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魔術学院3年目
115 星暦551年 桃の月 10日 前払い料
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休養日だ。
鍛冶屋とかも普通ならば閉まっている日なのだが、スタルノにとって休養日は客に邪魔されずに思う存分鍛冶に取り掛かれる日。
ということで、却って朝早くから鍛冶場にいることが多い。
だから遊びに行くのに問題は無い。
ただし・・・今回は頼みごとをしに行くからな。ちょっと代価になるモノを持って行った方が良いかもしれない。
ま、代価をよこさなきゃ助けてくれないなんて言うケチなことを考える男じゃないけどさ。
これからも鍛冶場を使わせてもらって個人的な鍛冶のプロジェクトは続けさせてもらいたい。弟子じゃないのに鍛冶場を使わせてもらったり、誰か良い人を紹介してくれって頼むんだりするんだから、何かお土産を持っていくのは悪くないアイディアだろう。
ということで『これからこんなモノを作っていきたいんだ。』という試作品の意味も込めて去年造った冷凍庫・送風機の改良版を作って持っていくことにした。
夏の間にそれなりに利用して改良点が幾つか思いついたからね。しかも鍛冶場なんて言う暑いところで使うんだ。俺の部屋と同じ仕様で作ってもあまり効果的には動かない。
とりあえず、大きな変更点として、吸熱の術回路を外側につけて冷凍庫の表面に当たった熱エネルギーも魔石に取り込むように改善した。
これで大分風を強く出せるようになるだろう。
ただし、鍛冶の最中に風が欲しくないというのならば夜の間にでも少し送風機を使わないとエネルギーが溜まり過ぎてしまうが。
ま、夜の間にも送風機を使うのを忘れて壊したら俺が修理するということで勘弁してもらおう。
つうか、仕事中も夜も送風機を使わないなら、これは回収してシャルロ式冷凍庫・保存庫を渡せばいいし。
◆◆◆
「お邪魔しま~す」
台車を押して鍛冶場に入った俺に、スタルノは目も向けずに槌を振るい続けた。
俺もいつものことなので気にせずに適当な位置に冷凍庫・送風機を設置し、中に製氷ケースと幾つかのフルーツを放り込んでスイッチを入れ、ノンビリ待つ体勢を取った。
さ~て、商品開発って言っても、何を作るかねぇ。
主な購入層としては製造業につかうビジネス用途、富裕層が使う贅沢品、そして主婦が使う家事系の便利品かな?
となるとアレクがビジネス用途、シャルロが富裕層、俺が主婦層のリサーチをして新しいアイディアを探す言う感じだな・・・。
「何を持ちこんだんだ?」
いつの間にか鍛冶に一息ついていたスタルノが声をかけてきた。
「俺が作った冷凍庫・送風機。冷凍庫の魔石をちゃんと入れておいたら熱エネルギーを使って送風機を使える優れものさ!」
送風機のスイッチを入れてスタルノに向ける。
「冷凍庫と言えば火器と合わせるもんだと思っていたが」
「去年からシェフィート商会が売りだしてただろ?あれの原案を考えたのが俺とシャルロとアレクなの」
「ほ~」
冷凍庫を開けて冷え始めたカットフルーツを取り出しながらスタルノが答えた。
「別に鍛冶を辞めると言うのにこんなモノを持ってこなくっても怒らなかったぞ?」
ぶっ。
思わず飲んでいた水を噴出していた。
「別に怒るほどあんたが個人的に受け止めるとは思っていなかったよ」
まあ、暫く俺と口を利かない位不快に思ったかもしれないけど。
「鍛冶って言うのは凄く面白いからこれからも続けたいんだが、職業としては俺的にちょっと矛盾を感じるところがあるんだよね。俺としてはこれからも拘りの趣味として続けていきたい。だからここをこれからも使わせてもらいたいんだ。
つまり、鍛冶場の前払い使用料みたいなもん?」
「趣味、ねぇ」
「一生をかけた拘りの、だよ」
暫くスタルノの唇が歪んでいたが、やがてその形が笑いに変わった。
「ま、俺の鍛冶も趣味みたいなもんだ。趣味と商売が両立は難しいからな。最初から趣味と割り切る方が納得のできるモノが作れるのかもしれんな。
で、お前さんは代わりに魔具職人になる訳か?」
ふう。
一応分かってもらえたらしい。
ま、客を『邪魔』だと何よりも嫌う職人だものな。鍛冶を商売にしないのは実は羨ましいぐらいかもしれない。
「魔具職人というか・・・商品開発業。この冷凍庫・送風機みたいに『あったら便利』だけど現時点では効率的に造れないモノを実用的なレベルで造り上げる方法を見つけて、そのデザインを売る。実際に製造するのはデザインを買った商会に委託された職人になる。
ま、誰もデザインを買ってくれなかったら俺たちで商品を実際に造って流行るようになるまで自分で売ることになるかもしれないけど」
送風機の向きを変えて顔に風を当てながらスタルノが笑った。
「ま、アイディア先行のお前さんには合った職業かもしれないな。で、俺に何をして欲しいんだ?」
「信頼のできる、出来ればもう一線を退いた魔具職人を紹介してくれない?
何と言っても実際に製造経験が無いからね。デザインを作る際に、製造における要点をアドバイスをしてくれる人が欲しい」
フルーツを齧りながらしばし考えていたが、やがてスタルノが頷いた。
「分かった。何人か紹介してやろう。だが、どれも頑固おやじばかりだから、協力してもらうのは至難の業だぜ」
頑固おやじねぇ。
シャルロあたりが交渉役に向いているかな?
