勇者、チー牛

チー牛Y

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5:牛丼屋計画

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「さて……牛丼屋を作るにしても、どうすればいいんだ?」

凰翔は腕を組み、眉間に皺を寄せながら唸った。頭の中で理想の店舗を思い浮かべてはみるものの、そもそも立派な建物を建てる技術も道具も持ち合わせていない。

「……まあ、客席は外にして、牛丼を渡せるカウンターだけあれば十分か。ほら、祭りの屋台っぽい感じの……」

「ワンッ!」

横で犬が尻尾を振りながら吠えた。まるで「それでいいんだ」と背中を押してくれるようだ。

「だよな。ただ、問題は……牛丼を作ってる様子を見せられないってことだな。スキルでぱっと出してるの、客に見られたら怪しまれるだろ? だから布で仕切りを作って、調理は見えないようにして……客席は丸太とか木の株を並べて椅子代わりにすれば……うん、イメージできてきた!」

ぼそぼそと独り言を繰り返しながら、脳内で「なんちゃって牛丼屋」の図面が完成していく。要は、簡易な受け渡し口だけを設け、客は外で食べてもらうスタイルだ。

「で、問題は道具だな……」

しばし黙り込むと、凰翔は大きく深呼吸をした。

「よし。ここを拠点にして、山からゴミ漁り……いや、宝探しでもしてくるか」

そう決めると、凰翔は山岳地帯をうろつき始めた。

錆びついた剣、へこんだ兜、折れた木の枝、割れた壺の欠片……。

「これも一応……いや、ゴミかな。いやでも、工夫すれば何かに……いや、やっぱゴミだよな……」

独り言で自分にツッコミを入れながら、それでもせっせと拾い集めては拠点に積み上げていく。結果、意味不明な物体の山がどんどん高くなっていった。

そのとき、犬が駆け寄ってきた。口には、ひらひらと揺れる砂色の布をくわえている。

「ん? お前、それ……どこで拾ってきたんだ?」

「ワンッ!」

犬は誇らしげに布を地面へ放り出すと、「早く気づけ」とでも言いたげに尻尾を振る。

「……これって……服?」

「ワンッ!」

「服かぁ……まあ、一応着れそうだけど……」

凰翔は恐る恐る布を羽織ってみた。丈は少し短いが、かろうじて下着姿を隠せる程度には形になっている。

「……どうだ? 似合ってるか?」

「……」

犬は沈黙。いや、沈黙というよりも、その目は明らかに「全然似合ってない」と言っていた。

「……まあ、いいさ。少なくとも、これで変質者扱いはされないだろ」

強がるように言いながら、凰翔は再びガラクタ集めに戻った。








「……ん? ここは」

集めた荷物を抱えて歩いていると、木々の合間から光が差し込み、小川が姿を現した。

透き通った水がさらさらと流れ、陽光を反射してきらめいている。空気もひんやりと心地よい。

「おお……助かった! 水源だ!」

凰翔は我慢できず、しゃがみこんで両手で水をすくい上げた。冷たさが掌を走り抜け、喉を潤していく。

「……くぅ、冷たくてめちゃくちゃ美味い!」

顔を上げると、犬も隣でペロペロと水を舐めている。

「まさか……水源があるのまで分かってて、ここに連れてきたのか?」

「ワンッ!」
当たり前だろ、と言わんばかりの自信満々な鳴き声。

「……やっぱりお前、ただの犬じゃないな」

凰翔は苦笑しながら、小川のほとりに腰を下ろした。

さらさらと流れる水を眺めているうちに、張り詰めていた気持ちが、いつの間にかゆっくりと解けていった。

「……やっぱり、水って大事だな……」

口に出さずとも、自然と小さな吐息が漏れる。

人間の手がほとんど触れていない自然の中で、時間がゆっくりと流れていくように感じられた。

そして、頭の中でふと思い浮かぶ。

(……ここなら、牛丼屋をやれそうだ)

牛丼屋計画は、少しずつ、しかし確実に形を帯び始めていた――。
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