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卒業後
473 星暦554年 黄の月 6日 転移箱(6)
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甲板より上には士官たちが寝る部屋と思われる小部屋が幾つかと、士官(と客だろうな)用食堂、航海士が働く部屋、複数の客室と船長の部屋とかがあった。
もしかしたらこの船は転移門が使えないような場所へ急いで行く必要がある人間を運ぶことでも儲けているのかも知れない。
普通の商船にしては客室の数が多い。
豪華客船でもないのに士官用食堂が別にあるのもちょっと珍しいようだし。
怪しげな他国の情報部の軍艦だと内心決めつけていたのだが、単に俺が知らない種類のニッチな需要に対応した船なのかも知れない。
黒か白かは知らないが、
航海士が作業する場所は地図やら何やら書類だらけだったの。今まで捜査した船よりも大分海図が多い。それだけ色々な所に行く船なのかも知れない。
ちなみに。
ここに適当に魔術回路の書類が隠されていたら見つけるのには苦労するだろうなぁ。
悪事の書類は変に隠し引き出しに入れるよりも、こういう所に紛れ込ませる方がよっぽど安全だよな。
まあ、航海士が悪事に加担していないと出来ない選択肢だろうが。
取り敢えず特に隠し引き出しや魔道具は無かったので航海士の作業部屋はさっと覗き込むだけで素通りし、最後に船長の部屋にたどり着いた。
「一体何日足止めを喰らわせるつもりだ!!!」
俺達が船長室に足を踏み入れた途端に、船長が噛みついてきた。
港湾部の役人が船長を宥めている間に、俺は部屋をじっくりと見回す。
魔石が入った魔道具は無いのだが・・・何か心眼《サイト》に微かに光って見える物がある。
良く視てみたら、どうやら隠し引き出しに魔術回路が置いてあるようだ。
なるほど。
5日以上も足止めを喰らっているのに盗んだ魔道具をそのまま持っている訳がないだろうと思っていたのだが、どうやら分解して肝心の魔術回路の部分だけを残しておいたようだ。
確かに、魔道具としての試作品が重要なのでは無く、最新の魔術回路が重要なのだ。
蓋や他の部分は外し、魔石も捨ててしまえば見つかりにくくなるし、通常なら仕舞えない隠し場所に入れられる。
さて。
この隠し引き出しはどうやって開けるのかな?
暫し船長の机の構造を心眼《サイト》で解析してから、ぎゃあぎゃあと役人に苦情を述べている船長の横をすり抜け、机の横を軽く何度か叩き、前に飛び出してきた小さな突起を回して引き出しを抜き出した。
「何をしている!!!」
役人に食ってかかっていた船長が慌ててこちらに向きなおり、俺の手を掴もうとする。
軍部の男がさっと間に入って船長を止めてくれたので、そのまま無視して作業を続けた。
中々凝った造りだ。
引き出しを取り出して探しても見えないが、引き出しが閉っている状態でこの突起を回せば上の隠し場所が下がって来て引き出しを抜き出したら隠し場所に手が届くようになっている。
「どうやら魔道具は分解して肝心の魔術回路だけを残しておいたようだな。
・・・これで帰って寝ても良いか?」
魔術回路と、一緒に入っていた書類を軍部の男に渡す。
嬉しそうに書類と魔術回路を受け取ったものの、男は首を横に振った。
「いやいやいや。
『誘拐された子供』がまだ見つかっていないだろう?
幾ら他の重要な盗難事件に関係した証拠物が見つかったからと行って、そちらをまだ諦めるわけにはいかない。
折角色々と見つかっているんだ。
残りも10隻だけだし、頑張ってくれよ?」
さっと書類に目を通し、軍部の男は魔術回路と一緒にそれを後ろから付いてきていた助っ人の一人に渡した。
魔術回路を見せられた港湾部の役人が警備員に合図をして船長を拘束させた。
「こちらの魔術回路に関しては、魔術院から盗難の被害届が出ています。
何故こちらに隠されているのか、詳しく説明をお願いしましょうか」
可哀想に。
船長の顔が白くなってるぜ。
あれだけ日に焼けていても血の気が引けると分かるんだなぁ・・・。
しっかし。
考えて見たら、『とある有力貴族の子供が誘拐された』という理由で船を足止めしているんだっけ。
子供が船から下りてきた訳でも無いのにここで捜索を止めたら他の船からしてみたら怪しいよな。
・・・まあ、本当に貴族の子供が誘拐されたという話だけで王都の港を6日間も封鎖したなんて誰も信じていないだろうが。
王家の継承権が高い子供が誘拐されたとでも言うんじゃ無い限り、普通はここまでやらないだろう。
しっかし。
あと10隻、隠し資料探しに励まないといけないのか。
魔道具が見つかれば終わると思って頑張っていたのに、見つかっても捜査を続けなければならないなんてがっかりだ。
隠し場所の書類を見つけたら渡してやるなんていうオマケのサービスなんぞしたのは失敗だったかな・・・。
【後書き】
