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魔術学院1年目
012 星暦549年 青の月 28日 学院祭(6)当日2
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学院祭ごときイベントで盛り上がるなんて子供っぽいと思っていたが、実はそれなりに面白かった。
初日の成績はグリフォン寮は二位と言う結果に終わった。団体戦でポイントの高い『野戦』に勝ち、シャルロとダレンが個人競技でも一位を取ったもののその他はあまりよく無かったのだ。
まあ、びりっけつのスフィンクス寮は2日目に1位になっても優勝出来ないことが確定しているぐらい点が悪いことを考えると、我々はそこそこいい所で来ているかも知れない。劇で勝てばグリフォン寮の逆転優勝だ。
そんな思いもあり、舞台裏では皆の熱意が暑苦しい熱気を醸し出していた。
パロディのあらすじを考え、その後はフェンダイのアシスタントとして演出やら衣装やら色々手伝う羽目になってきた俺だが、流石にこの段階になるとやることは殆どない。
つうか、この段階でやることがあったらやばい。
まあ、問題が起きた時の為に一応舞台脇で俺とフェンダイは待機。暇だったので二人でだべっていた。
「そう言えば、何だって今回俺にこんなに色々任せたんです?それなりに重要な2日目の出しモノのストーリーを、入って3カ月の新入生に任せるなんて中々大胆ですよね」
いい機会だったので、前から聞きたいと思っていたことを尋ねた。
「新入生だからっていうのも大きな理由だな」
フェンダイが肩を揉みながら答えた。
・・・あんた、若いんだから肩凝りだなんて年寄りの症状を見せていちゃあダメでしょうに。
もっと運動しなくっちゃ。
「元々、この学院祭って言うのは新入生が他の学年の生徒と知り合う機会を作る為に発案されたものなんだ。だから1年生は色々と活用するのが決まりだ。
で、何でお前を特に活用したかと言うと・・・。
お前が異分子だからというところが主な理由だな。下町からの奨学金生ということで周りから一歩引いているところがあるから、もっと物事の中心に押し出して殻を壊した方がいいと思ったというのが一つ。異分子だからこそ、俺たちが囚われている『常識』の外から見て、『変』な部分を指摘できると思ったのももう一つの理由だ」
周りの生徒に遠慮していた訳ではないが、分かりあえるはずがないと思っていたのは事実だ。
確かに今回の学院祭の準備で疲れて遠慮も何もなくやりあうようになって、意外と気があう人間を見つけた気がする。
この寮長に感謝と言うところか。
「別にあの『雪姫』に関しては、寮長でも『変』な部分は指摘出来たんじゃないですか?」
フェンダイが首を振った。
「女性が『恰好いい!』と思っている部分に関してはそれなりに突っ込みたいところがあったが、貴族階級の行動としての常識には俺も囚われていたからな。今回は違う視点があって色々面白い発見をしたよ。ありがとうな」
「こちらこそ、周りと親しくなれて助かりましたよ」
この学院にいる貴族階級や大商人の子息たちと親しくできるのはマイナスにはならない。伝手っていうのはどこにあっても損はないからね。
寮長が実は中々深い男だったということを実感している間に、グリフォン寮の出しモノの時間になった。
「さあお待たせ、グリフォン寮の出しモノ、『雪の姫と魔法剣士』です!」
きゃ~~っと甘い声が響く。
幕が上がり、着飾った女性陣(パーティドレスは殆ど自前だった。流石金持ちの子女たち・・・)と笑いさざめいている『雪姫』の姿が見えた瞬間、悲鳴が黄色から青に変わった感じがした。
もしかしたら、『きゃ~』ではなく、『ぎゃ~』になっていたかもしれない。
そこへ、舞台端から魔法剣士の恰好をしたアリシア・ノブリが姿を現した。
本当はアリシアとしては舞台裏の監督業をやりたかったらしいのだが、やはりワルツとかラブシーンとかで姫が魔法剣士よりあまりにも背が高すぎると色々難しいことが判明したので、女性で一番長身だったアリシアが抜擢されたのだ。
『おお、あの美しい女性は誰なんだい、ジュリオ!』
アリシアの口の動きに合わせて、ダンカン・マックダーの声が響く。
いい男の友もいい男なのか、こいつもいい声をしているよなぁ。
ムカツク。
舞台の右端では、ダレンが隣の女性をつついて、ひそひそ声で話すかのような仕草をした。
『あの素敵な男性は誰、セシー?』
