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卒業後
139 星暦552年 紫の月 4日 幼馴染(1)
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――王都のオレファーニ侯爵家の屋敷を訪れていたシャルロの話――
>>サイド シャルロ
「フェリスちゃんって本当に可愛いよね~」
まだ首も据わらぬ赤子の頬をうっとりとつつきながら呟く。
「そうねぇ。あなたももうそろそろ良い娘さんを見つけることを考えた方がいいんじゃない?
今すぐ家庭を持てとは言わないけど、人一倍のんびり屋さんなあなただったら『良いな』という娘さんを見つけてから実際に家庭を持つまでにかなり年数がかかりそうだわ」
母からの思いがけぬコメントに思わずフェリスちゃんから目を離してしまった。
「僕が家庭??お父さんになる僕なんて、想像出来ないんだけど・・・」
子供のころから末っ子として皆に甘やかされてきた。
自分の行動には責任を取ろうと思い、それなりに頑張ってきたものの『誰か』の全生活に責任を持つ『お父さん』になった自分の姿と言うのは想像できない。
今年から始めたビジネスではそれなりにアレクもウィルもパートナーとして素材開発とかアイディアの提供に頼ってくれるところもあるが、現実面での実用的な実務に関しては・・・『ぽやぽや』という形容詞をつけて呼ばれることが多い気がする。
「ねぇ、僕ってそんなにぼんやりポヤポヤしているかなぁ?
お父さんになる僕っていうのも想像できないけど、周りの人も一人の大人として責任を持って自立をした僕を考えたことも無いような気がするんだよねぇ」
くすり。
母が笑いをこぼした。
「まあ、皆があなたのその日溜まりのようなノンビリさを気に入っているんだと思うわよ。
必要に迫られればもっとしっかり出来るでしょうけど、ついついそのノンビリさを失ってもらいたくないから世話を焼きすぎちゃうのでしょ」
自分の性格を褒められるのは嬉しい。でも・・・何とはなしにこの『ポヤポヤのままでいい。』という周りの態度は複雑だ。
難しいことを考え込んで悩むのは性ではないけど、苦労を知らない世間知らずとして扱われるのもなぁ。
でも。
「母上も僕のノンビリした性格が好きなら、そんな結婚しろだなんて急かさないでよ」
急かされるのは嫌だし、まだ結婚なんて考えてみたことも無い。
三男の僕は別に後継ぎを産ませる必要もないし。
「まあねぇ、私もそう思っていたんだけど、この間ケレナと会って『ああ、子供はいつまでも幼いままじゃないんだわぁ』と実感したのよね」
ラズバリー伯爵家はオレファーニ侯爵家と同じく南方の有力貴族であり、屋敷も比較的近い位置に建っている。
僕とケレナの年が近いこともあって魔術学院に入るまでは良く一緒に悪戯をしたものだ。
ケレナが悪戯を思いつき、僕を引き込むと言うことが多かったけど。
あのケレナの悪戯に対する才能はある意味ウィルの心眼《サイト》よりも凄いかもしれない。
独創性に関しては、僕はこの幼馴染を誰よりも尊敬して育ったと言っていい。
「ケレナに会ったの?こないだ話した時は、『皇太子妃候補なんて冗談じゃない』って破談させる方法を色々考えていたけど」
母の眉が引き上げられた。
「あら、そうなの?先日会った際にはまるで理想的な淑女になっていて、まさしく『皇太子妃とはこうあるべき』といった姿だったわ。
てっきり皇太子妃のチャレンジに真剣に取り組んでいるのかと思ったのだけど」
淑女??
ケレナが?
有力貴族の娘として育ったのだ、勿論必要な場面ではケレナだって完璧な貴族としての行動をとることが出来る。
だが、母のような親しい人間に対して完璧な淑女のように行動するなんて・・・ケレナらしくない。
どうしたんだろ?
「ラズバリー家って大丈夫だよね?何か投資に大失敗したとか大飢饉が起きてケレナが家を救うために皇太子妃になる決心をした訳じゃあないよね?」
そんな自己犠牲を強いるぐらいならオレファーノ家から援助を出すよう父なり兄なりに懇願したい。
母が明るく笑い飛ばした。
「まさか!ラズバリー伯爵夫人はケレナの変化に驚いていたけど大喜びだったわよ。
別に強要するつもりは無かったのだけど、先日王都に遊びに来てから人が変わったかのように淑女らしくなったんですって」
・・・。
おかしい。
王都に遊びに来ただけで態度が急に変わるなんて。
第一、ほんの1カ月程度前に会った時には結婚するのも『まだ早い!』、皇太子妃になるなんて『冗談じゃない』って言っていたのに。
一体何があったんだろう?
「ケレナは今もまだ王都にいるの?どうせなら会ってくるよ」
「そうね、ちょうどいいわ。伯爵夫人にこの間頼まれていた絵画集の本が届いたから、ついでに届けてきてちょうだい」
むずがり始めたフェリスを抱き上げた母がサイドテーブルに置いてあった本を指して言った。
よし、ケレナが無理に自分を押し殺すような状況に追い込まれていないのか、確認してこなくちゃ。
>>サイド シャルロ
「フェリスちゃんって本当に可愛いよね~」
まだ首も据わらぬ赤子の頬をうっとりとつつきながら呟く。
「そうねぇ。あなたももうそろそろ良い娘さんを見つけることを考えた方がいいんじゃない?
