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6:焚き火
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闇に包まれた夜。
凰翔は拾ってきた枝を必死に擦り合わせている。ぐりぐりと板に押しつけ、汗だくになって何度も何度も回す。
「……っ、火、出ろ……!」
だが木から立ちのぼるのは、かすかな煙すらなく、ただの虚しい摩擦音ばかり。
最後には「パキッ」と情けない音を立て、枝が真ん中から折れてしまった。
「……難しいな……火を起こすのって」
息を荒げ、膝に手をついて項垂れる凰翔。
すでに数時間は格闘しているのに、成果はゼロ。
腕は痺れ、汗でシャツは背中に張りついている。
そのとき。
「……ワン」
背後から小さな足音。犬がのそりと近づき、折れた枝の前にちょこんと座る。
そして、肉球でちょい、と木をタッチした。
――ボッ。
一瞬で炎が立ち上がった。
「……え?」
ぱちぱちと音を立てる焚き火。
橙の光に照らされ、犬はちらりと凰翔を見ると、どや顔で鼻を鳴らした。
「まさか……お前……魔法も使えるのか?」
「ワンッ」
誇らしげな鳴き声。
凰翔は口を半開きにして炎を見つめ、そしてガックリと肩を落とした。
「……俺が汗だくで数時間やってもダメだったのに……肉球ワンタッチって……」
犬は胸を張り、ゆっくりと尻尾を振る。その姿は「まあまあ、俺に任せろ」とでも言っているようだった。
「はぁ……牛丼作る前に、店長の座を奪われるとか……看板犬どころか完全にボスじゃねぇか」
「ワン!」
炎に揺らめく影の中、二人(?)の奇妙な初夜は静かに更けていった。
◇
翌朝。
凰翔は朝日を浴びながら、地面に散らばるガラクタの山を前にしゃがみこんでいた。
鉄屑、石の欠片、木片……どれも古びて使えそうにないものばかり。
「うーん……この斧なんて、錆びだらけだな。……使えるかな?」
錆びで真っ赤に変色した斧を手に取り、首をかしげる。
すると犬がすぐさまクルクルと彼の周りを回り、吠え始めた。
「お、おい……もしかして、また何か知ってるのか? 錆を落とせるとか?」
「ワンッ!」
確信めいた反応に、凰翔は思わず苦笑しながら犬の前に斧を差し出した。
「じゃあ……やってみろよ」
次の瞬間。
――ゴォォォォッ!!
犬の口から炎が噴き出した。
その勢いは火炎放射器そのもの。凰翔は慌てて腕で顔をかばいながらも、錆びた刃を炎にさらした。
「うわっ、あっつ……! けど、確かに……!」
赤熱した刃の表面から、錆がぽろぽろと崩れ落ちていく。
やがて現れたのは、鈍い銀色を放つ鉄の刃だった。
「……まさか、本当に錆びが消えた……」
感嘆の息を漏らしたそのとき、刃の根元に奇妙な模様が浮かび上がった。
それは円を基調とした紋章。中央には炎を吐く獣の姿が刻まれている。
「紋章……? いや、刻印か……」
よく見ると、その獣は竜にも獅子にも見えた。
だが頭には、牛のような角が二本突き出している。
「……竜……? いや、牛……?」
斧を傾けるたびに、光の加減で獣の形が微妙に変わって見える。
まるでこちらを試しているような、不気味な存在感があった。
犬はその紋章を凝視し、尻尾をゆっくりと揺らしている。
ただの炎ではなく、特別な“力”を感じ取っているかのように。
「……はぁ。どうせまた俺だけが知らない世界の常識なんだろ」
凰翔は肩をすくめつつも、斧をしっかりと握りしめた。
「でもまあ、これで木くらいは切れる。……牛丼屋の柱くらいにはなるだろ」
「ワン!」
朝日を浴びて輝く斧と、やけに誇らしげな犬。
