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23:注文カウンター
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「よし……外壁もできたし、次はカウンターだな」
凰翔は腕を組み、葉の壁を眺めながら呟いた。
「カウンターがあれば、客と厨房を分けられる。いよいよ“店”って感じだ」
ギンが「ワフッ!」と返事をし、尻尾をブンと振る。
「やる気だな。よし、木を探しに行こう」
森の中はしっとりと湿り、土の匂いが濃い。
凰翔は周囲を見回し、まっすぐ天へ伸びた一本の若木を見つけた。
手で幹を叩くと、コン、と軽く響く。
「これだ。太さも硬さも、ちょうどいい」
斧を構え、幹に打ち込む。
ゴッ、ゴッ、ゴッ……。
音が森に響き、木がわずかに揺れた。
「ふっ……もう少し……!」
最後の一撃で、幹がぐらりと傾き、枝を揺らしながら倒れる。
ドサァッ――
土煙と一緒に、甘い樹液の匂いが広がった。
「……いい木だ。芯がしっかりしてる」
凰翔は倒れた幹を見下ろし、枝を払い落とした。
木肌には、若木特有の柔らかい光沢があった。
「ギン、これ一本で全部作ろう。支柱も天板もこの木から取る」
「ワフッ!」
凰翔は幹を転がして、地面の上に並べた。
「ここを支柱用、真ん中を天板用、一番細い上の部分を補強用に使う」
樹皮の節を指でなぞりながら、三箇所に印を刻む。森の静けさの中、刃が木肌をかすめる音が響いた。
斧を構え、凰翔は深く息を吸う。
「まずは支柱三本……これを均等に切る。長さは俺の腰くらいだな」
風が抜け、木の葉がざわめいた。ギンが鼻を鳴らしながら丸太の端を押さえる。
凰翔は斧を振り上げ、肩越しに振り下ろす。乾いた打撃音が連続し、木屑が舞い上がる。斧の刃が幹の芯を割り、木の香りがふわりと立ちのぼった。
何度も打ち込み、木が「ミシ…ミシ…」と悲鳴を上げる。やがて、最後の一撃で「パキン」と音を立てて割れた。
「……よし、一本」
汗をぬぐいながら、凰翔は短く息を吐いた。
同じ要領で二本、三本と切り出していく。地面には、削ぎ取られた木肌と、切り口から流れ出た樹液が光っていた。
「三本完成! あとは天板だな」
凰翔は斧を持ち替え、少し太めの部分に手を伸ばす。
木の幹の重みがずっしりと伝わる。腕に鈍い疲労が残るが、目は職人のように真剣だった。
「ここを半分に割る。ギン、力を貸してくれ!」
「ワフ!」
二人で息を合わせて押すと、木がギシギシと悲鳴を上げ、最後にパキンと割れた。
中から現れた年輪の模様が、まるで牛丼のタレの渦のように見えた。
「きれいだな……この模様、なんか食欲が湧く」
凰翔は笑いながら、割れた面を葉で拭い、樹液をぬぐった。
そして店の前に戻り、まずは三本の支柱を地面に立てる。
「まず両端と中央に一本ずつ!」
地面に穴を掘り、支柱を差し込む。ギンが土を押し固め、凰翔は石で叩いて沈めた。
「よし、まっすぐ立ったな」
だが、凰翔はすぐに首をかしげた。
「……うーん。これだけでも良いけど、前に倒れる可能性もあるからな……」
天板を支柱の上に仮置きすると、少し前方に重心が傾いた。
「やっぱりダメか……つっかえ棒が要る」
凰翔は先ほど切った細い枝を手に取った。
「これを斜めに差して、支柱を支えるんだ。なんというか、三脚みたいに」
ギンが枝をくわえて運んでくる。
「そう、それをここに――よし、この角度だ」
斜めの枝を支柱に当て、樹皮のツルでしっかり縛る。
最後に支柱の上に天板を載せるが、そのままだと滑るので、凰翔は支柱の上に浅い溝を刻んだ。
「ここに天板の端をはめて、ツルで巻けば……」
天板がカチリとはまり、全体が一体化する。
凰翔は上から手で叩いて確かめた。
トン、トン――。低く響く音。
「……よし、びくともしない」
