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卒業後
424 星暦554年 紫の月 26日 慶事の前だからって張り切るな(2)
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学院長の視点です。
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>>>サイド アイシャルヌ・ハートネット
「王太子の結婚式でガルカ王国が何か企んでいないか探るために、軍部があちらの本国まで人を出そうとしているらしいですね」
ふらりと姿を現したウィルが、お茶を受け取りながら呟いた。
ほぉう?
何か面倒なことに巻き込まれたか。
まあ、何かに巻き込まれたか、遊びに行く際のお土産を伺い以外にこいつが態々会いに来ることはあまりないからな。
これだけの頻度で会っていると言うことは、考えてみたらこいつもそこそこ波瀾万丈な毎日を送っているんだなぁ・・・。
「王太子の結婚式の警備は万全にせねば!という話は当然あり、私も警備にそれなりに手を貸すことになっているが・・・態々隣国まで人を出すという話は聞いていないな。
それにお前さんがどう関係するんだ?」
どちらかというと、婚約が発表された祝いの際にファルータの領都での働きを期待するというのは分かるが。
だが、まだ流石にその準備を始めるには早い。
「盗賊《シーフ》ギルド経由で、軍部からガルカ王国への探りに行くのに手伝えと話が来たようで。
勿論断りましたけどね。
イマイチ盗賊《シーフ》として声が掛ったのか、裏に関わりのある魔術師として声が掛ったのか微妙に不明ですが・・・これってごり押しされた場合に、魔術院か学院長に泣き付いたら何とかなりますかね?」
お茶を一口飲み、小さく息をついたウィルが尋ねた。
下町で、権力を持つ人間の理不尽を散々見てきただけあって、権力を持つ組織の恐ろしさというのは必要以上に感じているのだろう。
だが、魔術師であるということは・・・魔術院という王国の一端を担う組織の一員でありその保護下にあるということだ。
お前だってそれなりに権力を持つ存在の一部なんだぞ、ウィル。
「王都での警備の手伝いというのならまだしも、どれだけ特殊技能があろうと魔術師がガルカ王国へ諜報員の様な役割で行かねばんらないいわれは無い。
私も協力するし、魔術院だってそんな軍部のごり押しを許さないさ」
もっとも、盗賊《シーフ》ギルド経由で来たと言うことは、軍部がウィルのことを魔術師として認識していない可能性の方が高いだろうが。
もしくは、魔術師だとしたら違法のモグリ魔術師だと思っているか。
「ガルカ王国と何か起きる可能性が高いとしたら、東の大陸との新規航路だって重要ですよね?
あるかどうか分からない陰謀を探し回るよりも、新規航路の補給島開拓ってもう少し早く動きませんかね?
アレグ島の方が重要なのは分かりますたが、パストン島だって実際に交易する際には補給に寄港する必要はあると思うんですが。
折角真水を抽出する魔道具もそれなりに良いのが出来上がったんだし、アスカにも協力して貰えると言って貰えたんで、いい加減あっちに行って開拓作業を始めたいところですが」
カップを降ろしながら、ウィルが愚痴をこぼした。
真水を抽出する魔道具?
今までにも貴族や商会、軍部が支援して色々と開発してきたが、お世辞にも長期的に実用的と言えるような物は無かった。
それが何とかなったのか??
こちらの方が、よっぽど軍部に喜ばれそうだが。
とは言っても、盗賊《シーフ》ギルドの一員で軍部から依頼が来るほどの凄腕の幽霊《ゴースト》と、魔道具を開発してシェフィート商会から売り出している魔術師3人組が同じ人間だとは軍部でも思っていないだろうし、ウィルもそれを明らかにしたくないようだから、『無理に仕事を押しつけようとするならこの魔道具を売らないぞ』という脅しはしにくいだろうが。
まあ、そんなことをするよりも、私が口を挟む方が話は簡単だろうな。
「実用に耐えられる真水を抽出出来る魔道具が出来たのか?
船の航海でも使えるぐらいのサイズと魔力消費に抑えられたのだとしたら、凄いぞ」
ウィルが肩を竦めた。
「船での使用がメインだと思って作っていますからね。
開拓するためにはやはり船の移動がもっと便利な方が良いだろうと思って。
第一、補給島はどちらも真水が出ますから。
それに俺達が手伝いに行っている間だったら魔道具なんぞ使わなくてもいくらでも水なんて出せるし」
「さっさと開拓に取りかかりたいのだったら、海軍の方にもその魔道具を見せて、大量生産にはまだまだ時間が掛るが、お前達がパストン島の開拓に早く取りかかれるように話を付けてくれるなら優先的に品を回すとシェフィート商会の方から言わせたらどうだ?」
シェフィート商会だってアレクの権利があるのだから、少しぐらい割り引くことになるとしてもさっさと開拓に取りかかれるよう話を持って行くメリットはあるだろう。
ウィルにしたって、王都にいない方が軍部から変な依頼が来にくいし。
取り敢えず。
軍部のどの阿呆が、既に崩壊しつつある国にあるかどうかも分からない陰謀の証拠を探しに人を送り込もうとしているか、確認しておくか。
【後書き】
ウィルはまだ泣き付くつもりはありませんが、一応状況だけ教えておこうとシャルロの婚約式の様子を報告するついでに来ました。
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>>>サイド アイシャルヌ・ハートネット
「王太子の結婚式でガルカ王国が何か企んでいないか探るために、軍部があちらの本国まで人を出そうとしているらしいですね」
ふらりと姿を現したウィルが、お茶を受け取りながら呟いた。
ほぉう?
