勇者、チー牛

チー牛Y

文字の大きさ
23 / 55

23:注文カウンター

しおりを挟む
「よし……外壁もできたし、次はカウンターだな」
凰翔は腕を組み、葉の壁を眺めながら呟いた。

「カウンターがあれば、客と厨房を分けられる。いよいよ“店”って感じだ」

ギンが「ワフッ!」と返事をし、尻尾をブンと振る。
「やる気だな。よし、木を探しに行こう」

森の中はしっとりと湿り、土の匂いが濃い。
凰翔は周囲を見回し、まっすぐ天へ伸びた一本の若木を見つけた。
手で幹を叩くと、コン、と軽く響く。

「これだ。太さも硬さも、ちょうどいい」
斧を構え、幹に打ち込む。

ゴッ、ゴッ、ゴッ……。

音が森に響き、木がわずかに揺れた。

「ふっ……もう少し……!」

最後の一撃で、幹がぐらりと傾き、枝を揺らしながら倒れる。

ドサァッ――

土煙と一緒に、甘い樹液の匂いが広がった。

「……いい木だ。芯がしっかりしてる」
凰翔は倒れた幹を見下ろし、枝を払い落とした。
木肌には、若木特有の柔らかい光沢があった。

「ギン、これ一本で全部作ろう。支柱も天板もこの木から取る」
「ワフッ!」


凰翔は幹を転がして、地面の上に並べた。
「ここを支柱用、真ん中を天板用、一番細い上の部分を補強用に使う」
樹皮の節を指でなぞりながら、三箇所に印を刻む。森の静けさの中、刃が木肌をかすめる音が響いた。

斧を構え、凰翔は深く息を吸う。

「まずは支柱三本……これを均等に切る。長さは俺の腰くらいだな」

風が抜け、木の葉がざわめいた。ギンが鼻を鳴らしながら丸太の端を押さえる。

凰翔は斧を振り上げ、肩越しに振り下ろす。乾いた打撃音が連続し、木屑が舞い上がる。斧の刃が幹の芯を割り、木の香りがふわりと立ちのぼった。

何度も打ち込み、木が「ミシ…ミシ…」と悲鳴を上げる。やがて、最後の一撃で「パキン」と音を立てて割れた。

「……よし、一本」
汗をぬぐいながら、凰翔は短く息を吐いた。

同じ要領で二本、三本と切り出していく。地面には、削ぎ取られた木肌と、切り口から流れ出た樹液が光っていた。

「三本完成! あとは天板だな」
凰翔は斧を持ち替え、少し太めの部分に手を伸ばす。
木の幹の重みがずっしりと伝わる。腕に鈍い疲労が残るが、目は職人のように真剣だった。

「ここを半分に割る。ギン、力を貸してくれ!」

「ワフ!」

二人で息を合わせて押すと、木がギシギシと悲鳴を上げ、最後にパキンと割れた。
中から現れた年輪の模様が、まるで牛丼のタレの渦のように見えた。

「きれいだな……この模様、なんか食欲が湧く」

凰翔は笑いながら、割れた面を葉で拭い、樹液をぬぐった。

そして店の前に戻り、まずは三本の支柱を地面に立てる。

「まず両端と中央に一本ずつ!」

地面に穴を掘り、支柱を差し込む。ギンが土を押し固め、凰翔は石で叩いて沈めた。
「よし、まっすぐ立ったな」

だが、凰翔はすぐに首をかしげた。
「……うーん。これだけでも良いけど、前に倒れる可能性もあるからな……」

天板を支柱の上に仮置きすると、少し前方に重心が傾いた。

「やっぱりダメか……つっかえ棒が要る」
凰翔は先ほど切った細い枝を手に取った。

「これを斜めに差して、支柱を支えるんだ。なんというか、三脚みたいに」

ギンが枝をくわえて運んでくる。
「そう、それをここに――よし、この角度だ」
斜めの枝を支柱に当て、樹皮のツルでしっかり縛る。

最後に支柱の上に天板を載せるが、そのままだと滑るので、凰翔は支柱の上に浅い溝を刻んだ。

「ここに天板の端をはめて、ツルで巻けば……」
天板がカチリとはまり、全体が一体化する。

凰翔は上から手で叩いて確かめた。
トン、トン――。低く響く音。
「……よし、びくともしない」

ギンが前足を乗せ、しっぽをぶんぶん振る。
「ワフ!」
「ははっ、そうだな。これが俺たちの注文カウンターだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...