非常に甘い、若々しい女性の声が舞台から流れた。
一瞬の空白の後、観客席から爆笑が響いた。
意外とドレスが似合っている(とは言ってもあり得ないぐらいのっぽだが)ダレンとは言え、そこからあんなに可愛らしい声が出るのは笑える。
うん、この吹き替え役の声の選定は成功だったな。
舞台の上では話が進み、バカップルが踊るシーンになっていた。
静止しているならまだしも、ワルツを踊っている2人を宙に浮かせると言うのは中々難しかったんだよねぇ~。
ワルツって意外と動くし。
結局、丸く繋いだ木の板の上で二人が踊り、それをゆっくりと魔術で持ち上げ、別の組が魔術でその板を見えないように隠すと言う複合技になった。
当然板が間に入るから他のダンサーを蹴ることは出来ないのだが、観客席からみて足がぶつかったかのような位置にダンサーを配置して、蹴られたかのように跳ね飛ばすことにした。
実は今回の劇の中で一番複雑な動きと魔術を必要とする場面となったが、苦労しただけあって観客には凄く受けているようだ。
「うっし。いいぞ~」
フェンダイが小さく呟いている。
2人がベランダで愛をささやいている場面では観客から小さな笑いが広がり(フェンダイの案で色々と真面目な口説き文句が面白おかしくひねられていた。)、姫の父親に『急いでいるから』と出ていかれて反対されていると誤解するシーンではちょっと唸り声が聞こえてくる。
戦場のシーンでアリシアが燃え盛る炎の剣を振り回し(本当に火を出す魔法剣なんだもんな、驚いた。周りに炎が燃え広がらないように、舞台および前列の観客席には防炎の術が何重にも掛けられている)、皇太子を助けるシーンでは『きゃ~』と甘い悲鳴が響いてきた。
どうやら、アリシアは女性のファンを増やしているようだ。
最後のシーンで姫の父親が『別に反対するつもりなんて無いのに。』とつぶやくシーンでは笑いが広まり。
姫が皇太子を狙った暗殺者たちを魔術でぶっ飛ばすシーンでは『きゃ~!』と黄色い悲鳴が響いた。
「よっしゃ、成功だ!皆良く頑張った!!」
割れるような喝采の中、カーテンが下りる。
フェンダイが満足そうに声を上げた。
グリフォン寮の出しモノに対するカーテンコールは5回。
ちなみに、圧倒的に拍手が大きかったのは騎士アリシアに対してだった。
まあ、ダレンにしてみては、姫ダレンに人気が出ても困るだろうけどね。
投票結果としては・・・グリフォン寮の圧勝だった。
うっしゃ~~~!!
初日の成績はグリフォン寮は二位と言う結果に終わった。団体戦でポイントの高い『野戦』に勝ち、シャルロとダレンが個人競技でも一位を取ったもののその他はあまりよく無かったのだ。
まあ、びりっけつのスフィンクス寮は2日目に1位になっても優勝出来ないことが確定しているぐらい点が悪いことを考えると、我々はそこそこいい所で来ているかも知れない。劇で勝てばグリフォン寮の逆転優勝だ。
そんな思いもあり、舞台裏では皆の熱意が暑苦しい熱気を醸し出していた。
パロディのあらすじを考え、その後はフェンダイのアシスタントとして演出やら衣装やら色々手伝う羽目になってきた俺だが、流石にこの段階になるとやることは殆どない。
つうか、この段階でやることがあったらやばい。
まあ、問題が起きた時の為に一応舞台脇で俺とフェンダイは待機。暇だったので二人でだべっていた。
「そう言えば、何だって今回俺にこんなに色々任せたんです?それなりに重要な2日目の出しモノのストーリーを、入って3カ月の新入生に任せるなんて中々大胆ですよね」
いい機会だったので、前から聞きたいと思っていたことを尋ねた。
「新入生だからっていうのも大きな理由だな」
フェンダイが肩を揉みながら答えた。
・・・あんた、若いんだから肩凝りだなんて年寄りの症状を見せていちゃあダメでしょうに。
もっと運動しなくっちゃ。
「元々、この学院祭って言うのは新入生が他の学年の生徒と知り合う機会を作る為に発案されたものなんだ。だから1年生は色々と活用するのが決まりだ。
で、何でお前を特に活用したかと言うと・・・。
お前が異分子だからというところが主な理由だな。下町からの奨学金生ということで周りから一歩引いているところがあるから、もっと物事の中心に押し出して殻を壊した方がいいと思ったというのが一つ。異分子だからこそ、俺たちが囚われている『常識』の外から見て、『変』な部分を指摘できると思ったのももう一つの理由だ」
周りの生徒に遠慮していた訳ではないが、分かりあえるはずがないと思っていたのは事実だ。