こうして奇妙なコンビの牛丼屋づくりは、また一歩前進したのだった。
凰翔は拾ってきた枝を必死に擦り合わせている。ぐりぐりと板に押しつけ、汗だくになって何度も何度も回す。
「……っ、火、出ろ……!」
だが木から立ちのぼるのは、かすかな煙すらなく、ただの虚しい摩擦音ばかり。
最後には「パキッ」と情けない音を立て、枝が真ん中から折れてしまった。
「……難しいな……火を起こすのって」
息を荒げ、膝に手をついて項垂れる凰翔。
すでに数時間は格闘しているのに、成果はゼロ。
腕は痺れ、汗でシャツは背中に張りついている。
そのとき。
「……ワン」
背後から小さな足音。犬がのそりと近づき、折れた枝の前にちょこんと座る。
そして、肉球でちょい、と木をタッチした。
――ボッ。
一瞬で炎が立ち上がった。
「……え?」
ぱちぱちと音を立てる焚き火。
橙の光に照らされ、犬はちらりと凰翔を見ると、どや顔で鼻を鳴らした。
「まさか……お前……魔法も使えるのか?」
「ワンッ」
誇らしげな鳴き声。
凰翔は口を半開きにして炎を見つめ、そしてガックリと肩を落とした。
「……俺が汗だくで数時間やってもダメだったのに……肉球ワンタッチって……」
犬は胸を張り、ゆっくりと尻尾を振る。その姿は「まあまあ、俺に任せろ」とでも言っているようだった。
「はぁ……牛丼作る前に、店長の座を奪われるとか……看板犬どころか完全にボスじゃねぇか」
「ワン!」
炎に揺らめく影の中、二人(?)の奇妙な初夜は静かに更けていった。
◇
翌朝。
凰翔は朝日を浴びながら、地面に散らばるガラクタの山を前にしゃがみこんでいた。
鉄屑、石の欠片、木片……どれも古びて使えそうにないものばかり。
「うーん……この斧なんて、錆びだらけだな。……使えるかな?」
錆びで真っ赤に変色した斧を手に取り、首をかしげる。
すると犬がすぐさまクルクルと彼の周りを回り、吠え始めた。
「お、おい……もしかして、また何か知ってるのか? 錆を落とせるとか?」
「ワンッ!」
確信めいた反応に、凰翔は思わず苦笑しながら犬の前に斧を差し出した。
「じゃあ……やってみろよ」
次の瞬間。
――ゴォォォォッ!!
犬の口から炎が噴き出した。
その勢いは火炎放射器そのもの。凰翔は慌てて腕で顔をかばいながらも、錆びた刃を炎にさらした。
「うわっ、あっつ……! けど、確かに……!」
赤熱した刃の表面から、錆がぽろぽろと崩れ落ちていく。
やがて現れたのは、鈍い銀色を放つ鉄の刃だった。
「……まさか、本当に錆びが消えた……」
感嘆の息を漏らしたそのとき、刃の根元に奇妙な模様が浮かび上がった。
それは円を基調とした紋章。中央には炎を吐く獣の姿が刻まれている。
「紋章……? いや、刻印か……」
よく見ると、その獣は竜にも獅子にも見えた。
だが頭には、牛のような角が二本突き出している。
「……竜……? いや、牛……?」
斧を傾けるたびに、光の加減で獣の形が微妙に変わって見える。
まるでこちらを試しているような、不気味な存在感があった。
犬はその紋章を凝視し、尻尾をゆっくりと揺らしている。
ただの炎ではなく、特別な“力”を感じ取っているかのように。
「……はぁ。どうせまた俺だけが知らない世界の常識なんだろ」
凰翔は肩をすくめつつも、斧をしっかりと握りしめた。
「でもまあ、これで木くらいは切れる。……牛丼屋の柱くらいにはなるだろ」
「ワン!」
朝日を浴びて輝く斧と、やけに誇らしげな犬。
こうして奇妙なコンビの牛丼屋づくりは、また一歩前進したのだった。
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