シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

450 星暦554年 翠の月 20日 新しいことだらけの開拓事業(22)

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>>サイド とある私掠船の船長

「ばっきゃろ~~!!
見張りはちゃんと周りを見ておけ!!」
港の入り口に座礁するような岩がある場合、通常は入港する船がそれに乗り上げたりしないように何らかの印を浮かべておくこと決まりになっているのだが、まだ開拓途中の島なのでそこまで手が回っていなかったのだろう。

だからこそちゃんと見張りが海を注意して見ておく必要があったのだが、襲撃前ということで気がせいていたらしい。

襲撃に来て、その数百メタ前で座礁するなんて間抜けすぎる・・・。
下手したら、この襲撃予定先の人間に船の修理を頼まなければならないのだ。
考えるだけで頭が痛い。

「船長、座礁じゃあ無いっす~~!!
俺はちゃんと見ていたっすよ~~!!!」
船首の見張りから抗議の声が上がった。

マジか。
では、船の入港を防ぐ為に水中に縄でも張ってあると言うのか??
こんなまだ開拓中の港でそこまで用心深い手を打っているとは思わなかった。
「潜って切ってこい。
急げ!!」
まだ港の連中はこちらに気が付いていないようだ。
さっさと縄を切って進めば何とか襲撃が予定通り出来るかも知れない。

「・・・縄なんて無いっす~!!
何もないのに船が止ってやす!!」
ナイフを手に持って海に飛び込んだ船員が、縄ばしごを伝って甲板へ登り報告の声を上げた。

はぁぁ?
「何を寝ぼけたことを言ってるんだ!
風が吹いているのに何も無いところで船が止るわけはないだろうが!!
それとも何だ、こんな小さな入り江にそれ程強烈な海流があると言うのか?」
マストは追い風にはためいている。
これだけの風が吹いているというのに突然船が止るなんて事は船が岩なり縄なりにぶつかって物理的に進めなくなった場合以外、普通はあり得ない。

舵を切り、予備帆を広げて何とか船を動かそうとしている間に、港の方で人の動きがあった。
寄港していた中型船がこちらに向かって来る。
・・・何だってあちらにとっては向かい風なのにああも素早く進めるんだ??
もしかして、強力な海流があるのか??
この地形でそんな流れが発生するとは思いにくいのだが・・・。

「火種を隠せ!!
壺は下に持っていくんだ!!
分かっているな、俺達は補給に寄った商人だぞ!」
普通の商船が大型弩砲なんぞ搭載している訳がないのだが、素人の開拓民なら何とか言いくるめられるかも知れない。

だが、流石に投擲用の壺が大型弩砲にはめ込まれている上に火種を手に持っていたら言い逃れは不可能だ。
取り敢えず、タレスの涙と火種さえ隠せば言い逃れは可能かも知れない。

「パストン島に何のようだね?
ここに寄る船は、ダオヴァールの港湾事務所から先に連絡する決まりになっているのだが」
責任者らしき男が寄ってきた船から声を掛けてきた。
中型船が一隻だったので襲撃しても余裕だと思ったが、船には10人ほどの武装した男達が乗っている。

開拓民に武器を持たせただけにしても、これだけの武装を揃えるとなるとそれなりに金が掛っている。
だが、10人ならこちらの方が人数が多いし、こっちはなんと言っても荒事のプロだ。

船から大型弩砲で町に火を付けてから襲撃する方が楽だったが・・・しょうがない、白兵戦でいくか。
少なくとも中型船がもう一隻船が手に入ると考えれば、この依頼も悪くは無かったかもしれないな。

「航海士が病気でくたばっちまってね。
お陰で危うく俺達まで海の藻屑になるかと思っていたらこの島を発見したんだ。
水だけでも補給させて貰えないだろうか?
俺達が怪しいと心配なら、先に船の中を視察してくれ。
水も食糧も底をつきそうなのが分かると思う」
船員に渡し板を相手の船の方へ出すよう指示しながら答える。

どうせなら、渡し板がある方が掴み鉤より船の間を移動しやすい。
あの責任者の男とあと数人がこちらに来てくれれば更に簡単に相手の戦力を圧倒できるし。

責任者の男の横に居た若者が男に耳打ちした。
何故かそれを聞いた男が短く笑い、頷く。
「分かった。
一応の為、そちらの船を確認させて貰おう」

・・・なんで笑ったんだ?
何かおかしい。
そう言えば、なんでこいつらの船はあっさり港からここまで進んだ後、錨も降ろさず、停止しているんだ??

・・・頭の中で警戒音が鳴り響く。
「渡り板を落とせ!
逃げるぞ!!!」
理由は分からないままにも、本能の警告に耳を傾けて逃げようとしたが・・・その瞬間、船を飲み込まんばかりの高波が突然どこからともなく現れ、甲板を洗い流した。

突然の衝撃に足を掬われ、尻餅をついた。
何だって言うんだ???



【後書き】
ざっぱ~んと波が甲板の上を流れた感じで、船員達は誰も船から流し落とされてはいません。
拾うのが面倒ですからw
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