5 / 55
5:牛丼屋計画
しおりを挟む
「さて……牛丼屋を作るにしても、どうすればいいんだ?」
凰翔は腕を組み、眉間に皺を寄せながら唸った。頭の中で理想の店舗を思い浮かべてはみるものの、そもそも立派な建物を建てる技術も道具も持ち合わせていない。
「……まあ、客席は外にして、牛丼を渡せるカウンターだけあれば十分か。ほら、祭りの屋台っぽい感じの……」
「ワンッ!」
横で犬が尻尾を振りながら吠えた。まるで「それでいいんだ」と背中を押してくれるようだ。
「だよな。ただ、問題は……牛丼を作ってる様子を見せられないってことだな。スキルでぱっと出してるの、客に見られたら怪しまれるだろ? だから布で仕切りを作って、調理は見えないようにして……客席は丸太とか木の株を並べて椅子代わりにすれば……うん、イメージできてきた!」
ぼそぼそと独り言を繰り返しながら、脳内で「なんちゃって牛丼屋」の図面が完成していく。要は、簡易な受け渡し口だけを設け、客は外で食べてもらうスタイルだ。
「で、問題は道具だな……」
しばし黙り込むと、凰翔は大きく深呼吸をした。
「よし。ここを拠点にして、山からゴミ漁り……いや、宝探しでもしてくるか」
そう決めると、凰翔は山岳地帯をうろつき始めた。
錆びついた剣、へこんだ兜、折れた木の枝、割れた壺の欠片……。
「これも一応……いや、ゴミかな。いやでも、工夫すれば何かに……いや、やっぱゴミだよな……」
独り言で自分にツッコミを入れながら、それでもせっせと拾い集めては拠点に積み上げていく。結果、意味不明な物体の山がどんどん高くなっていった。
そのとき、犬が駆け寄ってきた。口には、ひらひらと揺れる砂色の布をくわえている。
「ん? お前、それ……どこで拾ってきたんだ?」
「ワンッ!」
犬は誇らしげに布を地面へ放り出すと、「早く気づけ」とでも言いたげに尻尾を振る。
「……これって……服?」
「ワンッ!」
「服かぁ……まあ、一応着れそうだけど……」
凰翔は恐る恐る布を羽織ってみた。丈は少し短いが、かろうじて下着姿を隠せる程度には形になっている。
「……どうだ? 似合ってるか?」
「……」
犬は沈黙。いや、沈黙というよりも、その目は明らかに「全然似合ってない」と言っていた。
「……まあ、いいさ。少なくとも、これで変質者扱いはされないだろ」
強がるように言いながら、凰翔は再びガラクタ集めに戻った。
◇
「……ん? ここは」
集めた荷物を抱えて歩いていると、木々の合間から光が差し込み、小川が姿を現した。
透き通った水がさらさらと流れ、陽光を反射してきらめいている。空気もひんやりと心地よい。
「おお……助かった! 水源だ!」
凰翔は我慢できず、しゃがみこんで両手で水をすくい上げた。冷たさが掌を走り抜け、喉を潤していく。
「……くぅ、冷たくてめちゃくちゃ美味い!」
顔を上げると、犬も隣でペロペロと水を舐めている。
「まさか……水源があるのまで分かってて、ここに連れてきたのか?」
「ワンッ!」
当たり前だろ、と言わんばかりの自信満々な鳴き声。
「……やっぱりお前、ただの犬じゃないな」
凰翔は苦笑しながら、小川のほとりに腰を下ろした。
さらさらと流れる水を眺めているうちに、張り詰めていた気持ちが、いつの間にかゆっくりと解けていった。
「……やっぱり、水って大事だな……」
口に出さずとも、自然と小さな吐息が漏れる。
人間の手がほとんど触れていない自然の中で、時間がゆっくりと流れていくように感じられた。
そして、頭の中でふと思い浮かぶ。
(……ここなら、牛丼屋をやれそうだ)
牛丼屋計画は、少しずつ、しかし確実に形を帯び始めていた――。
