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卒業後
537 星暦555年 紫の月 13日 重要な確認作業だよね(9)
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「何か見つかった?」
鞄を手に、書斎で色々調べていたアレクに尋ねた。
ついでに書斎の中を見て回るが、既にギルドの男が見つけた隠し金庫以外には特に隠し場所は無いようだ。
「そう簡単に帳簿っていうのは見終われるものじゃないんだよ。
お茶でも飲んでいてくれ」
普通の帳簿と、ギルドが見つけていた裏帳簿と、さっき俺が見つけた帳簿を比較しながら内容を確認していたアレクが顔を上げずに答えた。
おっと。
失礼~。
まあそうだよな。
普通に大したこともやっていないイリスターナ達の会計資料を確認するのにだって半日かかったのだ。
事業規模はもっとずっと手広いらしい子爵の帳簿だったら何も隠し事を探ろうとしなくても確認に時間がかかりそうだ。
そうなったらもっと丁寧に事務所の中を見て回るか。
とは言え、まずはお茶を淹れよう。
軽食スペースに戻ろうと思ったが、書斎にもお茶を淹れる魔道具のセットがあったのでそちらに手を伸ばしたら・・・紅茶缶が二重底になっていた。
マジ??
こんなのは初めて見た。
基本的に紅茶なんて使用人が入れるものだから、普通はそこに隠し物なんぞしないのだが・・・書斎で働いている間に自分でお茶を淹れられる魔道具が出来たことで、新しい隠し場所が発生したようだ。
でも、これだと茶葉を足そうとしたら缶が妙に重いとバレそうなものだけど。
自分の好物だと言って本国から持ってくるようにでもしていたのかね?
「どこの鍵だか分かるか?」
事務所の中の鍵がかかる場所は既にギルドの人間が全て調べているはずなので、鍵が見つからない引き出しなりなんなりがあったら分かるだろう。
とは言え、かなり立派だから普通の引き出しの鍵とは思えないな。
外にある鍵だとしたら・・・貸金庫かなにかの可能性が高い。
「紅茶の缶の中に鍵を隠すなんて・・・。
非常識すぎる」
ギルドの男は俺の手の中にある鍵を見てため息をつき、続けた。
「それは多分南通りにあるラバーナ信用金庫の貸金庫だと思う」
おお~。
流石だね。
一目でわかるか。
まあ、おれだってアファル王国の王都にある大手の貸金庫とかの鍵ならどれもすぐに見分けがつくけどさ。
リタイアしてから事業を始めた新興どころは知らないけど。
お茶をアレクにも淹れて自分の分を飲んだ後、ぶらぶらと事務所の中を確認したが、他には特に何も出てこなかったのでこのラバーナ信用金庫に行くことにした。
アファル王国の貸金庫だったら本人確認が必要なのだが、ギルドの男曰くザルガ共和国の商慣習は鍵を持っていれば開けてくれるというかなりガバガバな仕組みらしい。
というか、脱税の為に使うのなら当然のことながら実名を使う訳にはいかず、貸金庫ごとに身分証明書を作らせるのは顧客層に不評なのでこのラバーナ信用金庫のように鍵を持っていることだけを要件として金庫にアクセスできるところが人気なんだそうだ。
ということで、若い男2人というそれなりに怪しげな俺たちが行っても信用金庫の従業員は何も言わずに貸金庫へ俺たちを案内してくれた。
金庫の中は・・・書類。
目を通したところ、殆どは恐喝の元となったのではないかと思われるような怪しげな情報が多い。
内容はみみっちいものが多かったが。
「おや。
子爵は恐喝で資産を作ったのか?
そういうタイプには見えなかったが・・・」
ギルドの男がため息をつきながら書類に軽く目を通し始めた。
お?
子爵のことを知っているのか?
俺は会ったことがないので何とも言えないが、別荘宅にも恐喝目的っぽい書類が集められていたから、そういう人間なのだろうと思っていたのだが。
「恐喝者にタイプってあるのか?」
恐喝者とのやり取りはあまり経験がないので、どういうのが『タイプ』になるのかちょっと興味を感じて聞いてみた。
ギルドの男が少し首を傾げた。
「まあ、タイプというか・・・恐喝で金を儲ける奴らは子爵みたいに色々な事業に投資しないんだよな。
恐喝で十分金が手に入るから、態々人を雇って商売をする必要が無い訳だ。
まあ、収入源が何もなかったら怪しまれるから何かしらはあるだろうが、この子爵はかなり手広く事業をしているだろう?
恐喝が収入源だったらここまで手を広げる必要はない」
ふ~ん。
なるほどね。
そんなことを話しながら子爵の事務所に戻ったら、アレクがまったりとお茶を楽しんでいた。
「あ、終わった?