確かに今回の学院祭の準備で疲れて遠慮も何もなくやりあうようになって、意外と気があう人間を見つけた気がする。
この寮長に感謝と言うところか。
「別にあの『雪姫』に関しては、寮長でも『変』な部分は指摘出来たんじゃないですか?」
フェンダイが首を振った。
「女性が『恰好いい!』と思っている部分に関してはそれなりに突っ込みたいところがあったが、貴族階級の行動としての常識には俺も囚われていたからな。今回は違う視点があって色々面白い発見をしたよ。ありがとうな」
「こちらこそ、周りと親しくなれて助かりましたよ」
この学院にいる貴族階級や大商人の子息たちと親しくできるのはマイナスにはならない。伝手っていうのはどこにあっても損はないからね。
寮長が実は中々深い男だったということを実感している間に、グリフォン寮の出しモノの時間になった。
「さあお待たせ、グリフォン寮の出しモノ、『雪の姫と魔法剣士』です!」
きゃ~~っと甘い声が響く。
幕が上がり、着飾った女性陣(パーティドレスは殆ど自前だった。流石金持ちの子女たち・・・)と笑いさざめいている『雪姫』の姿が見えた瞬間、悲鳴が黄色から青に変わった感じがした。
もしかしたら、『きゃ~』ではなく、『ぎゃ~』になっていたかもしれない。
そこへ、舞台端から魔法剣士の恰好をしたアリシア・ノブリが姿を現した。
本当はアリシアとしては舞台裏の監督業をやりたかったらしいのだが、やはりワルツとかラブシーンとかで姫が魔法剣士よりあまりにも背が高すぎると色々難しいことが判明したので、女性で一番長身だったアリシアが抜擢されたのだ。
『おお、あの美しい女性は誰なんだい、ジュリオ!』
アリシアの口の動きに合わせて、ダンカン・マックダーの声が響く。
いい男の友もいい男なのか、こいつもいい声をしているよなぁ。
ムカツク。
舞台の右端では、ダレンが隣の女性をつついて、ひそひそ声で話すかのような仕草をした。
『あの素敵な男性は誰、セシー?』
非常に甘い、若々しい女性の声が舞台から流れた。
一瞬の空白の後、観客席から爆笑が響いた。
意外とドレスが似合っている(とは言ってもあり得ないぐらいのっぽだが)ダレンとは言え、そこからあんなに可愛らしい声が出るのは笑える。
うん、この吹き替え役の声の選定は成功だったな。
舞台の上では話が進み、バカップルが踊るシーンになっていた。
静止しているならまだしも、ワルツを踊っている2人を宙に浮かせると言うのは中々難しかったんだよねぇ~。
ワルツって意外と動くし。
結局、丸く繋いだ木の板の上で二人が踊り、それをゆっくりと魔術で持ち上げ、別の組が魔術でその板を見えないように隠すと言う複合技になった。
当然板が間に入るから他のダンサーを蹴ることは出来ないのだが、観客席からみて足がぶつかったかのような位置にダンサーを配置して、蹴られたかのように跳ね飛ばすことにした。
実は今回の劇の中で一番複雑な動きと魔術を必要とする場面となったが、苦労しただけあって観客には凄く受けているようだ。
「うっし。いいぞ~」
フェンダイが小さく呟いている。
2人がベランダで愛をささやいている場面では観客から小さな笑いが広がり(フェンダイの案で色々と真面目な口説き文句が面白おかしくひねられていた。)、姫の父親に『急いでいるから』と出ていかれて反対されていると誤解するシーンではちょっと唸り声が聞こえてくる。
戦場のシーンでアリシアが燃え盛る炎の剣を振り回し(本当に火を出す魔法剣なんだもんな、驚いた。周りに炎が燃え広がらないように、舞台および前列の観客席には防炎の術が何重にも掛けられている)、皇太子を助けるシーンでは『きゃ~』と甘い悲鳴が響いてきた。
どうやら、アリシアは女性のファンを増やしているようだ。
最後のシーンで姫の父親が『別に反対するつもりなんて無いのに。』とつぶやくシーンでは笑いが広まり。
姫が皇太子を狙った暗殺者たちを魔術でぶっ飛ばすシーンでは『きゃ~!』と黄色い悲鳴が響いた。
「よっしゃ、成功だ!皆良く頑張った!!」
割れるような喝采の中、カーテンが下りる。
フェンダイが満足そうに声を上げた。
グリフォン寮の出しモノに対するカーテンコールは5回。
ちなみに、圧倒的に拍手が大きかったのは騎士アリシアに対してだった。
まあ、ダレンにしてみては、姫ダレンに人気が出ても困るだろうけどね。
投票結果としては・・・グリフォン寮の圧勝だった。
うっしゃ~~~!!
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