鍛冶屋とかも普通ならば閉まっている日なのだが、スタルノにとって休養日は客に邪魔されずに思う存分鍛冶に取り掛かれる日。
ということで、却って朝早くから鍛冶場にいることが多い。
だから遊びに行くのに問題は無い。
ただし・・・今回は頼みごとをしに行くからな。ちょっと代価になるモノを持って行った方が良いかもしれない。
ま、代価をよこさなきゃ助けてくれないなんて言うケチなことを考える男じゃないけどさ。
これからも鍛冶場を使わせてもらって個人的な鍛冶のプロジェクトは続けさせてもらいたい。弟子じゃないのに鍛冶場を使わせてもらったり、誰か良い人を紹介してくれって頼むんだりするんだから、何かお土産を持っていくのは悪くないアイディアだろう。
ということで『これからこんなモノを作っていきたいんだ。』という試作品の意味も込めて去年造った冷凍庫・送風機の改良版を作って持っていくことにした。
夏の間にそれなりに利用して改良点が幾つか思いついたからね。しかも鍛冶場なんて言う暑いところで使うんだ。俺の部屋と同じ仕様で作ってもあまり効果的には動かない。
とりあえず、大きな変更点として、吸熱の術回路を外側につけて冷凍庫の表面に当たった熱エネルギーも魔石に取り込むように改善した。
これで大分風を強く出せるようになるだろう。
ただし、鍛冶の最中に風が欲しくないというのならば夜の間にでも少し送風機を使わないとエネルギーが溜まり過ぎてしまうが。
ま、夜の間にも送風機を使うのを忘れて壊したら俺が修理するということで勘弁してもらおう。
つうか、仕事中も夜も送風機を使わないなら、これは回収してシャルロ式冷凍庫・保存庫を渡せばいいし。
◆◆◆
「お邪魔しま~す」
台車を押して鍛冶場に入った俺に、スタルノは目も向けずに槌を振るい続けた。
俺もいつものことなので気にせずに適当な位置に冷凍庫・送風機を設置し、中に製氷ケースと幾つかのフルーツを放り込んでスイッチを入れ、ノンビリ待つ体勢を取った。
さ~て、商品開発って言っても、何を作るかねぇ。
主な購入層としては製造業につかうビジネス用途、富裕層が使う贅沢品、そして主婦が使う家事系の便利品かな?
となるとアレクがビジネス用途、シャルロが富裕層、俺が主婦層のリサーチをして新しいアイディアを探す言う感じだな・・・。
「何を持ちこんだんだ?」
いつの間にか鍛冶に一息ついていたスタルノが声をかけてきた。
「俺が作った冷凍庫・送風機。冷凍庫の魔石をちゃんと入れておいたら熱エネルギーを使って送風機を使える優れものさ!」
送風機のスイッチを入れてスタルノに向ける。
「冷凍庫と言えば火器と合わせるもんだと思っていたが」
「去年からシェフィート商会が売りだしてただろ?あれの原案を考えたのが俺とシャルロとアレクなの」
「ほ~」
冷凍庫を開けて冷え始めたカットフルーツを取り出しながらスタルノが答えた。
「別に鍛冶を辞めると言うのにこんなモノを持ってこなくっても怒らなかったぞ?」
ぶっ。
思わず飲んでいた水を噴出していた。
「別に怒るほどあんたが個人的に受け止めるとは思っていなかったよ」
まあ、暫く俺と口を利かない位不快に思ったかもしれないけど。
「鍛冶って言うのは凄く面白いからこれからも続けたいんだが、職業としては俺的にちょっと矛盾を感じるところがあるんだよね。俺としてはこれからも拘りの趣味として続けていきたい。だからここをこれからも使わせてもらいたいんだ。
つまり、鍛冶場の前払い使用料みたいなもん?」
「趣味、ねぇ」
「一生をかけた拘りの、だよ」
暫くスタルノの唇が歪んでいたが、やがてその形が笑いに変わった。
「ま、俺の鍛冶も趣味みたいなもんだ。趣味と商売が両立は難しいからな。最初から趣味と割り切る方が納得のできるモノが作れるのかもしれんな。
で、お前さんは代わりに魔具職人になる訳か?」
ふう。
一応分かってもらえたらしい。
ま、客を『邪魔』だと何よりも嫌う職人だものな。鍛冶を商売にしないのは実は羨ましいぐらいかもしれない。
「魔具職人というか・・・商品開発業。この冷凍庫・送風機みたいに『あったら便利』だけど現時点では効率的に造れないモノを実用的なレベルで造り上げる方法を見つけて、そのデザインを売る。実際に製造するのはデザインを買った商会に委託された職人になる。
ま、誰もデザインを買ってくれなかったら俺たちで商品を実際に造って流行るようになるまで自分で売ることになるかもしれないけど」
送風機の向きを変えて顔に風を当てながらスタルノが笑った。
「ま、アイディア先行のお前さんには合った職業かもしれないな。で、俺に何をして欲しいんだ?」
「信頼のできる、出来ればもう一線を退いた魔具職人を紹介してくれない?
何と言っても実際に製造経験が無いからね。デザインを作る際に、製造における要点をアドバイスをしてくれる人が欲しい」
フルーツを齧りながらしばし考えていたが、やがてスタルノが頷いた。
「分かった。何人か紹介してやろう。だが、どれも頑固おやじばかりだから、協力してもらうのは至難の業だぜ」
頑固おやじねぇ。
シャルロあたりが交渉役に向いているかな?
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