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卒業後
482 星暦554年 橙の月 3日 明朗会計は大切です(7)
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「だ~~~~。
いい年したおっさんが今更『魔術院とは何をする団体か』なんて研修に出席したくね~よ~!!!」
アンディがソファに身を投げ出しながら叫んだ。
『気分転換』とやらにウチに遊びに来ていたのだが、『アンケートの結果はどうだったの?』とシャルロが尋ねた途端、奇声をあげて身を投げ出したのだ。
どうやらストレスが溜まっていたらしい。
「イリスターナ達は出席すると言っていたし、私達の同期の人間でも最終年度の魔術院についての講義に出席しなかった人間は多いから、皆特に文句を言わずに出席すると言っていたようだったぞ?」
アレクがお茶を注ぎながら首を傾げた。
ガバッとアンディが体を起こした。
「若いのは良いんだよ、若いのは!!!
それこそ、大多数の人間が相談窓口が存在するって言われて『マジ??』って反応だったから、あいつらは研修をやってくれて有り難いと思っているし、出席する気も十分にあるんだ。
だけど!!!」
頭をかきむしりながらバタンとまたアンディが体をソファに投げ出した。
「中堅クラスの連中が、実は色々と知らないくせに『今まで知らなくても問題無かったんだから、今更研修なんぞ要らん』って言うんだ!!!」
「あ~。
そう言えば、一応魔術学院での魔術師の育成が一般的になった世代全部にアンケートをするって言っていたよな。
あまり正解率は高くなかったんだ?」
アンディが作った『魔術院の基本』クイズとでも言う感じのアンケートは、魔術院の役割や誰が何をやっているか、どんな助けをしてくれるのか、どういう時に罰則を科するのか、魔術師が独り立ちする場合に何をしなければいけないのかといった質問に、答えを選択式で選んでいく物だった。
ある意味、テストだよな。
で、その採点結果は俺達の年代ではかなり悪かったらしい。
まあ、これは想定通りだ。
俺やイリスターナが魔術院の低利子の貸金制度のことや相談窓口の存在すら知らなかったと聞いたアンディが彼的な『基本的な魔術院に関する常識』に関する問題を俺達にやらせて、その惨憺たる結果に頭を抱えて大々的に王都の若い魔術師相手に配り、かなり苦労して回収したのだ。
で。
結果をアンディに見せられた魔術院のお偉いさん達がこれじゃあ不味いと重い腰を上げて魔術学院でちゃんとした講義をやることにしたらしいのだが・・・そのことを学院長に相談しに行ったら、魔術学院で育成された中堅どころの世代の魔術師の知識も確認した方が良いのでは?と指摘されて同じようなアンケートをもっと上の世代の連中にも出すことになったという話は聞いていた。
「流石にお前らよりは多少はマシだが、2割程度しか改善してない。
つまり、ほぼ半数は相談窓口の事を知らなかったんだ。
まあ、流石に税金の事はもう少し知っていたけど。
だから次の総会でお前達若いのだけでなく、もっと中堅の世代の連中も研修に出て貰えって上に言われたんだが・・・」
アンディの声がため息の中に消えていった。
「今更必要ないって?」
中堅って言われる年齢まで魔術師としてやってこれたんだ。
別に今更研修を受ける必要は無いと思う人間は多いだろうな。
アンディがため息をついた。
「中堅でそこそこ成功している魔術師だったら、秘書か会計の担当を雇っていることが多いんだよ。そうなると、自分が知る必要は無いし、そんな研修に時間を割くよりは依頼を請けて仕事をしている方が意味があるだろうって言われると何とも言えなくって。
でも、上は中堅の魔術師だっていつかは魔術院の幹部になるかもしれないんだから、魔術院のことを知らないのは困るから何が何でも研修を受けさせろって言っていて」
あ~。
確かに、実務的には現時点で知っている必要なくても、いつか魔術院という組織の幹部になったりしたら本人も周りも困ることになる可能性は高いだろうなぁ。
・・・ある意味、魔術院のことを知っている昔ながらの魔術師の家系や弟子ネットワークの人間だけでこれからも魔術院を動かそうとしていないだけ、アンディの上司って良心的なのかも?
板挟みになってるアンディにとってはあまり慰めにならないかもだけど。
「その上の人の言葉を伝えて研修に出て欲しいってお願いしたら?
それでも興味が無いと言われたら、その人のアンケートの回答の正解を渡して『じゃあ、せめて間違えていた部分の正解には目を通して理解しておいて下さいね』って頼んでおいて、また来年にでもテストしたらどう?
その時点で憶えてなかったら『時間の節約のために書類で渡しても目を通して貰えなかったので研修への出席を強要せざるを得ないんです』って言ったら良いじゃない」
シャルロが提案した。
「でも、正解回答を渡しておくんだろ?アンケートを来年渡した時点でそれを見直して答えるんじゃないか?」
少なくとも俺だったらそうすると思うが。
すくっとアンディが立ち上がった。
「構わない。
正解の回答をちゃんと捨てずに取っておいてくれて見つけられるんだったら、必要に応じて調べられるだろう。
よし!
それで行く!!!」
お。
解決ですか。
俺は大人しく研修を受けるから、それで良いんだよな?
それとも来年またテストされる可能性に備えてちゃんと資料もわかりやすい場所に仕舞っておいた方が良いのか?
