使し、瞳が変異することだ」
「だから貴族たちは、こぞって魔力や獣の瞳に関する研究をしていたんだ」

 特級魔法使いでも制御できない魔力を使った結果、彼らは獣の王となってしまう。
 そして多分スヴィーレネスの引き金は、俺が大規模魔法を使わせたせいだった。

「けど彼は獣との戦いで無茶したからね。弱って、玉座から出てこれなくなってる」
(やっぱり全部、俺が原因だったんだ)

 巨獣となったヴェセルを戻すために、俺は躊躇うスヴィーレネスに勝利を求めた。
 そして彼は断ることもできず、結果として自身を犠牲にするしかなかった。

 ――ならば今度は俺が、彼を助けに行くべきだ。

「ドーリィはそこに行けるの? もし行けるなら、道案内してほしいんだけど」

 獣の玉座は特級魔法使いを閉じ込めるくらいだから、簡単には近づけないと思う。
 けれど目の前の半妖精は、人には使えない道を知覚できる。

「うん、それを手伝うために来たんだよ。最後は君たちの絆に掛かってるけどね」

 そういうとドーリィは俺の手を取り、部屋の扉を共に潜らせる。
 すると俺たちは保護施設の廊下ではなく、薄暗い城の中に立っていた。

「獣の玉座って、保護施設の中から行けるんだ」
「妖精の手引きがあれば、そこが道になるだけ。ある意味、どこからでも行けるよ」

 城内は石造りの装飾が多く、犠牲となる王への慰めとして飾られているらしい。
 その隙間を通り抜けて、俺たちは風の吹く大回廊を進んでいく。

「結構、壊れている場所があるね。ここから逃げる時にヴェセルがやったのかな」
「そう。彼もアドミスタを逃がして瀕死になった後、魔力指輪の発動で生き残った」

 城の石壁を抉った魔力の痕跡は、今も修復されずに残されている。
 そして俺たちは、遂に玉座への扉へと辿り着いた。

「ここから、スヴィーレネスの声が聞こえる! でも扉が開かない!」
「玉座への入場は、王の許可が必要だ。声は届くからやってみなよ、僕は帰るけど」

 玉座に入ろうと扉を叩く俺の後ろで、ドーリィは既に引き返そうとしている。
 慌てて呼び止めようとしたが、彼はひらひらと手を振るだけだった。
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