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4:朝日
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路地裏の片隅、朝日が差し込む中で目を覚ます凰翔。
まだ眠気の残る頭を振り、まぶしい光に目を細める。
背伸びをすると、ひんやりとした石畳が足に触れる。
辺りは静かだが、遠くから鳥のさえずりが聞こえてくる。
視線を下ろすと、何か小さな影がこちらを覗き込んでいた。
「わっ、なんだ……!?」
思わず声を上げて身を起こす。
そこにいたのは、元気いっぱいの犬だった。銀色の毛並みが朝日を浴びて輝きを放っている
「ワンッ! ワンッ!」
尻尾をぶんぶん振り、まるで「早く遊んで」と言いたげだ。
「お前……どこから来たんだ?」
辺りを見回す。まだ人通りは少なく、犬の他には誰もいない。
チーズ牛丼の匂いが身体に残っていたせいか、それに釣られて来たのかもしれない。
犬は空の丼を咥え、目で「ご飯ちょうだい」と訴えてくる。
「なるほど、チーズ牛丼が欲しいんだな?」
凰翔は両手を前にかざし、心の中で熱々のチーズ牛丼を思い描く。
瞬く間に、丼の中に香ばしいチーズ牛丼が現れた。
犬は待ってましたとばかりにバクバクと食べる。
夢中で食べる姿に、思わず笑みが漏れた。
食べ終わると、犬はすたすたと歩き出す。
振り返り、時折「ついてこい」とでも言うかのように吠える。
「お、ついてこいってことか?」
通りすがりの人々の視線がチラチラと刺さるが、朝の時間帯は人も少ない。
それでも不自然に胸を隠すポーズを取る自分に、逆に目立ってしまう気配があった。
犬に導かれるまま歩いていくと、やがて朝日に照らされた巨大な城壁が目の前に姿を現した。
石造りの壁は圧倒的な存在感を放ち、見上げるだけで胃がきゅっと縮み上がるようだ。
「……で、でかっ。あれが街の正門か……」
凰翔は思わず呟く。まるでRPGのオープニングに出てきそうな光景だが、当事者になってみると威圧感が段違いだった。
「止まれ!」
城門の前に立っていた門番の一人が、槍の石突で地面をコツンと突き、鋭い声で呼び止めてきた。
筋骨隆々の体に鎧をまとい、いかにも「この街の治安は俺たちが守っている」と言わんばかりの風格だ。
「……なんだその格好は。朝っぱらから街を歩いてたのか?」
門番の視線が、凰翔の上から下までを舐めるように見る。
「は、はい……その、目が覚めたら服がボロボロで……」
凰翔はしどろもどろに答える。
「ほう……それでも布の一切れくらい残ってるはずだろう。それはどうした?」
門番が眉をひそめる。
「えっと、その……細かく裂けちゃって、もう着られなくて……」
「……服が細かく破れる、だと? ふん、そんな話聞いたことがないな」
門番の目がじわじわと細くなっていく。視線はまるで獲物を値踏みする鷹のようで、凰翔の背中に冷たい汗がつたう。
「ちょっと来てもらおうか。調べさせてもらう」
(やばい! 完全に変質者扱いされてる!)
凰翔が心の中で悲鳴を上げた瞬間――
「ワンッ!」
犬が甲高い声で吠え、突然駆け出した。
「なっ……!」
門番の視線が犬に逸れる。その一瞬の隙を、凰翔の体が反射的に動いた。
「す、すみませぇんっ!」
謝罪になっていない言葉を叫びながら、凰翔も勢いよく走り出す。
「待て! 変質者!」
門番の怒声が城門前に響き渡った。
だが、凰翔の足は信じられないほど速かった。石畳を蹴るたびに体が軽く前へと運ばれ、追っ手の気配はみるみる遠ざかっていく。
自分自身が一番驚いていた。普段なら体育の持久走ですぐ息が上がるはずなのに、今は羽が生えたように駆け抜けられる。
門番の姿はもう後方に小さくなっていた。
しばらく走り、息を整える。
「ふぅ……朝からまるで鬼ごっこだな」
「ワンッ」
「休みたいけど、まだ追ってくるかもしれない。少し早歩きにしよう」
そのまま歩き続けると、街の喧騒は次第に山岳地帯の自然に変わった。
少しだけ通行人はいるものの、変質者への視線は街ほど気にならない。
気楽に歩いていると、犬が突然立ち止まり、クルクルと回りながら吠え始めた。
「どうした……?」
「もう1杯食べたいのか?」
再び牛丼を作ろうとすると、犬は違うとでも言うかのように吠える。
尻尾は振っていない。その様子を見て、凰翔は違うことを悟る。
「……うーん、分からないな。じゃあ、ちょっと休もう」
仰向けになって空を見上げる。山岳地帯の朝空は澄み渡り、冷たい風が頬を撫でていく。
しばらく無言で空を眺めていた凰翔は、ふと思ったことを口に出した。
「そうだ……ここで牛丼屋を開けばいいんじゃないか?」
