シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
116 / 1,309
魔術学院3年目

115 星暦551年 桃の月 10日 前払い料

しおりを挟む
休養日だ。

鍛冶屋とかも普通ならば閉まっている日なのだが、スタルノにとって休養日は客に邪魔されずに思う存分鍛冶に取り掛かれる日。
ということで、却って朝早くから鍛冶場にいることが多い。

だから遊びに行くのに問題は無い。
ただし・・・今回は頼みごとをしに行くからな。ちょっと代価になるモノを持って行った方が良いかもしれない。

ま、代価をよこさなきゃ助けてくれないなんて言うケチなことを考える男じゃないけどさ。
これからも鍛冶場を使わせてもらって個人的な鍛冶のプロジェクトは続けさせてもらいたい。弟子じゃないのに鍛冶場を使わせてもらったり、誰か良い人を紹介してくれって頼むんだりするんだから、何かお土産を持っていくのは悪くないアイディアだろう。

ということで『これからこんなモノを作っていきたいんだ。』という試作品の意味も込めて去年造った冷凍庫フリザー・送風機の改良版を作って持っていくことにした。

夏の間にそれなりに利用して改良点が幾つか思いついたからね。しかも鍛冶場なんて言う暑いところで使うんだ。俺の部屋と同じ仕様で作ってもあまり効果的には動かない。
とりあえず、大きな変更点として、吸熱の術回路を外側につけて冷凍庫フリザーの表面に当たった熱エネルギーも魔石に取り込むように改善した。

これで大分風を強く出せるようになるだろう。
ただし、鍛冶の最中に風が欲しくないというのならば夜の間にでも少し送風機を使わないとエネルギーが溜まり過ぎてしまうが。

ま、夜の間にも送風機を使うのを忘れて壊したら俺が修理するということで勘弁してもらおう。
つうか、仕事中も夜も送風機を使わないなら、これは回収してシャルロ式冷凍庫フリザー保存庫フリッジを渡せばいいし。

◆◆◆

「お邪魔しま~す」

台車を押して鍛冶場に入った俺に、スタルノは目も向けずに槌を振るい続けた。
俺もいつものことなので気にせずに適当な位置に冷凍庫フリザー・送風機を設置し、中に製氷ケースと幾つかのフルーツを放り込んでスイッチを入れ、ノンビリ待つ体勢を取った。

さ~て、商品開発って言っても、何を作るかねぇ。
主な購入層としては製造業につかうビジネス用途、富裕層が使う贅沢品、そして主婦が使う家事系の便利品かな?

となるとアレクがビジネス用途、シャルロが富裕層、俺が主婦層のリサーチをして新しいアイディアを探す言う感じだな・・・。

「何を持ちこんだんだ?」
いつの間にか鍛冶に一息ついていたスタルノが声をかけてきた。

「俺が作った冷凍庫フリザー・送風機。冷凍庫フリザーの魔石をちゃんと入れておいたら熱エネルギーを使って送風機を使える優れものさ!」
送風機のスイッチを入れてスタルノに向ける。

冷凍庫フリザーと言えば火器コンロと合わせるもんだと思っていたが」

「去年からシェフィート商会が売りだしてただろ?あれの原案を考えたのが俺とシャルロとアレクなの」

「ほ~」
冷凍庫フリザーを開けて冷え始めたカットフルーツを取り出しながらスタルノが答えた。

「別に鍛冶を辞めると言うのにこんなモノを持ってこなくっても怒らなかったぞ?」

ぶっ。

思わず飲んでいた水を噴出していた。
「別に怒るほどあんたが個人的に受け止めるとは思っていなかったよ」
まあ、暫く俺と口を利かない位不快に思ったかもしれないけど。

「鍛冶って言うのは凄く面白いからこれからも続けたいんだが、職業としては俺的にちょっと矛盾を感じるところがあるんだよね。俺としてはこれからも拘りの趣味として続けていきたい。だからここをこれからも使わせてもらいたいんだ。
つまり、鍛冶場の前払い使用料みたいなもん?」

「趣味、ねぇ」

「一生をかけた拘りの、だよ」
暫くスタルノの唇が歪んでいたが、やがてその形が笑いに変わった。

「ま、俺の鍛冶も趣味みたいなもんだ。趣味と商売が両立は難しいからな。最初から趣味と割り切る方が納得のできるモノが作れるのかもしれんな。
で、お前さんは代わりに魔具職人になる訳か?」

ふう。
一応分かってもらえたらしい。
ま、客を『邪魔』だと何よりも嫌う職人だものな。鍛冶を商売にしないのは実は羨ましいぐらいかもしれない。

「魔具職人というか・・・商品開発業。この冷凍庫フリザー・送風機みたいに『あったら便利』だけど現時点では効率的に造れないモノを実用的なレベルで造り上げる方法を見つけて、そのデザインを売る。実際に製造するのはデザインを買った商会に委託された職人になる。
ま、誰もデザインを買ってくれなかったら俺たちで商品を実際に造って流行るようになるまで自分で売ることになるかもしれないけど」

送風機の向きを変えて顔に風を当てながらスタルノが笑った。
「ま、アイディア先行のお前さんには合った職業かもしれないな。で、俺に何をして欲しいんだ?」

「信頼のできる、出来ればもう一線を退いた魔具職人を紹介してくれない?
何と言っても実際に製造経験が無いからね。デザインを作る際に、製造における要点をアドバイスをしてくれる人が欲しい」

フルーツを齧りながらしばし考えていたが、やがてスタルノが頷いた。
「分かった。何人か紹介してやろう。だが、どれも頑固おやじばかりだから、協力してもらうのは至難の業だぜ」

頑固おやじねぇ。
シャルロあたりが交渉役に向いているかな?


しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

処理中です...