勇者、チー牛

チー牛Y

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8:丸太

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森の出口。
凰翔は丸太の端を握りしめ、ぜぇぜぇと息を荒げながら地面にへたり込んでいた。

「……っはぁ……はぁ……運んだ…………運んだぞ俺……!」

腕はぷるぷる、足はがくがく。

凰翔は地面に寝転がり、しばらく空を見上げた。
淡い雲が流れ、木漏れ日が顔を照らす。

「……でも、やったな。牛丼屋の柱、一本目……。なんか、ちょっとだけ文明っぽいぞ俺ら」

犬が尻尾を振る。
凰翔は無理やり立ち上がり、丸太を支えながら拠点の中心へと移動した。

「ふぅ……さて……立てるか!」

凰翔は錆びたスコップを構え、地面に突き立てた。
――ガンッ。
金属音が乾いた森に響く。

「っ……か、硬っ!?」

刃先はほんの数センチしか入らず、スコップの柄が手のひらに食い込む。
何度か力任せに突いてみるが、石混じりの地面はびくともしない。

「……ちょっと待ってくれ……これ、地球より硬くないか? 異世界、地面まで理不尽なの……?」

呻きながらもう一度スコップを押し込む。
だが返ってくるのは、カンッカンッという無情な音だけ。

凰翔は肩で息をしながら、スコップを杖のように突いて休んだ。

「はぁ……これは筋肉痛の翌日にやる作業じゃない……」

空を見上げると、木々の隙間から淡い陽光が降り注ぐ。
静かな森の中で、自分の荒い呼吸だけが響く。

「……文明の第一歩って、こんなにしんどいのか……」

そうぼやいた瞬間、隣で見ていた犬が「ワンッ」と短く吠えた。

凰翔が顔を上げると、犬はまるで「貸してみろ」と言わんばかりに前足を上げていた。

すると次の瞬間、足元の土がふわりと浮き上がり、柔らかく整地されていく。

「お、おお……!?」

犬は得意げにしっぽを振りながら、土を均等に盛り上げ、まるで職人のように基礎の形を整えていく。

「お前……まさか、土魔法……!? そんなの使えるのかよ……!」
「ワンッ」
「なんだよそのドヤ顔……。完全に俺より有能じゃないか……」


魔法でできた基礎の上に、丸太を押し込んでいく。
――ギギギ……ッ。
木がきしみながら、ゆっくりと立ち上がる。

「……おおっ!? た、立ったぁぁぁ!!」

犬が「ワン!」と応える。
凰翔は胸を張って、ドヤ顔で柱を指さした。

「これが俺たちの牛丼屋だ!」

だが次の瞬間、柱がぐらりと傾いた。

「おわっ!? ちょ、ちょっと待て! 倒れる倒れる!」

凰翔は必死に踏ん張り、なんとか体重で支えきった。

「……ふぅぅぅ。あぶなかった……いきなり倒壊とか、心折れるとこだった……」

凰翔は息を整えながら苦笑いした。

それでも、柱を見上げる表情は少し誇らしげだった。
夕陽に照らされた丸太は、ほんの少しだけ、夢の形に近づいて見えた。


「……でも、なんか楽しいな。こうやって一から作るの。牛丼屋っていうか……人生、再建してるような」

夕焼けの空に、チー牛勇者の声が響く。
こうして、牛丼屋計画は、ついに柱を一本立てるところまでたどり着いたのだった。
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