ギンが前足を乗せ、しっぽをぶんぶん振る。
「ワフ!」
「ははっ、そうだな。これが俺たちの注文カウンターだ」
凰翔は腕を組み、葉の壁を眺めながら呟いた。
「カウンターがあれば、客と厨房を分けられる。いよいよ“店”って感じだ」
ギンが「ワフッ!」と返事をし、尻尾をブンと振る。
「やる気だな。よし、木を探しに行こう」
森の中はしっとりと湿り、土の匂いが濃い。
凰翔は周囲を見回し、まっすぐ天へ伸びた一本の若木を見つけた。
手で幹を叩くと、コン、と軽く響く。
「これだ。太さも硬さも、ちょうどいい」
斧を構え、幹に打ち込む。
ゴッ、ゴッ、ゴッ……。
音が森に響き、木がわずかに揺れた。
「ふっ……もう少し……!」
最後の一撃で、幹がぐらりと傾き、枝を揺らしながら倒れる。
ドサァッ――
土煙と一緒に、甘い樹液の匂いが広がった。
「……いい木だ。芯がしっかりしてる」
凰翔は倒れた幹を見下ろし、枝を払い落とした。
木肌には、若木特有の柔らかい光沢があった。
「ギン、これ一本で全部作ろう。支柱も天板もこの木から取る」
「ワフッ!」
凰翔は幹を転がして、地面の上に並べた。
「ここを支柱用、真ん中を天板用、一番細い上の部分を補強用に使う」
樹皮の節を指でなぞりながら、三箇所に印を刻む。森の静けさの中、刃が木肌をかすめる音が響いた。
斧を構え、凰翔は深く息を吸う。
「まずは支柱三本……これを均等に切る。長さは俺の腰くらいだな」
風が抜け、木の葉がざわめいた。ギンが鼻を鳴らしながら丸太の端を押さえる。
凰翔は斧を振り上げ、肩越しに振り下ろす。乾いた打撃音が連続し、木屑が舞い上がる。斧の刃が幹の芯を割り、木の香りがふわりと立ちのぼった。
何度も打ち込み、木が「ミシ…ミシ…」と悲鳴を上げる。やがて、最後の一撃で「パキン」と音を立てて割れた。
「……よし、一本」
汗をぬぐいながら、凰翔は短く息を吐いた。
同じ要領で二本、三本と切り出していく。地面には、削ぎ取られた木肌と、切り口から流れ出た樹液が光っていた。
「三本完成! あとは天板だな」
凰翔は斧を持ち替え、少し太めの部分に手を伸ばす。
木の幹の重みがずっしりと伝わる。腕に鈍い疲労が残るが、目は職人のように真剣だった。
「ここを半分に割る。ギン、力を貸してくれ!」
「ワフ!」
二人で息を合わせて押すと、木がギシギシと悲鳴を上げ、最後にパキンと割れた。
中から現れた年輪の模様が、まるで牛丼のタレの渦のように見えた。
「きれいだな……この模様、なんか食欲が湧く」
凰翔は笑いながら、割れた面を葉で拭い、樹液をぬぐった。
そして店の前に戻り、まずは三本の支柱を地面に立てる。
「まず両端と中央に一本ずつ!」
地面に穴を掘り、支柱を差し込む。ギンが土を押し固め、凰翔は石で叩いて沈めた。
「よし、まっすぐ立ったな」
だが、凰翔はすぐに首をかしげた。
「……うーん。これだけでも良いけど、前に倒れる可能性もあるからな……」
天板を支柱の上に仮置きすると、少し前方に重心が傾いた。
「やっぱりダメか……つっかえ棒が要る」
凰翔は先ほど切った細い枝を手に取った。
「これを斜めに差して、支柱を支えるんだ。なんというか、三脚みたいに」
ギンが枝をくわえて運んでくる。
「そう、それをここに――よし、この角度だ」
斜めの枝を支柱に当て、樹皮のツルでしっかり縛る。
最後に支柱の上に天板を載せるが、そのままだと滑るので、凰翔は支柱の上に浅い溝を刻んだ。
「ここに天板の端をはめて、ツルで巻けば……」
天板がカチリとはまり、全体が一体化する。
凰翔は上から手で叩いて確かめた。
トン、トン――。低く響く音。
「……よし、びくともしない」
ギンが前足を乗せ、しっぽをぶんぶん振る。
「ワフ!」
「ははっ、そうだな。これが俺たちの注文カウンターだ」
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