535 / 1,309
卒業後
534 星暦555年 紫の月 11日 重要な確認作業だよね(6)
しおりを挟む
「転移門の使用経歴って調べられます?」
婿子爵の愛人との別荘に行こうと魔術院の転移門に向かったところ、以前魔術院当番だった時に色々と教えてくれたセイラ・アシュフォードが運用当番だったのでついでに聞いてみた。
「そりゃあ、転移門の使用って魔術院がお金を受け取って魔力を使っているんだから、記録は残っているわよ?
だけどその情報を誰とでも共有できる訳ではないでしょう。
家族以外だったら、国の調査機関か、破産手続きに入った相手の債権者じゃない限り調査の要請は出来ないわ。
調べるのだってそれなりに手間がかかるから、あなたが自分で調べるというのでない限り手数料がかかるし」
セイラが肩を竦めながら答えた。
へぇぇ。
意外としっかりと管理されているんだな。
とは言え、魔術院当番でうまい事転移門の運用当番に回されるよう手配したら自分で勝手に調べられそうだが。
『それなりにしっかり稼げる魔術師は悪事に手を染める必要はない』という性善説(?)に基づいているのか、魔術院の情報管理ってかなりずさんだからなぁ。
夜中に忍び込めば、魔術院当番の手配なんていう面倒なことをする必要すらない。
だがまあ、今回はちゃんと婿子爵の家族からの依頼になるはずだから、大丈夫か。
「とある貴族様で離婚騒動が起きていて、旦那の隠し財産を調べているところなんですけど、この依頼書でどうでしょう?
それとも何か決まった書類様式がありますか?」
愛人邸で見せた子爵夫人からの依頼書を見せたら、セイラが薄く笑った。
「あ~。
彼ね。
最近見なくなったと思ったら、離婚騒動が起きているんだ?」
こわっ。
しっかし、魔術院で名を覚えられるほど頻繁に転移門を使っていたのか?
だとしたら本当に他国に拠点を作っていそうだな。
「奥様の依頼だったらこれで大丈夫よ。
どのくらい調べる必要があるの?」
依頼書を返しながらセイラが聞いてきた。
さて。
ある意味、婿養子は結婚する前から奥方を裏切っていたのだろうが・・・流石に結婚して直ぐの時点では他国に拠点を開けるほど横領した金が溜まっていないだろう。
「とりあえず、5年というところかな?」
セイラが料金表らしき紙を差し出してきた。
「半年分で銀貨5枚だから、5年分だったら金貨2枚と銀貨5枚ね。
もしくはウィルが自分で調べる?それだったら料金は発生しないわよ?」
うう~ん、どうしようかな。
転移門の傍にあった使用記録の帳簿を手に取って確認してみた。
そこそこ分厚いが・・・これでまだ1月分弱?!
うへぇ~。
これの5年分となったら物凄い量になるじゃないか!!!
冗談じゃない。
これは金で解決しよう。
既に発見した宝石やら金貨の3割5分の取り分で十分払えるから足は出ない。
船が見つかればその財産価値はかなり凄いことになるはずだし。
「お金を払うんで、頼みます」
「まあ、その方が良いでしょうね。
はい、これが申請書類よ」
セイラから渡された用紙に必要事項を書き込みながら、ふと頭に浮かんだことを尋ねた。
「ちなみに、家族だったら情報を要請できるってことなら、暴力を振るう夫から逃げたいなんて言う時には転移門は使わない方が無難ってことになるんですか?」
手っ取り早く遠くに移動するなら転移門が一番だが、移動先がすぐにばれるんだったらかえって危険かもしれない。
暴力を振るう夫から逃げる必要があるような女性の知り合いはいないが、知識として知っておいて損はない。
それこそ、いつか誰かが逃げるのを助けることになるかもしれないし。
まあ、そんな場合は転移門を使うよりも空滑機《グライダー》で移動する方が痕跡が少なくていい気がするが。
つうか、妻を殴るような夫だったら何かしら後ろ暗いことをやっているだろうから、その証拠をどっかに匿名で送り付ければいいだけかも。
現時点ではどうでもいい架空の話だが。
俺が書き込んだ申請書類を確認しながらセイラが肩を竦めた。
「ちゃんと魔術院にその旨を申し立てしておけば、司法官が『正当な理由がある』と承認した場合以外は家族でも調べられなくなるわ。
だけどまあ、夫から逃げるなんて追い詰められた状態の人はそんなことまで考えが及ばないことが多いからねぇ。
それっぽい女性の移動先情報の要請が来たら、申請書類の不備を指摘しまくって遅らせる程度しか出来ないのよ」
へぇぇ。
中々思いやりがあるね。
でも、それって追い詰められていそうな状況に気が付くような女性が当番だったら、だろ?
男が当番だったらそういうことに気が付かないんじゃないかね?
まあ、取り敢えず対応策が分かったので良しとしよう。
「では、これで頼みます。支払いは魔術院での俺の口座から引き落としということに出来るんですね。
ちなみに、調べるのにどのくらいかかります?」
「今年の分だったら今日の夕方までに終わるわよ?」
笑いながらセイラが答えた。
おい。
今年ってまだ3月も経ってないじゃないか。
「じゃあ、今日の帰りに取り敢えず今年の分とその他見つかった情報を受け取ります。
後は毎日夕方に取りに来ますので、直近から情報を集めておいて下さい」
多分、直近の情報だけで国外にある婿子爵の拠点のある街は分かるだろう。
それが分かったら長に調べてもらっている間に残りの5年間の分も集まるだろう。
さ~て。
別荘にはどのくらい財産があるかな?
