勇者、チー牛

２４：屋外の客席

「よし、注文カウンターもできた。――次は客席だな」
凰翔は木屑のついた手を払い、外の開けた場所を見渡した。

昼下がりの森には、葉擦れの音と遠くの鳥の声だけが響いている。
陽の光は枝の隙間からこぼれ、地面に淡い模様を描いていた。

「客は森の風に当たりながら食う。……いいと思わないか？」
ギンが「ワフッ！」と尻尾を振る。

「そうだな。じゃあ、座る場所とテーブルを作るか」

森の地面は木の根が網のように張り巡らされ、平らな場所を見つけるのが難しい。
凰翔は足で土を踏みしめ、感触を確かめながら歩いた。

「うん。ここにしよう。昼でも風が抜けて涼しい」

ギンが鼻を鳴らしながら、その場をくるりと回る。
「ははっ。気に入ったみたいだな。じゃあ決まりだ。まずはベンチからいこう」

少し離れた場所に、倒木が転がっていた。
太さも十分、芯もまだしっかりしている。表面には苔が生えていたが、乾かせば問題ない。

「この丸太、使えるな。……よし、これをベンチにしよう」

凰翔は斧を振り上げ、幹の両端に刃を入れた。
「ゴン、ゴン」と乾いた音が森に響く。木屑が舞い、樹の甘い香りが風に乗って漂った。

ギンが前足で丸太を押さえ、凰翔が全身の力を込めて斧を振る。
「ミシッ……」という音とともに、木が少しずつ裂けていく。
やがてパキンと音を立てて切り離されると、ちょうどいい長さのベンチが現れた。

「おお……悪くない。木目もきれいだ」
凰翔は木肌の表面を葉で拭い、余分な湿り気を取った。
ギンが隣で「フンッ」と満足げに鼻を鳴らす。

「ギン、この要領で、もう一本作ろう」
「ワフッ！」

同じ要領で二本目のベンチを仕上げると、木漏れ日の下に並べて置いた。
試しに腰を下ろすと、木がかすかにきしむ音を立てたが、ぐらつきはなかった。

「……座り心地は悪くない。……木の香りがする」

ギンも隣に腰を下ろす。丸太がわずかに沈み、「ギシ」と鳴った。
凰翔は苦笑しながら木の端を軽く叩いた。

「さて、次はテーブルだな」

凰翔は腕を組み、周囲を見回した。
近くの若木を二本見つけ、根元を斧で切り落とす。
木が「バサッ」と音を立てて倒れ、落ち葉がふわりと舞い上がる。

「これを脚にする。上には……この前、余った板が使えるな」

凰翔は支柱を立て、間隔を見ながら土を掘った。
ツルを運び、根元をしっかりと縛って固定していく。
ギンがその様子をじっと見つめ、たまに「ワフッ」と短く声を上げる。

天板を載せると、木の香りがいっそう濃くなった。
凰翔は手のひらで表面をなぞり、軽く叩く。

「……いい音だ。乾きすぎてもなく、芯がまだ詰まってる」

テーブルとベンチが並び、森の中に小さな食事処ができあがる。
カウンターの向こうでは風が葉っぱの外壁を揺らし、木漏れ日が斑に落ちていた。

凰翔は腰を下ろし、完成した景色を静かに眺める。

「ふぅ……これで一段落だな」

ギンが隣に座り、「ワフッ」と鳴く

「……看板を立てたら、本当に"店"だな」

凰翔は天を仰ぎ、木々の隙間から見える空を見上げた

風が抜け、葉がさらさらと鳴る。
ギンが隣に座り、満足げに「ワフ」と鳴いた。

「――客が並ぶ日も、いつか来るかもな」

凰翔はその言葉を口にしながら、遠くの光る葉を見上げた。
どこか胸の奥が、少しだけあたたかくなるのを感じた。