何か面倒なことに巻き込まれたか。
まあ、何かに巻き込まれたか、遊びに行く際のお土産を伺い以外にこいつが態々会いに来ることはあまりないからな。
これだけの頻度で会っていると言うことは、考えてみたらこいつもそこそこ波瀾万丈な毎日を送っているんだなぁ・・・。
「王太子の結婚式の警備は万全にせねば!という話は当然あり、私も警備にそれなりに手を貸すことになっているが・・・態々隣国まで人を出すという話は聞いていないな。
それにお前さんがどう関係するんだ?」
どちらかというと、婚約が発表された祝いの際にファルータの領都での働きを期待するというのは分かるが。
だが、まだ流石にその準備を始めるには早い。
「盗賊《シーフ》ギルド経由で、軍部からガルカ王国への探りに行くのに手伝えと話が来たようで。
勿論断りましたけどね。
イマイチ盗賊《シーフ》として声が掛ったのか、裏に関わりのある魔術師として声が掛ったのか微妙に不明ですが・・・これってごり押しされた場合に、魔術院か学院長に泣き付いたら何とかなりますかね?」
お茶を一口飲み、小さく息をついたウィルが尋ねた。
下町で、権力を持つ人間の理不尽を散々見てきただけあって、権力を持つ組織の恐ろしさというのは必要以上に感じているのだろう。
だが、魔術師であるということは・・・魔術院という王国の一端を担う組織の一員でありその保護下にあるということだ。
お前だってそれなりに権力を持つ存在の一部なんだぞ、ウィル。
「王都での警備の手伝いというのならまだしも、どれだけ特殊技能があろうと魔術師がガルカ王国へ諜報員の様な役割で行かねばんらないいわれは無い。
私も協力するし、魔術院だってそんな軍部のごり押しを許さないさ」
もっとも、盗賊《シーフ》ギルド経由で来たと言うことは、軍部がウィルのことを魔術師として認識していない可能性の方が高いだろうが。
もしくは、魔術師だとしたら違法のモグリ魔術師だと思っているか。
「ガルカ王国と何か起きる可能性が高いとしたら、東の大陸との新規航路だって重要ですよね?
あるかどうか分からない陰謀を探し回るよりも、新規航路の補給島開拓ってもう少し早く動きませんかね?
アレグ島の方が重要なのは分かりますたが、パストン島だって実際に交易する際には補給に寄港する必要はあると思うんですが。
折角真水を抽出する魔道具もそれなりに良いのが出来上がったんだし、アスカにも協力して貰えると言って貰えたんで、いい加減あっちに行って開拓作業を始めたいところですが」
カップを降ろしながら、ウィルが愚痴をこぼした。
真水を抽出する魔道具?
今までにも貴族や商会、軍部が支援して色々と開発してきたが、お世辞にも長期的に実用的と言えるような物は無かった。
それが何とかなったのか??
こちらの方が、よっぽど軍部に喜ばれそうだが。
とは言っても、盗賊《シーフ》ギルドの一員で軍部から依頼が来るほどの凄腕の幽霊《ゴースト》と、魔道具を開発してシェフィート商会から売り出している魔術師3人組が同じ人間だとは軍部でも思っていないだろうし、ウィルもそれを明らかにしたくないようだから、『無理に仕事を押しつけようとするならこの魔道具を売らないぞ』という脅しはしにくいだろうが。
まあ、そんなことをするよりも、私が口を挟む方が話は簡単だろうな。
「実用に耐えられる真水を抽出出来る魔道具が出来たのか?
船の航海でも使えるぐらいのサイズと魔力消費に抑えられたのだとしたら、凄いぞ」
ウィルが肩を竦めた。
「船での使用がメインだと思って作っていますからね。
開拓するためにはやはり船の移動がもっと便利な方が良いだろうと思って。
第一、補給島はどちらも真水が出ますから。
それに俺達が手伝いに行っている間だったら魔道具なんぞ使わなくてもいくらでも水なんて出せるし」
「さっさと開拓に取りかかりたいのだったら、海軍の方にもその魔道具を見せて、大量生産にはまだまだ時間が掛るが、お前達がパストン島の開拓に早く取りかかれるように話を付けてくれるなら優先的に品を回すとシェフィート商会の方から言わせたらどうだ?」
シェフィート商会だってアレクの権利があるのだから、少しぐらい割り引くことになるとしてもさっさと開拓に取りかかれるよう話を持って行くメリットはあるだろう。
ウィルにしたって、王都にいない方が軍部から変な依頼が来にくいし。
取り敢えず。
軍部のどの阿呆が、既に崩壊しつつある国にあるかどうかも分からない陰謀の証拠を探しに人を送り込もうとしているか、確認しておくか。
【後書き】
ウィルはまだ泣き付くつもりはありませんが、一応状況だけ教えておこうとシャルロの婚約式の様子を報告するついでに来ました。
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