【後書き】
中堅どころになったのに、今更一般常識的な知識に関する研修を受けろなんて言われても嫌がりますよね~。
でも、その知識が欠落している世代が上になったら目も当てられないので、何とか頑張っている魔術院の人達も頑張っているところですw
いい年したおっさんが今更『魔術院とは何をする団体か』なんて研修に出席したくね~よ~!!!」
アンディがソファに身を投げ出しながら叫んだ。
『気分転換』とやらにウチに遊びに来ていたのだが、『アンケートの結果はどうだったの?』とシャルロが尋ねた途端、奇声をあげて身を投げ出したのだ。
どうやらストレスが溜まっていたらしい。
「イリスターナ達は出席すると言っていたし、私達の同期の人間でも最終年度の魔術院についての講義に出席しなかった人間は多いから、皆特に文句を言わずに出席すると言っていたようだったぞ?」
アレクがお茶を注ぎながら首を傾げた。
ガバッとアンディが体を起こした。
「若いのは良いんだよ、若いのは!!!
それこそ、大多数の人間が相談窓口が存在するって言われて『マジ??』って反応だったから、あいつらは研修をやってくれて有り難いと思っているし、出席する気も十分にあるんだ。
だけど!!!」
頭をかきむしりながらバタンとまたアンディが体をソファに投げ出した。
「中堅クラスの連中が、実は色々と知らないくせに『今まで知らなくても問題無かったんだから、今更研修なんぞ要らん』って言うんだ!!!」
「あ~。
そう言えば、一応魔術学院での魔術師の育成が一般的になった世代全部にアンケートをするって言っていたよな。
あまり正解率は高くなかったんだ?」
アンディが作った『魔術院の基本』クイズとでも言う感じのアンケートは、魔術院の役割や誰が何をやっているか、どんな助けをしてくれるのか、どういう時に罰則を科するのか、魔術師が独り立ちする場合に何をしなければいけないのかといった質問に、答えを選択式で選んでいく物だった。
ある意味、テストだよな。
で、その採点結果は俺達の年代ではかなり悪かったらしい。
まあ、これは想定通りだ。
俺やイリスターナが魔術院の低利子の貸金制度のことや相談窓口の存在すら知らなかったと聞いたアンディが彼的な『基本的な魔術院に関する常識』に関する問題を俺達にやらせて、その惨憺たる結果に頭を抱えて大々的に王都の若い魔術師相手に配り、かなり苦労して回収したのだ。
で。
結果をアンディに見せられた魔術院のお偉いさん達がこれじゃあ不味いと重い腰を上げて魔術学院でちゃんとした講義をやることにしたらしいのだが・・・そのことを学院長に相談しに行ったら、魔術学院で育成された中堅どころの世代の魔術師の知識も確認した方が良いのでは?と指摘されて同じようなアンケートをもっと上の世代の連中にも出すことになったという話は聞いていた。
「流石にお前らよりは多少はマシだが、2割程度しか改善してない。
つまり、ほぼ半数は相談窓口の事を知らなかったんだ。
まあ、流石に税金の事はもう少し知っていたけど。
だから次の総会でお前達若いのだけでなく、もっと中堅の世代の連中も研修に出て貰えって上に言われたんだが・・・」
アンディの声がため息の中に消えていった。
「今更必要ないって?」
中堅って言われる年齢まで魔術師としてやってこれたんだ。
別に今更研修を受ける必要は無いと思う人間は多いだろうな。
アンディがため息をついた。
「中堅でそこそこ成功している魔術師だったら、秘書か会計の担当を雇っていることが多いんだよ。そうなると、自分が知る必要は無いし、そんな研修に時間を割くよりは依頼を請けて仕事をしている方が意味があるだろうって言われると何とも言えなくって。
でも、上は中堅の魔術師だっていつかは魔術院の幹部になるかもしれないんだから、魔術院のことを知らないのは困るから何が何でも研修を受けさせろって言っていて」
あ~。
確かに、実務的には現時点で知っている必要なくても、いつか魔術院という組織の幹部になったりしたら本人も周りも困ることになる可能性は高いだろうなぁ。
・・・ある意味、魔術院のことを知っている昔ながらの魔術師の家系や弟子ネットワークの人間だけでこれからも魔術院を動かそうとしていないだけ、アンディの上司って良心的なのかも?
板挟みになってるアンディにとってはあまり慰めにならないかもだけど。
「その上の人の言葉を伝えて研修に出て欲しいってお願いしたら?
それでも興味が無いと言われたら、その人のアンケートの回答の正解を渡して『じゃあ、せめて間違えていた部分の正解には目を通して理解しておいて下さいね』って頼んでおいて、また来年にでもテストしたらどう?
その時点で憶えてなかったら『時間の節約のために書類で渡しても目を通して貰えなかったので研修への出席を強要せざるを得ないんです』って言ったら良いじゃない」
シャルロが提案した。
「でも、正解回答を渡しておくんだろ?アンケートを来年渡した時点でそれを見直して答えるんじゃないか?」
少なくとも俺だったらそうすると思うが。
すくっとアンディが立ち上がった。
「構わない。
正解の回答をちゃんと捨てずに取っておいてくれて見つけられるんだったら、必要に応じて調べられるだろう。
よし!
それで行く!!!」
お。
解決ですか。
俺は大人しく研修を受けるから、それで良いんだよな?
それとも来年またテストされる可能性に備えてちゃんと資料もわかりやすい場所に仕舞っておいた方が良いのか?
【後書き】
中堅どころになったのに、今更一般常識的な知識に関する研修を受けろなんて言われても嫌がりますよね~。
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