シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
403 / 1,309
卒業後

402 星暦554年 藤の月 21日 旅立ち?(43)

しおりを挟む
「で?」
俺たちがバーに入って扉を閉めたら、男が言葉短く聞いてきた。

「ウィル・ダントールだ。
アファル王国から新しい航路を探す船に乗船していた魔術師の一人だ。
既に聞いているかも知れないが、今回の航海は王家の命令で始めた航路探索だ。
上手くいったから商業省が領事館を開くことになった。
既に通信器が設置されているし、これからは新しい航路を使って今までよりも多く船が直接この街に来ることになるだろう。
何か問題が起こってから対応するよりも、今のうちに顔役と話を通しておく方が全員にとって平穏だろうと思ってゼブに会いに来た」
簡単に説明する。

さて。
アファル王国からの船の話はどの程度、街に広まっているのかね?
まだ着いてから数日とは言え、館を借りたりそれなりの量の香辛料を買ったりと、目を引くような行動を取っていると思うが。

「ほおう。
水の精霊の加護持ちってお前さんかい?」
男が興味深げに聞いてきた。
おやま。
想像以上に俺たちの話が広がっているようだ。
もしくはゼブの組織の情報収集力が優れているのか。

「俺は予備さ。
ある程度は水の精霊と仲が良いが、今回同行した仲間の精霊は凄いぜ」
・・・もしかして、この地域って水が足りなくて水精霊の加護持ちに対する需要が高いのか?

まあ、シャルロには蒼流がいるから大丈夫だが。
例え誘拐するために後ろから襲いかかられたり薬を盛られたりしてもシャルロに害が及ぶことはありえない。

「西の大陸から13日でこちらにたどり着いた上に、2つも新しい島を見つけたとの話だからな。
それだけの凄腕だったら、大金を払ってでも雇いたい相手はいくらでも居るぜ?」
男がにやりと笑いながら答えた。

おいおい。
誰だよ、情報漏らしているの。
まあ、領事館と港は両方西区にあるからなぁ。
船員やその他の人間が入る酒場もゼブの息が掛っているのだろう。
これじゃあ下手したら話を通す条件として空滑機《グライダー》が欲しいって言ってくるんじゃ無いか?

「ちなみに、仲間に加護を与えている精霊は本当に凄いから・・・手を出すなよ?
何かの間違いでもしもの事があったら、街が水没するぜ」
まず大丈夫だとは思うが、一応警告しておくことにした。
折角見つけた交易路だ。目的地の街が蒼流の報復で水没したら元も子もない。

男が肩を竦めた。
「ゼブは顔役だぜ?周辺一帯が干魃で壊滅的被害を受けているとでも言うんじゃ無い限り、水精霊に用はないさ。
ただ、用がある人間に頼まれたら話を繋ぐぐらいのことはしても良いと考えているだけだ」

「残念ながら俺たちはもうすぐこちらを発つから、精霊使いへの仕事の話は諦めてくれ。
だが、領事館は残るしアファル王国の船も来るようになる。
そのことについてゼブと話したい」
さっさと話を進めようぜ。

「待ってな」
短くそう言うと、男はカウンターの上を拭いていた布巾を降ろし、姿を消した。

心眼(しんがん)で追っていくと、裏の箱をどけて落とし戸から隠し部屋へ向かうのが視える。
ふむ。
下の隠し部屋で書類と格闘しているっぽい男が上司か。
ここで右腕とかが出てきてくれたら、話が進むんだが。
同じような腹の探り合いを何人もと繰り返すのは遠慮したいところだ。

何やら男が相手に説明しているのは視えるが、残念ながら心眼(しんがん)では声は聞こえない。
これが王都だったら盗み聞きの出来る場所まで忍び込むんだけどなぁ。

まあ、自分に直接影響がある話じゃあないから、そこまで頑張る必要も無いか。

「あんた達、もうすぐ居なくなるのか?」
バルダンが横から小さな声で聞いてきた。

「俺達はな。
領事館は残るから、そこに居る人間に求められた情報を提供したり、雑用を手伝えばあの当たり屋の下でスリをするよりはずっと安全に、確実に稼げるだろうよ」
少なくともガキが生きて行くには十分な金は手に入るだろう。
大人になったらどうするかはこれからバルダンが考えて工夫していくことだ。

残念ながらバルダンに魔術師の素質は無いからな。
連れて帰って魔術学院に放り込むことは出来ない。
才能があったらスポンサーになってやっても良かったんだけどね。

隠し部屋の男が出てきた。
「ダブだ。
顔役に話を通す前に、どういう話になるのか、詳しく説明して貰おうか」

あ~あ。
やっぱり説明って必要だよねぇ。

面倒くさい。
ナヴァールを連れてきてあいつに話をさせるべきだったな。
でも、あいつが裏社会の常識をちゃんと理解しているか微妙に不安だったからなぁ。

まあ、おれもこちらの街の裏の常識って知らないけどさ。
どの大陸でも裏の常識が大きく変わらないことを期待しておこう。


【後書き】
ウィル達が居なくなると聞いてちょっと不安になったバルダン君でした。
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

処理中です...