シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
30 / 1,309
魔術学院2年目

029 星暦550年 藤の月 8日 観察

しおりを挟む
身の回りにある道具がどう機能しているのか、実は意外と知らないと言うことに気付いた。
折角極めつきに性能のいい心眼サイトを持っているんだ、もっと色々研究して自分の役に立てるべきだよな。
少し図書館で本を読む時間を減らして、これからは実用的な研究もしてみよう。



「やっぱ、一つ分解してみるべきじゃない?」
シャルロが提案した。

グループで作業してもいいとのことなので、生徒は2人、3人とまとまって色々議論している。
俺はシャルロとアレクといつの間にか一緒に座っていた。

な~んかこの二人と気が合うんだよね。
シャルロの浮世離れしたポワポワ感と、アレクの商人育ちらしい現実的なところが、いい感じにフィットする。
こいつらも似たようなことを感じているのかな?


ガラスの塊を見ながら考える。
モノの変形・変質させる術は既に習っている。
色々片っぱしから試すか・・・なんて思っていたら、シャルロが提案をしたのだ。

意外~。
一番行き当たりばったりに行動しそうなのに。

「シャルロってこういう時に感性で行き当たりばったりに試していくタイプだと思ってた」
アレクも同じことを考えていらしい。
「そ~!解体して調べようなんて言うのは俺かアレクだよね」

ぷっとシャルロの頬が膨れる。
「もぉ。僕をなんだと思っているの。計画性をもって行動をするのって得意なんだからね」

「いや、お前はたんぽぽの種のようにふわふわと風に任せて漂うタイプだと思うが。
ま、それはいいとして。確かにランプを調べるのはいいね。一番機能が良いのと安物とを比べようぜ」

俺の提案に二人が頷く。
「一番安いのは俺のだと思うけど、シャルロとアレクのってどっちが性能いいんかね?」

アレクがため息をついた。
「シャルロの方が高いけど、性能は私の方がいいな。」

俺とアレクのランプを取ってくる。
考えてみたら、これがどう機能しているかなんてあんまり考えてみなかったなぁ。
別に学院に来る前にだってこういった魔具がどう動いているのかを見ようと思えば見ることができたのに。

ただし、学院に来る前は魔具なんて買う金銭的余裕は無かったけど。盗んだものを売らずに分解するなんていうことはあり得なかったから、調べてみようなんて思いつきもしなかった。

元々、俺にランプは必要ない。
心眼《サイト》を使えば完全な暗闇の中でも本を読めるし、集中すれば図書館の入口に立って奥の部屋にある本を読むことだってできる。

頭が痛くなるから滅多にやろうとは思わないけどさ。

考えてみたら、その気になれば俺って実技以外はカンニングしほうだいじゃん。
術を使って他の人の解答を見ようとすればばれるが、俺のように生来の能力の場合は個々の机ごとに結界でも張らない限り監督官にだって分からない。

とは言え。
元々魔術師は実技と応用が重要な職業だ。
筆記試験でどれだけいい点数を取ろうと実技で落第したら留年・退学だし、反対に筆記試験の結果が悪くても実技が合格だったらそのまま進級・卒業できる。
筆記試験で合格の点数が取れるまでひたすら補習を受ける羽目になるけど。

・・・カンニングで受かった試験結果でも金になる資格ってあったっけ?
今度ちょっと調べてみようかな。

それはともかく。
俺のランプを取って来て、点けてみた。
スイッチを入れると魔石が動き、術回路が繋がって光の魔術が発現する。
術回路と言うのは魔力を特定の形に流すことで術を発現させる手段だ。
1年で学んだ術は、魔術師の意思の形を発現の言葉を使うことで魔力を具現化させる。
意思で自分の魔力を具現化させるので『形』は関係ない。
具現化の言葉ですら、単に授業で『この言葉はこの術』と言う風に条件づけて学んだから使うだけであり、意思の力さえ足りれば言葉なしでも大丈夫だし、違う言葉でも術は発動できる。

術回路はこの意思による具現化を物理的な形に置き換えたものだ。
意思で意識せずに作っている魔力の形を回路という物理的な形に写すことで、魔力を魔石から供給した際に術を発現させる仕組みにするのだ。

術回路の形は実は魔術院が特許で保護しているものだ。
まあ、個人的に家で使う分には勝手に拝借しても問題は無いだろうけど。
商業的に売り出す分には魔術院が厳しくチェックしている。
だから術回路の研究というのは魔術師にとっては重要な職業の一つだ。

「このランプの術回路と私のとは同じか?」
アレクが自分のランプを持ち上げて術回路を確認しようとする。

「点けてみろよ。魔力を見れば回路の形がはっきりするだろう?」

シャルロがため息をつく。
「しないから。室内灯の術回路なんて、分解せずに視えないって」

「努力が足りないな、シャルロ君。とりあえず、点けてみろよ」
にやりと笑いながら紙を引き寄せる。
ランプの光がともって魔力が流れ始めたら、その回路を紙に書き込んで行った。
あまり絵を描くのは得意じゃないんだが、何をやっているのかとりあえず分かればいいだろう。

「眼がいいのは知っていたけど、ここまでいいのか・・・」
書き終わった術回路を見ながら、アレクが唸る。

ついでに別に紙に俺の安物ランプの回路も書いてみた。

「やっぱ、回路からして違うんだね」

術回路は魔力を通すモノならば何ででも作れる。
それこそ、髪の毛でもだ。
細くて扱いにくいから、余程小さな回路が必要とでもいうのでない限り、髪の毛を使うような奇特な技術者はいないけど。

今回は用意されていた細い銅のケーブルを使って二つの回路の形を作ってみた。
上に術の発現先のガラス玉を乗せて、魔力を通してみる。

明らかに、アレクの回路の方が明るい。
「高いだけあるねぇ」

「つまり、ランプを明るくする手段としては、術回路の工夫とガラスの形の工夫、それにガラスの素材の工夫とある訳だ。3人いるんだし、担当を決めて実験してみようか」

アレクの提案で、くじ引きをして決めることにした。
どれも面白そうだが・・・俺ってどれが一番向いているんだろ?
考えてみたら、こういうことに対する適性というのも見極めていかなきゃな。
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

処理中です...