凰翔は腕を組み、眉間に皺を寄せながら唸った。頭の中で理想の店舗を思い浮かべてはみるものの、そもそも立派な建物を建てる技術も道具も持ち合わせていない。
「……まあ、客席は外にして、牛丼を渡せるカウンターだけあれば十分か。ほら、祭りの屋台っぽい感じの……」
「ワンッ!」
横で犬が尻尾を振りながら吠えた。まるで「それでいいんだ」と背中を押してくれるようだ。
「だよな。ただ、問題は……牛丼を作ってる様子を見せられないってことだな。スキルでぱっと出してるの、客に見られたら怪しまれるだろ? だから布で仕切りを作って、調理は見えないようにして……客席は丸太とか木の株を並べて椅子代わりにすれば……うん、イメージできてきた!」
ぼそぼそと独り言を繰り返しながら、脳内で「なんちゃって牛丼屋」の図面が完成していく。要は、簡易な受け渡し口だけを設け、客は外で食べてもらうスタイルだ。
「で、問題は道具だな……」
しばし黙り込むと、凰翔は大きく深呼吸をした。
「よし。ここを拠点にして、山からゴミ漁り……いや、宝探しでもしてくるか」
そう決めると、凰翔は山岳地帯をうろつき始めた。
錆びついた剣、へこんだ兜、折れた木の枝、割れた壺の欠片……。
「これも一応……いや、ゴミかな。いやでも、工夫すれば何かに……いや、やっぱゴミだよな……」
独り言で自分にツッコミを入れながら、それでもせっせと拾い集めては拠点に積み上げていく。結果、意味不明な物体の山がどんどん高くなっていった。
そのとき、犬が駆け寄ってきた。口には、ひらひらと揺れる砂色の布をくわえている。
「ん? お前、それ……どこで拾ってきたんだ?」
「ワンッ!」
犬は誇らしげに布を地面へ放り出すと、「早く気づけ」とでも言いたげに尻尾を振る。
「……これって……服?」
「ワンッ!」
「服かぁ……まあ、一応着れそうだけど……」
凰翔は恐る恐る布を羽織ってみた。丈は少し短いが、かろうじて下着姿を隠せる程度には形になっている。
「……どうだ? 似合ってるか?」
「……」
犬は沈黙。いや、沈黙というよりも、その目は明らかに「全然似合ってない」と言っていた。
「……まあ、いいさ。少なくとも、これで変質者扱いはされないだろ」
強がるように言いながら、凰翔は再びガラクタ集めに戻った。
◇
「……ん? ここは」
集めた荷物を抱えて歩いていると、木々の合間から光が差し込み、小川が姿を現した。
透き通った水がさらさらと流れ、陽光を反射してきらめいている。空気もひんやりと心地よい。
「おお……助かった! 水源だ!」
凰翔は我慢できず、しゃがみこんで両手で水をすくい上げた。冷たさが掌を走り抜け、喉を潤していく。
「……くぅ、冷たくてめちゃくちゃ美味い!」
顔を上げると、犬も隣でペロペロと水を舐めている。
「まさか……水源があるのまで分かってて、ここに連れてきたのか?」
「ワンッ!」
当たり前だろ、と言わんばかりの自信満々な鳴き声。
「……やっぱりお前、ただの犬じゃないな」
凰翔は苦笑しながら、小川のほとりに腰を下ろした。
さらさらと流れる水を眺めているうちに、張り詰めていた気持ちが、いつの間にかゆっくりと解けていった。
「……やっぱり、水って大事だな……」
口に出さずとも、自然と小さな吐息が漏れる。
人間の手がほとんど触れていない自然の中で、時間がゆっくりと流れていくように感じられた。
そして、頭の中でふと思い浮かぶ。
(……ここなら、牛丼屋をやれそうだ)
牛丼屋計画は、少しずつ、しかし確実に形を帯び始めていた――。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる