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58:牛丼屋に辿り着く者
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森の外れの小さな牛丼屋は、変わらずそこにあった。
葉と枝で組まれた即席の小屋。
相変わらず、人通りはほとんどない。
初めて代金が置かれたあの日から、数日が経っていた。
凰翔は今日も、カウンターの内側に立っている。 店を開けてはいるが、特別な準備は何もない。
葉の仕切りを一歩くぐれば、すべては終わる。 だが、何も起きなければ――それで一日が終わる。
「……来ないな」
ぽつりと呟く。
ギンは足元で丸くなり、耳だけを時折動かしている。 カゲ丸は、日向と影の境目を行き来しながら、ふわふわと揺れていた。
ここ数日、客は来ていない。
噂が広がるほど、人が通る場所ではない。 そもそも「森の外れに変な飯屋がある」などという話を、信じる者も少ない。
――それでも。
落ち葉を踏む音がした。
慎重な歩調。 旅慣れた者特有の、無駄のない足運び。
そして小屋の前で立ち止まる。
『牛丼屋』
「……ここ、か」
小さく呟き、鼻を鳴らす。
「いらっしゃいませ!」
「牛丼というものがあると聞いた。頼めるか」
「はい! すぐに作ります」
凰翔は、そう答えると、
葉の仕切りの奥へと姿を消した。
男の視界から、完全に。
(……なるほど)
調理場は、見えない。
様子も、手元も、一切。
耳を澄ませる。
鍋を振る音はない。
刃を入れる音も、火の爆ぜる音もない。
――それなのに。
ふわり、と。
静かな森の空気の中に、
はっきりとした匂いが流れ込んできた。
焼いた肉の脂。
温まった米。
溶けたチーズの、わずかな甘み。
(早い……)
感覚的に理解する。
この匂いが立つまでの時間が、短すぎる。
そして牛丼が、差し出された。
「お待たせしました。外に席があるのでごゆっくり!」
「ここで良い」
男は受け取り、何故かその場で立ちながら食べる
一口。
……何も言わない。
二口、三口。
(……話以上だな)
森の外れ。
即席の小屋。
それでいて、この完成度。
だが、それ以上に――
(過程が、分からん)
味は確か。
だが、どう作ったかが一切見えない。
男は器を置いた。
「……おかわりはあるか」
「はい!」
再び、凰翔は仕切りの奥へ消える。
男は、葉の隙間を見つめる。
だが、そこにあるのは、揺れる影だけ。
二杯目も、同じだった。
同じ匂い。
同じ味。
同じ満足感。
(ブレがない……)
男は、静かに息を吐いた。
「うまかった」
カウンターには、銀貨を五枚置く。
「え、あの……これ、多いんじゃ……」
「情報料だ」
それだけ言い残し、
男は森の中へと消えていった。
葉と枝で組まれた即席の小屋。
相変わらず、人通りはほとんどない。
初めて代金が置かれたあの日から、数日が経っていた。
凰翔は今日も、カウンターの内側に立っている。 店を開けてはいるが、特別な準備は何もない。
葉の仕切りを一歩くぐれば、すべては終わる。 だが、何も起きなければ――それで一日が終わる。
「……来ないな」
ぽつりと呟く。
ギンは足元で丸くなり、耳だけを時折動かしている。 カゲ丸は、日向と影の境目を行き来しながら、ふわふわと揺れていた。
ここ数日、客は来ていない。
噂が広がるほど、人が通る場所ではない。 そもそも「森の外れに変な飯屋がある」などという話を、信じる者も少ない。
――それでも。
落ち葉を踏む音がした。
慎重な歩調。 旅慣れた者特有の、無駄のない足運び。
そして小屋の前で立ち止まる。
『牛丼屋』
「……ここ、か」
小さく呟き、鼻を鳴らす。
「いらっしゃいませ!」
「牛丼というものがあると聞いた。頼めるか」
「はい! すぐに作ります」
凰翔は、そう答えると、
葉の仕切りの奥へと姿を消した。
男の視界から、完全に。
(……なるほど)
調理場は、見えない。
様子も、手元も、一切。
耳を澄ませる。
鍋を振る音はない。
刃を入れる音も、火の爆ぜる音もない。
――それなのに。
ふわり、と。
静かな森の空気の中に、
はっきりとした匂いが流れ込んできた。
焼いた肉の脂。
温まった米。
溶けたチーズの、わずかな甘み。
(早い……)
感覚的に理解する。
この匂いが立つまでの時間が、短すぎる。
そして牛丼が、差し出された。
「お待たせしました。外に席があるのでごゆっくり!」
「ここで良い」
男は受け取り、何故かその場で立ちながら食べる
一口。
……何も言わない。
二口、三口。
(……話以上だな)
森の外れ。
即席の小屋。
それでいて、この完成度。
だが、それ以上に――
(過程が、分からん)
味は確か。
だが、どう作ったかが一切見えない。
男は器を置いた。
「……おかわりはあるか」
「はい!」
再び、凰翔は仕切りの奥へ消える。
男は、葉の隙間を見つめる。
だが、そこにあるのは、揺れる影だけ。
二杯目も、同じだった。
同じ匂い。
同じ味。
同じ満足感。
(ブレがない……)
男は、静かに息を吐いた。
「うまかった」
カウンターには、銀貨を五枚置く。
「え、あの……これ、多いんじゃ……」
「情報料だ」
それだけ言い残し、
男は森の中へと消えていった。
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