今すぐ家庭を持てとは言わないけど、人一倍のんびり屋さんなあなただったら『良いな』という娘さんを見つけてから実際に家庭を持つまでにかなり年数がかかりそうだわ」
母からの思いがけぬコメントに思わずフェリスちゃんから目を離してしまった。
「僕が家庭??お父さんになる僕なんて、想像出来ないんだけど・・・」
子供のころから末っ子として皆に甘やかされてきた。
自分の行動には責任を取ろうと思い、それなりに頑張ってきたものの『誰か』の全生活に責任を持つ『お父さん』になった自分の姿と言うのは想像できない。
今年から始めたビジネスではそれなりにアレクもウィルもパートナーとして素材開発とかアイディアの提供に頼ってくれるところもあるが、現実面での実用的な実務に関しては・・・『ぽやぽや』という形容詞をつけて呼ばれることが多い気がする。
「ねぇ、僕ってそんなにぼんやりポヤポヤしているかなぁ?
お父さんになる僕っていうのも想像できないけど、周りの人も一人の大人として責任を持って自立をした僕を考えたことも無いような気がするんだよねぇ」
くすり。
母が笑いをこぼした。
「まあ、皆があなたのその日溜まりのようなノンビリさを気に入っているんだと思うわよ。
必要に迫られればもっとしっかり出来るでしょうけど、ついついそのノンビリさを失ってもらいたくないから世話を焼きすぎちゃうのでしょ」
自分の性格を褒められるのは嬉しい。でも・・・何とはなしにこの『ポヤポヤのままでいい。』という周りの態度は複雑だ。
難しいことを考え込んで悩むのは性ではないけど、苦労を知らない世間知らずとして扱われるのもなぁ。
でも。
「母上も僕のノンビリした性格が好きなら、そんな結婚しろだなんて急かさないでよ」
急かされるのは嫌だし、まだ結婚なんて考えてみたことも無い。
三男の僕は別に後継ぎを産ませる必要もないし。
「まあねぇ、私もそう思っていたんだけど、この間ケレナと会って『ああ、子供はいつまでも幼いままじゃないんだわぁ』と実感したのよね」
ラズバリー伯爵家はオレファーニ侯爵家と同じく南方の有力貴族であり、屋敷も比較的近い位置に建っている。
僕とケレナの年が近いこともあって魔術学院に入るまでは良く一緒に悪戯をしたものだ。
ケレナが悪戯を思いつき、僕を引き込むと言うことが多かったけど。
あのケレナの悪戯に対する才能はある意味ウィルの心眼《サイト》よりも凄いかもしれない。
独創性に関しては、僕はこの幼馴染を誰よりも尊敬して育ったと言っていい。
「ケレナに会ったの?こないだ話した時は、『皇太子妃候補なんて冗談じゃない』って破談させる方法を色々考えていたけど」
母の眉が引き上げられた。
「あら、そうなの?先日会った際にはまるで理想的な淑女になっていて、まさしく『皇太子妃とはこうあるべき』といった姿だったわ。
てっきり皇太子妃のチャレンジに真剣に取り組んでいるのかと思ったのだけど」
淑女??
ケレナが?
有力貴族の娘として育ったのだ、勿論必要な場面ではケレナだって完璧な貴族としての行動をとることが出来る。
だが、母のような親しい人間に対して完璧な淑女のように行動するなんて・・・ケレナらしくない。
どうしたんだろ?
「ラズバリー家って大丈夫だよね?何か投資に大失敗したとか大飢饉が起きてケレナが家を救うために皇太子妃になる決心をした訳じゃあないよね?」
そんな自己犠牲を強いるぐらいならオレファーノ家から援助を出すよう父なり兄なりに懇願したい。
母が明るく笑い飛ばした。
「まさか!ラズバリー伯爵夫人はケレナの変化に驚いていたけど大喜びだったわよ。
別に強要するつもりは無かったのだけど、先日王都に遊びに来てから人が変わったかのように淑女らしくなったんですって」
・・・。
おかしい。
王都に遊びに来ただけで態度が急に変わるなんて。
第一、ほんの1カ月程度前に会った時には結婚するのも『まだ早い!』、皇太子妃になるなんて『冗談じゃない』って言っていたのに。
一体何があったんだろう?
「ケレナは今もまだ王都にいるの?どうせなら会ってくるよ」
「そうね、ちょうどいいわ。伯爵夫人にこの間頼まれていた絵画集の本が届いたから、ついでに届けてきてちょうだい」
むずがり始めたフェリスを抱き上げた母がサイドテーブルに置いてあった本を指して言った。
よし、ケレナが無理に自分を押し殺すような状況に追い込まれていないのか、確認してこなくちゃ。
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