シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

1309 星暦558年 桃の月 11日 書類作業

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「今年は初めて事務作業を委託しているから、想定外な問題がないかを確認するために何もやって貰っていないかの如く全部自分たちでやって同じ結果が出るか試そう」
 朝食後、工房でお茶を飲もうとソファに座った俺とシャルロにアレクが宣言した。

「え、それじゃあキーナ達を雇った意味がなくないか?」
 人を雇ったんだから作業量が減らなきゃ意味がないだろうに。
 今までと同じことをやるんじゃ雇った給与分だけ損じゃないか。

「今年は作業が減らないが、来年以降は無作為に適当にテストするだけで済ませられるようになれば、仕事量がぐっと減るだろう?
 最初はやり方を間違って覚えていないかとかを確認する必要があるから、今までと同じ作業をしっかりやった方が良いんだ」
 アレクがポットに茶葉を入れながら答えた。

 あ~。
 まあ、最初にやり方を間違って覚えていたら、意味がないよなぁ。

「だけど、今までは適当に机の引き出しに突っ込んでいた領収書とかをアレクが整理していたのを足し合わせて報告書を作っていたと思うけど、その整理する作業自体はもうキーナ達がやっているんだよね?
 だとしたら、この整理作業が間違っていた場合はどうやってそれを見つけるの?」
 シャルロが尋ねる。

 だよなぁ。
 新規商品を開発して、それを特許申請してシェフィート商会とかに販売権利を売りつける際の契約書のまとめとか整理も重要な作業だが、今の時期だったら重要なのは国税局へ提出する収支報告書だ。
 あれの一番面倒な部分って領収書をちゃんと正しく集めて集計する事だと思うが、集計自体が終わっているんだったらその足し合わせの計算を確認する程度は流石に間違えないんじゃないか?

 まあ、ここで態と間違えて横領とかしているようだったら質が悪いから、要確認ではあるだろうが。

 と言うか、考えてみたら販売権利を売りつける際の契約書のまとめとか管理とか整理に関してはどうやってチェックするのか、後で聞いた方が良いよな。
 こっちに関しては殆ど気にしていなかったわ。
 一応外部の法律の専門家に契約書自体は確認してもらっている筈だが、締結した後の契約書自体の管理をしっかりやっているかのチェックは微妙な気がする。

 それはさておき。
「定期的に発生する費用に関してはちゃんと年間通してすべての領収書があるかを日付を確認すれば分かる筈。
 あとは、前年度や2年前の資料と比較して、説明できない増減がないか確認するのが一番だろうな」
 アレクが教えてくれた。

 うわ~。
 かえって今までより、作業が増えてないか?
 でもまあ、確かに領収書の整理自体が奇麗に出来ているから楽っちゃあ楽な筈だが。

「毎年何を開発したかなんて同じじゃないから収入とかもその年その年で違うし、経費も違うし、遊びに行く時期も違うから単純に比較できないと思うけど。
 まあ、何をやっていたかをしっかり確認したら何とか出来るかな?
 普通に領収書を整理して足していくよりは面白いかもだね?」
 シャルロがちょっと考えてから言った。

「そうか~?
 と言うか、誰かが横領しているとか脱税しているって分かっていてその間違い探しとか誤魔化し探しをするなら面白いかも知れないが、間違いがない可能性の方が高いのにそれを探すって只管空しい作業な気がするんだけど」
 裏帳簿探しで隠し場所を発見しようと家の壁や床をしっかりじっくり確認して回る方がまだやりがいがありそうだ。
 たとえキーナ達が詐欺をしているとしても、流石にこの家へ隠し場所を作って裏帳簿をしまっているとは思えないから探しても意味がないけど。

「前もって、いつ遊びに出て行ったか、何を特許登録したか、それの契約でどのくらい儲かったかを特許契約とかお土産の品から逆算していって、実際の結果とどのくらいずれるかを見てみるのも面白いもんだぞ?」
 アレクが言った。

 ……そうなんだ。
 ちょっと俺には理解できない考え方だが、まあ自分の収益だもんな。
 どんな開発をしたらどのくらい儲かってどのくらい支出があったか、細かい集計をしなくても大体目安が立てられるようになったら後々楽が出来るかもだし、ここで頑張るか。

……アレクってそんな面倒そうなことを今までずっとやってきたのか??
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