シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

1271 星暦558年 橙の月 6日 ちょっと寄り道(10)

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「苦労しているなぁ」
 パストン島の東部を飛び回り、北部経由で西部に足(翼?)を伸ばして飛んでいた俺は、下に見える森が不自然に開けた個所を見ながら思わず呟いた。

『苦労? 誰が?』
 清早が横に浮かびながら尋ねる。
 飛ぶ姿勢ではなく普通に空気に座っているだけなのだが、海鳥と同じかそれ以上の速度で飛んでいる空滑機《グライダー》と同じ速さで移動しているんだから精霊って不思議だよなぁ。
 物理的に触れないことはないんだが風の抵抗は受けてないみたいだし、動くためにじたばた手足を動かす必要も魔力で術を制御する必要もない。
 水精霊とはいっても、ある意味自然(風)の一部みたいな感じなのかな?

 それはさておき。
「ジャレットか……治安部隊の誰かかな?
 下の木がない開けた部分があるだろ?
 あれって多分違法な麻薬を育てようとしていたのがばれて焼き払われた場所だと思うぜ。
 あれで3か所目だ。1年も経てば低木が育って空き地っぽい地形が消えることを考えると、ここ数月の間でもこれだけ麻薬栽培を潰して回っているんだ。果てしない戦いだな」
 どうせなら誰も住んでいない別の島で栽培すればいいだろうに。
 まあ、小さすぎる島だと水源がないから、ちゃんと水源と土がある人口密度の低い島っていうのは希少なのかな?

 もしかしたら、あの沈没船の海賊たちはここを拠点とするだけでなく、下っ端に麻薬になる草の栽培もさせていたかも?
 もっとも麻薬の製造販売は取り扱いを始めたら下っ端がそれに手を出すのは時間の問題らしいから、うっかり判断力を劣化させる麻薬なんぞを下っ端に覚えさせちゃったら本拠地がばれるのも時間の問題になる。だとしたら、わざわざそんな危険は冒さないかな?
 そこまで海賊が計画的で用心深いかは知らんが。

 第一、上がやるなと禁じていても、下が金になるとか自分が欲しいからとかって理由で勝手に育てたらどうしようもないだろうしな。
 昔は空滑機《グライダー》もなかったのだ。
 小さいとは言えこの島を足で回って違法栽培を見つけて摘発して歩くのは無理だろう。

『麻薬ねぇ。
 あの臭い草の煙を吸いたがったり、汁を飲みたがる人間って不思議だよねぇ。
 どう見ても幸せになっているように見えないのに』
 清早が不思議そうに首を傾げた。

「麻薬に手を出すような人間にはそんな長期的幸せを考えるような視点は無いんだよ」
 海賊そのものはうっかり変な船に乗っちまったとか、ヤバい人間の怒りを買ったってことで裏社会へ転落して、さして本人に咎が無くても一員になることはあるだろう。
 俺だってガキの頃は盗賊《シーフ》として違法行為に励んでいたが、あれは俺が違法行為が好きだったからという訳ではなく、生きるためには他に選択肢がなかったからというだけだ。
 まあ、腕が上がってからは技を発揮する事にやり甲斐を感じていたのは否定できないけど。
 だが。麻薬に手を出すという選択をした人間は、単なるアホだな。
 精霊だけでなく俺の理解も超えるが、依存症になるアホが多いせいで金になるから、『俺は大丈夫』って麻薬に手を出す馬鹿が多いんだよなぁ。
 金になるからと禁じられても育てようとする人間も後を絶たないようだし。

 確かパストン島に住み着いた魔術師の一人に土竜《ジャイアント・モール》の使い魔持ちが居た筈だが、土竜《ジャイアント・モール》に頼んだら特定の植物を育てている場所が分かるかも?
 とは言っても土竜《ジャイアント・モール》の場所の説明能力は微妙だから、土竜《ジャイアント・モール》に教えてもらった場所に辿り着く苦労を考えると空滑機《グライダー》で定期的に空から巡回をする方が手っ取り早いかも知れないな。

「ちなみに、例えばこの島の上で特定の植物が育たないように精霊に頼むのって可能だったりするのか?」
 魔術で雑草除去的に庭程度の広さで植物が育たないようにする術を掛けるのは可能だ。が、かなり魔力が掛る上に、その指定した範囲に何の植物も育たないようにするだけなので、砂利でも敷き詰めるとか土を踏み固めて騎士団の訓練場にするとでもいうんじゃない限り、普通は使わない。
 客人がよく見る馬寄せが雑草だらけだとみっともないから、それの維持の手間を減らすために魔術師に術を頼むこともそれなりにあるらしいが。

 流石に島で農業に使っていない部分のすべてで植物を禁じたらヤバいことになるから、精霊にでも特定の植物を禁じてもらうっていうのが出来るんだったらそれが一番無難な対応策になるかも?

『無理~。
 シェイラが好きな遺跡の所みたいに、ずっと人が住んでいてそこの土精霊と仲良くしているならある程度のひいきは頼めるかもだけど、人が住んでいないところに育つ植物には僕たちは基本的にちょっかい出さないからね~』
 清早が言った。

 やっぱダメか。
 まあ、ジャレットにはこれからも頑張ってもらおう。
 空滑機《グライダー》の整備が必要だったら手を貸してもいいし。
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