シーフな魔術師

極楽とんぼ

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魔術学院3年目

100 星暦551年 紺の月 18日 船内探索

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今日はシェフィート家紋章付き馬車で宿屋を出た。
昨日また引き揚げ屋サルベージャー協会に行って調べ物をし、更に積み荷目録まで借りてきたお陰で確実に荒っぽい連中には目をつけられようだ。

考えてみたら、倉庫を借りるとしてそこの警備をどこに頼むかね?
牽制の意味も込めて引き揚げ屋サルベージャー協会から雇うか、
脅しの意味も含めて魔術院から雇うか、
盗賊《シーフ》ギルドの保護《プロテクション》を買うか、
それともアレクかシャルロの実家に頼むか。

ま、帰りの馬車の中ででも話し合えばいいな。

清早に船まで連れてきてもらい、俺たちは今日のプランを話し合った。
「貨物室から調べるか、客室から調べるか、どちらがいいかね?」

「両方見たいなぁ」
「午前と午後で分けよう。どちらから始めるかに特に拘りは無い。シャルロが構わないならウィルが決めてしまっていいぞ」

シャルロが肩をすくめたので、ちょっと考えてみた。
貨物室と客室。
どっちを先にやるかねぇ。宝石とかは客室の方がありそうだが、それ以外は何も残っていないだろうから見て回ってもあまり面白くないかもだな。
となったら先に貨物室に行くかな。

「じゃあ、午前中に貨物室、午後に客室を周ろう。飽きたら早い目に帰って倉庫を借りる準備を始めてもいいし」

「ん、了解!」
シャルロが楽しそうに頷いた。

◆◆◆

貨物フロアの中を適当に検分して回る。
「見て見て~。この花瓶、全然割れてない!」
シャルロよりも大きそうな陶磁器の置物を持ち上げながらシャルロがはしゃいだ。

・・・それって花瓶って言うのか?
殆ど石像と言った方がいいサイズだと思うんだが。

「面白いな。客船で態々大理石のベンチを運ばせる客がいたとは。どこかに移住する予定だったのかね?」
アレクが見事な彫刻の施された大理石の庭園用ベンチをしげしげと眺めている。

置物としては見事だが、座るには堅過ぎるんじゃないか?
しっかし、よくぞ沈没した時にどこかにぶつかって割れなかったものだな。
ま、航海していた頃は海が荒れても他にぶつかって傷が付かないよう念入りに包装されていたんだろうな。

「見ろよ、魔剣だ!」
石のケースを開いたら出てきた2本セットの魔剣に思わず俺も興奮して声をあげてしまった。

う~む。
豪華客船の貨物室と言うのは思いがけず面白いモノが多いんだな。
一度中身を拝借しに現役の船も忍び込んでみたいものだが、船の中という閉ざされた環境の中では逃げることも難しくって微妙かもしれない。

「こんな貨物と一緒に運ばれていたこの麻袋には何が入っていたんだろうね?」
シャルロがボロボロになった麻袋を持ちながら誰にともなく尋ねた。

ふむ。
この船に乗っていた人間と言うのは金持ち層が多いと思われるし、貧乏人が乗っていたとしても船員と同じレベルに押し込められただろうから彼らが運ぶような種籾なんかだったら別の階に仕舞われるだろう。

となったら本当に一体何が入っていたんだろ?

「もしかしたら王都より北の方に領地がある貴族が自分の農民用に種籾を輸入していたのかも?」
アレクが提案した。

「ま、どちらにせよ役に立たない埃に化けちゃったけどね」

「「・・・」」

しまった。
ちょっと身も蓋も無すぎたか。

ゴホ。
少し空咳をして気まずい空気を押しのける。
「昼食にしようぜ」

◆◆◆

昼食後に客室を回ったが・・・。
問題が発覚した。

「船を動かす前にとりあえず一通り全部宝石を拾うか、じゃなきゃ全部の窓を封鎖しないと流れて行きそうだな」
アレクがこめかみを摩りながらつぶやいた。

「しかも宝石を探す為に水打《ヒタン》を連発すると自分で宝石を吹き飛ばしそうだし」
シャルロもため息をつく。

そう。
客室の装飾品が殆ど全て、床に放置状態だったのだ。

元々はケースに入れてクロゼットに厳重に管理していたからこそ船が沈んだ際にも窓から流されなかったのだろうが・・・。
今ではクロゼットの扉も外れ、ケースはとっくに水に熔けて無くなったようだ。

「各部屋を回るのと、窓を全部封鎖するのとどっちが楽か・・・」

「窓の数だけ外に面した部屋があるんだから、この際窓際の部屋を全部回って必要があったらそこの窓を封鎖しよう。

ま、たまにはそう言う多少行き当たりばったりなのもいいだろう。

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