楽しみだ。
--------------------------------------------------------------------------------------
手書きの紙の記録を調べるのって大変そう・・・。
婿子爵の愛人との別荘に行こうと魔術院の転移門に向かったところ、以前魔術院当番だった時に色々と教えてくれたセイラ・アシュフォードが運用当番だったのでついでに聞いてみた。
「そりゃあ、転移門の使用って魔術院がお金を受け取って魔力を使っているんだから、記録は残っているわよ?
だけどその情報を誰とでも共有できる訳ではないでしょう。
家族以外だったら、国の調査機関か、破産手続きに入った相手の債権者じゃない限り調査の要請は出来ないわ。
調べるのだってそれなりに手間がかかるから、あなたが自分で調べるというのでない限り手数料がかかるし」
セイラが肩を竦めながら答えた。
へぇぇ。
意外としっかりと管理されているんだな。
とは言え、魔術院当番でうまい事転移門の運用当番に回されるよう手配したら自分で勝手に調べられそうだが。
『それなりにしっかり稼げる魔術師は悪事に手を染める必要はない』という性善説(?)に基づいているのか、魔術院の情報管理ってかなりずさんだからなぁ。
夜中に忍び込めば、魔術院当番の手配なんていう面倒なことをする必要すらない。
だがまあ、今回はちゃんと婿子爵の家族からの依頼になるはずだから、大丈夫か。
「とある貴族様で離婚騒動が起きていて、旦那の隠し財産を調べているところなんですけど、この依頼書でどうでしょう?
それとも何か決まった書類様式がありますか?」
愛人邸で見せた子爵夫人からの依頼書を見せたら、セイラが薄く笑った。
「あ~。
彼ね。
最近見なくなったと思ったら、離婚騒動が起きているんだ?」
こわっ。
しっかし、魔術院で名を覚えられるほど頻繁に転移門を使っていたのか?
だとしたら本当に他国に拠点を作っていそうだな。
「奥様の依頼だったらこれで大丈夫よ。
どのくらい調べる必要があるの?」
依頼書を返しながらセイラが聞いてきた。
さて。
ある意味、婿養子は結婚する前から奥方を裏切っていたのだろうが・・・流石に結婚して直ぐの時点では他国に拠点を開けるほど横領した金が溜まっていないだろう。
「とりあえず、5年というところかな?」
セイラが料金表らしき紙を差し出してきた。
「半年分で銀貨5枚だから、5年分だったら金貨2枚と銀貨5枚ね。
もしくはウィルが自分で調べる?それだったら料金は発生しないわよ?」
うう~ん、どうしようかな。
転移門の傍にあった使用記録の帳簿を手に取って確認してみた。
そこそこ分厚いが・・・これでまだ1月分弱?!
うへぇ~。
これの5年分となったら物凄い量になるじゃないか!!!
冗談じゃない。
これは金で解決しよう。
既に発見した宝石やら金貨の3割5分の取り分で十分払えるから足は出ない。
船が見つかればその財産価値はかなり凄いことになるはずだし。
「お金を払うんで、頼みます」
「まあ、その方が良いでしょうね。
はい、これが申請書類よ」
セイラから渡された用紙に必要事項を書き込みながら、ふと頭に浮かんだことを尋ねた。
「ちなみに、家族だったら情報を要請できるってことなら、暴力を振るう夫から逃げたいなんて言う時には転移門は使わない方が無難ってことになるんですか?」
手っ取り早く遠くに移動するなら転移門が一番だが、移動先がすぐにばれるんだったらかえって危険かもしれない。
暴力を振るう夫から逃げる必要があるような女性の知り合いはいないが、知識として知っておいて損はない。
それこそ、いつか誰かが逃げるのを助けることになるかもしれないし。
まあ、そんな場合は転移門を使うよりも空滑機《グライダー》で移動する方が痕跡が少なくていい気がするが。
つうか、妻を殴るような夫だったら何かしら後ろ暗いことをやっているだろうから、その証拠をどっかに匿名で送り付ければいいだけかも。
現時点ではどうでもいい架空の話だが。
俺が書き込んだ申請書類を確認しながらセイラが肩を竦めた。
「ちゃんと魔術院にその旨を申し立てしておけば、司法官が『正当な理由がある』と承認した場合以外は家族でも調べられなくなるわ。
だけどまあ、夫から逃げるなんて追い詰められた状態の人はそんなことまで考えが及ばないことが多いからねぇ。
それっぽい女性の移動先情報の要請が来たら、申請書類の不備を指摘しまくって遅らせる程度しか出来ないのよ」
へぇぇ。
中々思いやりがあるね。
でも、それって追い詰められていそうな状況に気が付くような女性が当番だったら、だろ?
男が当番だったらそういうことに気が付かないんじゃないかね?
まあ、取り敢えず対応策が分かったので良しとしよう。
「では、これで頼みます。支払いは魔術院での俺の口座から引き落としということに出来るんですね。
ちなみに、調べるのにどのくらいかかります?」
「今年の分だったら今日の夕方までに終わるわよ?」
笑いながらセイラが答えた。
おい。
今年ってまだ3月も経ってないじゃないか。
「じゃあ、今日の帰りに取り敢えず今年の分とその他見つかった情報を受け取ります。
後は毎日夕方に取りに来ますので、直近から情報を集めておいて下さい」
多分、直近の情報だけで国外にある婿子爵の拠点のある街は分かるだろう。
それが分かったら長に調べてもらっている間に残りの5年間の分も集まるだろう。
さ~て。
別荘にはどのくらい財産があるかな?
楽しみだ。
--------------------------------------------------------------------------------------
手書きの紙の記録を調べるのって大変そう・・・。
1
あなたにおすすめの小説
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で
重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。
魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。
案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる