シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

1276 星暦558年 橙の月 11日 ちょっと寄り道(15)

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『船が着いたよ~。
 あの倉庫の傍の海底に置いといたけど、どうする?』
 清早に頼んだ翌朝に、海賊船が着いたと言われた。

「うわ、凄いな。
 ありがとう、助かる。船をどうするかに関してはちょっとアレクに聞いてみるよ」
 どうやら人間が乗っていないとかなり強引に船を動かせるのかな? 空気を中に入れないで済むと早く動かせるのかも。

 着替えて顔を軽く洗い、ちょっと急いで下に降りていく。
 アレクの方が朝は早いことが多いんだよな。
 特に今日は遠出していた後だから、色々書類とかが気になって確認しようと考えている可能性が高い。

 一階に着いたら、案の定アレクは事務作業室で書類に目を通していた。
「海賊船が着いたんだって。
 取り敢えず沈没船用に確保したって言われた隣の倉庫の傍の海底に置いてあるらしいんだが、そっちの倉庫の中に船を置く場所ってあるのかな?」
 というか、場所というよりも船を固定する台だが。

「大丈夫だ。
 兄がさっさと隣の倉庫を空けて、船台を準備していた。
 気が早すぎると思って笑ったんだが、どうやら兄の方が清早の能力を理解していたようだな」
 苦笑しながらアレクが言った。

「マジか~。
 まあ、理解していたというよりも希望的観測で先走ったのが当たったってだけだと思うけどな。
 そんじゃあ朝食後にセビウス氏にその倉庫の鍵を開けて船を受け入れるのに付き合ってくれって連絡してくれ」
 連絡の前にまずは朝食だ。うっかり先に通信機で連絡すると、さっさと来いってせかされかねない。

「そういえば、あの壊した机の引き出しはどうなった?
 船の中にそのまま残っているんだったら多分怒られるぞ~?」
 朝食後に、アレクが通信機に向かいながら聞いてきた。
 ああ?!
 海賊の士官が使った隠し場所なんてそれなりに歴史学者には興味の対象かも?
「俺たちが出た後にきっと海水が戻ってきた際にどっかに流されたか粉砕しただろ。
 そのまま残っていたら……学者たちが来る前にどっかに隠しちまおう」
 怒られたら面倒だ。

 という事で朝食後に急いで王都に向かい、セビウス氏が確保した倉庫へ。
 昨日色々降ろした倉庫には入り口に警備の人間が二人立っていて、俺たちが近づいたら隣の倉庫の方を指さした。
「セビウス氏はあちらです。さっさと来い!とのことですよ」
 笑いながら言われた。
 どうやらかなりじりじりとしながら待っているらしい。

「了解~」
 手を振って挨拶しながら示された隣の倉庫の方へ入っていく。
 道側に馬車が入るような大きな扉があり、その横に人間が出入りする用の普通の扉があってそっちが開けっ放しになっていた。
 覗き込んだら、海側の船が入るゲートみたいのが既に開いていた。
 船の修理とかも出来る船台付きの倉庫なんぞ、よくぞ都合よく確保できたもんだな。
 というか、元々沈没船ごと持って帰って来ると期待して確保してあったのかな?

「あれ? これって学生時代に沈没船を持って帰ってきた時に使った倉庫?」
 船台付きの倉庫なんて商会には必要がないからあの時だけ借りたんだと思っていたんだが。

「いや、違うが似たような倉庫だな。
 私がシャルロとウィルと一緒に事業をするって言ったから、セビウス兄は今後も定期的に沈没船探しをする可能性があると想定して入手したらしい。
 普段は貸し出しているらしいが、私たちが長期的に船で出るときは常に契約を切って空けているとさっき言われた」
 苦笑しながらアレクが教えてくれた。
 マジか~。
 そこまで期待されていると、ちゃんと沈没船を見つけないと悪い気がしてくるな。
 まあ、セビウス氏がそれを我々に知らせていなかったんだから、見つけてこいと圧力をかける気はないんだろうが。

 本当に沈没船が好きだよな、あの人。

「アレク! ウィル!
 待っていたぞ!」
 セビウス氏が俺たちを見かけて声を掛けてきた。

「あ~。じゃあ、そこの台に出せばいいかな?」
 空になって船を待っている船台を見ながら確認する。
 まあ、確認するまでもないが、何か待つ必要があるなら先に聞いておく方がいいからね。

「ああ、頼む!」
 セビウス氏が嬉しそうに言った。
 後ろから人が来る気配がしたので振り返ったら、昨日のタルナブ教授が髪の毛もぼさぼさな雑な格好で駆け込んできた。
 どうやら船が着いたとセビウス氏が連絡したらしい。

「清早~。
 そんじゃあ、船の中の水を抜きながら、ここの台の上にあの海賊船を乗せてくれる?」
『ほいほ~い』
 清早から返事が来たと思ったら、突然倉庫の前の海が割れて、船が浮かび上がってきた。
 浮かび上がり、そのまま大波に押されたかのように倉庫の中に入って船台の上へ押し上げられて乗っかる。

「さっさと固定するんだ!」
 セビウス氏が集めていたらしき人足に命じる。
 わらわらと人が集まってあっという間に船を固定した。

「ありがとな、清早。
 助かった」
『どういたしまして~』

 そんな俺の横を駆け抜けて、タルナブ教授が船に飛び込んでいく。
 大したものは残っていないんだけどなぁ。壊れた引き出しも無くなっていると期待しておこう。

 取り敢えず昼食時にでも、あの謎の手紙をさっさと解読してくれないなら来月辺りにこの船を薪か木材として解体して売り払うぞ~と脅しておこう。
 船に熱中しすぎて手紙を年初のパーティまで放置していいやと思われても困る。
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