船を1隻ずつ捜査しているのに馬鹿正直に魔道具を持っているというのはあまりにも非現実的だと思ったので、分解して一部だけ取っておいたと言うことにしました。
やはり何かが見つからないとイマイチ話がすっきり終わらない感じがすますしね。
これでウィル君は成功報酬も貰えるw
もしかしたらこの船は転移門が使えないような場所へ急いで行く必要がある人間を運ぶことでも儲けているのかも知れない。
普通の商船にしては客室の数が多い。
豪華客船でもないのに士官用食堂が別にあるのもちょっと珍しいようだし。
怪しげな他国の情報部の軍艦だと内心決めつけていたのだが、単に俺が知らない種類のニッチな需要に対応した船なのかも知れない。
黒か白かは知らないが、
航海士が作業する場所は地図やら何やら書類だらけだったの。今まで捜査した船よりも大分海図が多い。それだけ色々な所に行く船なのかも知れない。
ちなみに。
ここに適当に魔術回路の書類が隠されていたら見つけるのには苦労するだろうなぁ。
悪事の書類は変に隠し引き出しに入れるよりも、こういう所に紛れ込ませる方がよっぽど安全だよな。
まあ、航海士が悪事に加担していないと出来ない選択肢だろうが。
取り敢えず特に隠し引き出しや魔道具は無かったので航海士の作業部屋はさっと覗き込むだけで素通りし、最後に船長の部屋にたどり着いた。
「一体何日足止めを喰らわせるつもりだ!!!」
俺達が船長室に足を踏み入れた途端に、船長が噛みついてきた。
港湾部の役人が船長を宥めている間に、俺は部屋をじっくりと見回す。
魔石が入った魔道具は無いのだが・・・何か心眼《サイト》に微かに光って見える物がある。
良く視てみたら、どうやら隠し引き出しに魔術回路が置いてあるようだ。
なるほど。
5日以上も足止めを喰らっているのに盗んだ魔道具をそのまま持っている訳がないだろうと思っていたのだが、どうやら分解して肝心の魔術回路の部分だけを残しておいたようだ。
確かに、魔道具としての試作品が重要なのでは無く、最新の魔術回路が重要なのだ。
蓋や他の部分は外し、魔石も捨ててしまえば見つかりにくくなるし、通常なら仕舞えない隠し場所に入れられる。
さて。
この隠し引き出しはどうやって開けるのかな?
暫し船長の机の構造を心眼《サイト》で解析してから、ぎゃあぎゃあと役人に苦情を述べている船長の横をすり抜け、机の横を軽く何度か叩き、前に飛び出してきた小さな突起を回して引き出しを抜き出した。
「何をしている!!!」
役人に食ってかかっていた船長が慌ててこちらに向きなおり、俺の手を掴もうとする。
軍部の男がさっと間に入って船長を止めてくれたので、そのまま無視して作業を続けた。
中々凝った造りだ。
引き出しを取り出して探しても見えないが、引き出しが閉っている状態でこの突起を回せば上の隠し場所が下がって来て引き出しを抜き出したら隠し場所に手が届くようになっている。
「どうやら魔道具は分解して肝心の魔術回路だけを残しておいたようだな。
・・・これで帰って寝ても良いか?」
魔術回路と、一緒に入っていた書類を軍部の男に渡す。
嬉しそうに書類と魔術回路を受け取ったものの、男は首を横に振った。
「いやいやいや。
『誘拐された子供』がまだ見つかっていないだろう?
幾ら他の重要な盗難事件に関係した証拠物が見つかったからと行って、そちらをまだ諦めるわけにはいかない。
折角色々と見つかっているんだ。
残りも10隻だけだし、頑張ってくれよ?」
さっと書類に目を通し、軍部の男は魔術回路と一緒にそれを後ろから付いてきていた助っ人の一人に渡した。
魔術回路を見せられた港湾部の役人が警備員に合図をして船長を拘束させた。
「こちらの魔術回路に関しては、魔術院から盗難の被害届が出ています。
何故こちらに隠されているのか、詳しく説明をお願いしましょうか」
可哀想に。
船長の顔が白くなってるぜ。
あれだけ日に焼けていても血の気が引けると分かるんだなぁ・・・。
しっかし。
考えて見たら、『とある有力貴族の子供が誘拐された』という理由で船を足止めしているんだっけ。
子供が船から下りてきた訳でも無いのにここで捜索を止めたら他の船からしてみたら怪しいよな。
・・・まあ、本当に貴族の子供が誘拐されたという話だけで王都の港を6日間も封鎖したなんて誰も信じていないだろうが。
王家の継承権が高い子供が誘拐されたとでも言うんじゃ無い限り、普通はここまでやらないだろう。
しっかし。
あと10隻、隠し資料探しに励まないといけないのか。
魔道具が見つかれば終わると思って頑張っていたのに、見つかっても捜査を続けなければならないなんてがっかりだ。
隠し場所の書類を見つけたら渡してやるなんていうオマケのサービスなんぞしたのは失敗だったかな・・・。
【後書き】
船を1隻ずつ捜査しているのに馬鹿正直に魔道具を持っているというのはあまりにも非現実的だと思ったので、分解して一部だけ取っておいたと言うことにしました。
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