シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

1260 星暦558年 黄の月 30日 頼まれごと(23)

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「あら、来れたんだ? ガヴァール号は大丈夫だったの?」
 いつも通りに休息日に現れた俺を見て、シェイラが尋ねた。
 王都を出る前に依頼の話を通信機でして、今日は来れないかもって言ってあったからな。

「なんかあっちでの小さな港町を巡る主権争い?的な緊張下での突発的な事故のとばっちりを受けて、足止め喰らってた。
 小さいとはいえ、救出するのに港町を壊滅させるのもどうかと思うじゃん? だから補給を無料ですれば取り敢えずそれで良いって事で解放させてゼリッタまで送ったんだけど、もっと本格的に制裁を下すかどうかを本国で相談している間、待ってくれと言われてね。
 特にやる事もないから、設置した転移門を使って遊びに来たんだ」
 新しい転移門はそれなりに使用テストが必要だし。

「なんとも贅沢な転移門の使い方ねぇ」
 俺が実は東大陸のゼリッタから来たと聞いて、呆れたようにシェイラが言った。

「まあ、明日の朝に結論が出てなかったらもう帰ると言ってあるからな。
 どちらにせよ結論は出るだろ」
 取り敢えずゼリッタでの転移門設置は色々と他の部署や団体との調整などもあったからいくら船旅だという事である程度日数に余裕を持たせていたとは言え、これ以上遅れるのは問題だった。なので救出後の翌日にはゼリッタに辿り着けるように蒼流がグイっと動かすことになったのだ。

 で、転移門を設置して、近距離でジルダスに飛んで問題がないことをフェンダイが確認した後に戻ってきて、魔術師2人と商業ギルドと役人とが王都へ戻って行った。
 ピューナンへ本格的な制裁を加えるとなると当然ガヴァール号に乗っていた人間の権限では決められなかったし、本国へ戻るためにシャルロか俺かの助けを頼むにしても、やはり予算的にちょっと厳しかったからね。

 通信機で話し合えばいいじゃないかと思ったのだが、お偉いさんと集団で話し合うのに一人が魔具の前に座って1対1で話し合う形になる通信機では色々とまどろっこしいことになるらしい。通信機で簡単に経緯を報告してこの後どうするかお伺いを立てたら、折角転移門を設置したんだからそれで帰ってこいと命じられたそうだ。

 これが28日。
 で、俺たちが帰っちまったら困るから、もうちょっと待ってくれないかと頼み込まれ、まあ1日程度だったらゼリッタに何か面白い商機がないか見て回るのも悪くないとアレクが言ったので29日は街を見て回り、30日は俺がシェイラに会いにヴァルージャまで飛んできて、シャルロはケレナに会いに王都に戻ったのだ。
 アレクはもうちょっと街を見て回るとフェンダイとぶらぶらしていると言っていた。

 ちなみに、ヴァルージャまでゼリッタから直接飛ぶことは出来ないので、王都経由で転移門を使っている。
「ゼリッタに興味があるなら今から遊びに行くか?
 王都経由じゃなきゃ行けないが、俺の連れだと言えば現時点ならこっそり使わせてくれると言われたぞ」
 良く知らない街なので是非ともお勧めという訳ではないが、興味があるならば行くのもありだ。

「う~ん、砂糖や香辛料やサンゴで有名な街だけど、遺跡やジルダスみたいな巨大な蚤市場があるとは聞かないからねぇ。
 街はどんな感じだった?」
 シェイラが少し首を傾げて尋ねた。

「なんか昔から交易の街として栄えたせいか、色々な場所から流れついてきたらしい変な小物を売っている店が多い気がしたかな?
 ある意味、街全体が蚤市場に近いかも」
 金持ち用の地区は雰囲気が全然違うが。
 交易で栄えたと言えばザルガ共和国だってそうなんだが、あそこよりもいい加減というか大らかというか、金儲けに熱中していない感じがした。

 ジルダスの方が、何でもありな雰囲気はザルガ共和国に近かった印象だ。
 適当に農業をやって芋や果実を食べていれば食っていける場所なのが大きいのかな?
 ザルガ共和国の方が土地が少ないから、食うためにはちゃんと漁業とかで頑張る必要があるし嵐で全部が流されちまう可能性があるしで、もっと金に執着するようになったのかも。

 単なる俺の想像だが。

「あら、町全体が蚤市場っぽいというのはちょっと面白いかも?
 でもせっかく東大陸に行くならもう少し前もって計画して休みも取っておいて、数日掛けてじっくり色々吟味して回りたいわね。だからまた今度、誘ってちょうだい」
 ちょっと考えたが、結局シェイラは断ってきた。

 転移門を使えばあっという間なんだから、日帰りで行ってもいいと思うんだけどなぁ。

 まあ、俺もまだよく知らない街だし、知り合いも居ないから無理に連れて行って問題が起きた時に困るかも知れないから、強要はしないが。

 ゼリッタに領事館が出来た後にでも、また皆で遊びに行ってもいいかもだな。



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