「ワンッ!」
犬は近づいてきて、横に並んで休む。
まるで長年連れ添ったペットと飼い主のように、穏やかな朝がゆっくり流れていった。
まだ眠気の残る頭を振り、まぶしい光に目を細める。
背伸びをすると、ひんやりとした石畳が足に触れる。
辺りは静かだが、遠くから鳥のさえずりが聞こえてくる。
視線を下ろすと、何か小さな影がこちらを覗き込んでいた。
「わっ、なんだ……!?」
思わず声を上げて身を起こす。
そこにいたのは、元気いっぱいの犬だった。銀色の毛並みが朝日を浴びて輝きを放っている
「ワンッ! ワンッ!」
尻尾をぶんぶん振り、まるで「早く遊んで」と言いたげだ。
「お前……どこから来たんだ?」
辺りを見回す。まだ人通りは少なく、犬の他には誰もいない。
チーズ牛丼の匂いが身体に残っていたせいか、それに釣られて来たのかもしれない。
犬は空の丼を咥え、目で「ご飯ちょうだい」と訴えてくる。
「なるほど、チーズ牛丼が欲しいんだな?」
凰翔は両手を前にかざし、心の中で熱々のチーズ牛丼を思い描く。
瞬く間に、丼の中に香ばしいチーズ牛丼が現れた。
犬は待ってましたとばかりにバクバクと食べる。
夢中で食べる姿に、思わず笑みが漏れた。
食べ終わると、犬はすたすたと歩き出す。
振り返り、時折「ついてこい」とでも言うかのように吠える。
「お、ついてこいってことか?」
通りすがりの人々の視線がチラチラと刺さるが、朝の時間帯は人も少ない。
それでも不自然に胸を隠すポーズを取る自分に、逆に目立ってしまう気配があった。
犬に導かれるまま歩いていくと、やがて朝日に照らされた巨大な城壁が目の前に姿を現した。
石造りの壁は圧倒的な存在感を放ち、見上げるだけで胃がきゅっと縮み上がるようだ。
「……で、でかっ。あれが街の正門か……」
凰翔は思わず呟く。まるでRPGのオープニングに出てきそうな光景だが、当事者になってみると威圧感が段違いだった。
「止まれ!」
城門の前に立っていた門番の一人が、槍の石突で地面をコツンと突き、鋭い声で呼び止めてきた。
筋骨隆々の体に鎧をまとい、いかにも「この街の治安は俺たちが守っている」と言わんばかりの風格だ。
「……なんだその格好は。朝っぱらから街を歩いてたのか?」
門番の視線が、凰翔の上から下までを舐めるように見る。
「は、はい……その、目が覚めたら服がボロボロで……」
凰翔はしどろもどろに答える。
「ほう……それでも布の一切れくらい残ってるはずだろう。それはどうした?」
門番が眉をひそめる。
「えっと、その……細かく裂けちゃって、もう着られなくて……」
「……服が細かく破れる、だと? ふん、そんな話聞いたことがないな」
門番の目がじわじわと細くなっていく。視線はまるで獲物を値踏みする鷹のようで、凰翔の背中に冷たい汗がつたう。
「ちょっと来てもらおうか。調べさせてもらう」
(やばい! 完全に変質者扱いされてる!)
凰翔が心の中で悲鳴を上げた瞬間――
「ワンッ!」
犬が甲高い声で吠え、突然駆け出した。
「なっ……!」
門番の視線が犬に逸れる。その一瞬の隙を、凰翔の体が反射的に動いた。
「す、すみませぇんっ!」
謝罪になっていない言葉を叫びながら、凰翔も勢いよく走り出す。
「待て! 変質者!」
門番の怒声が城門前に響き渡った。
だが、凰翔の足は信じられないほど速かった。石畳を蹴るたびに体が軽く前へと運ばれ、追っ手の気配はみるみる遠ざかっていく。
自分自身が一番驚いていた。普段なら体育の持久走ですぐ息が上がるはずなのに、今は羽が生えたように駆け抜けられる。
門番の姿はもう後方に小さくなっていた。
しばらく走り、息を整える。
「ふぅ……朝からまるで鬼ごっこだな」
「ワンッ」
「休みたいけど、まだ追ってくるかもしれない。少し早歩きにしよう」
そのまま歩き続けると、街の喧騒は次第に山岳地帯の自然に変わった。
少しだけ通行人はいるものの、変質者への視線は街ほど気にならない。
気楽に歩いていると、犬が突然立ち止まり、クルクルと回りながら吠え始めた。
「どうした……?」
「もう1杯食べたいのか?」
再び牛丼を作ろうとすると、犬は違うとでも言うかのように吠える。
尻尾は振っていない。その様子を見て、凰翔は違うことを悟る。
「……うーん、分からないな。じゃあ、ちょっと休もう」
仰向けになって空を見上げる。山岳地帯の朝空は澄み渡り、冷たい風が頬を撫でていく。
しばらく無言で空を眺めていた凰翔は、ふと思ったことを口に出した。
「そうだ……ここで牛丼屋を開けばいいんじゃないか?」
「ワンッ!」
犬は近づいてきて、横に並んで休む。
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