何か見つかった?」
アレクが肩を竦めた。
「どうも子爵は何らかの形で内部情報を入手するのが上手かったようだね。
商売としてはちょっとありえないぐらい継続的に『幸運』としか言いようがない仕入れや売り上げで儲けている。
実際の売上や仕入れそのものはこちらの裏帳簿に記録されていて、ウィルが見つけた帳簿はどうもその『幸運』の元になった情報源に関しての記録の様だ」
「なるほど。
恐喝して金を得ていたのではなく、商売に役に立つ情報を提供させていたのか」
恐喝された相手にしても、自分が働いている先がちょっと損をする程度の情報を提供するのはそれほど躊躇しなかっただろう。
恐喝で儲けようと思ったらそれだけの資金力がある相手の弱みを握らなければならないし、それだけの資金力がある相手の報復にも備えなければならないが、下っ端の従業員の弱みを握って上手く内部情報を利用する程度だったら恐喝できる対象者はずっと多くなるし、相手に報復できる経済力がない可能性が高い。
手間がかかるが、単なる恐喝よりはある意味安全だし簡単かもしれないな。
とは言え。
こちらもあまり換金価値は無さそうだけど。
「あとはこちらの情報は事業とは関係ないようだな。
何か医療関係の購入に関する情報のようだが・・・別に子爵夫人は毒を盛られて体調を崩しているということは無かったのだよね?」
アレクが最後に何やら紙を指さしながら聞いてきた。
おや。
ちょっと不穏な話になったぞ。
鞄を手に、書斎で色々調べていたアレクに尋ねた。
ついでに書斎の中を見て回るが、既にギルドの男が見つけた隠し金庫以外には特に隠し場所は無いようだ。
「そう簡単に帳簿っていうのは見終われるものじゃないんだよ。
お茶でも飲んでいてくれ」
普通の帳簿と、ギルドが見つけていた裏帳簿と、さっき俺が見つけた帳簿を比較しながら内容を確認していたアレクが顔を上げずに答えた。
おっと。
失礼~。
まあそうだよな。
普通に大したこともやっていないイリスターナ達の会計資料を確認するのにだって半日かかったのだ。
事業規模はもっとずっと手広いらしい子爵の帳簿だったら何も隠し事を探ろうとしなくても確認に時間がかかりそうだ。
そうなったらもっと丁寧に事務所の中を見て回るか。
とは言え、まずはお茶を淹れよう。
軽食スペースに戻ろうと思ったが、書斎にもお茶を淹れる魔道具のセットがあったのでそちらに手を伸ばしたら・・・紅茶缶が二重底になっていた。
マジ??
こんなのは初めて見た。
基本的に紅茶なんて使用人が入れるものだから、普通はそこに隠し物なんぞしないのだが・・・書斎で働いている間に自分でお茶を淹れられる魔道具が出来たことで、新しい隠し場所が発生したようだ。
でも、これだと茶葉を足そうとしたら缶が妙に重いとバレそうなものだけど。
自分の好物だと言って本国から持ってくるようにでもしていたのかね?
「どこの鍵だか分かるか?」
事務所の中の鍵がかかる場所は既にギルドの人間が全て調べているはずなので、鍵が見つからない引き出しなりなんなりがあったら分かるだろう。
とは言え、かなり立派だから普通の引き出しの鍵とは思えないな。
外にある鍵だとしたら・・・貸金庫かなにかの可能性が高い。
「紅茶の缶の中に鍵を隠すなんて・・・。
非常識すぎる」
ギルドの男は俺の手の中にある鍵を見てため息をつき、続けた。
「それは多分南通りにあるラバーナ信用金庫の貸金庫だと思う」
おお~。
流石だね。
一目でわかるか。
まあ、おれだってアファル王国の王都にある大手の貸金庫とかの鍵ならどれもすぐに見分けがつくけどさ。
リタイアしてから事業を始めた新興どころは知らないけど。
お茶をアレクにも淹れて自分の分を飲んだ後、ぶらぶらと事務所の中を確認したが、他には特に何も出てこなかったのでこのラバーナ信用金庫に行くことにした。
アファル王国の貸金庫だったら本人確認が必要なのだが、ギルドの男曰くザルガ共和国の商慣習は鍵を持っていれば開けてくれるというかなりガバガバな仕組みらしい。
というか、脱税の為に使うのなら当然のことながら実名を使う訳にはいかず、貸金庫ごとに身分証明書を作らせるのは顧客層に不評なのでこのラバーナ信用金庫のように鍵を持っていることだけを要件として金庫にアクセスできるところが人気なんだそうだ。
ということで、若い男2人というそれなりに怪しげな俺たちが行っても信用金庫の従業員は何も言わずに貸金庫へ俺たちを案内してくれた。
金庫の中は・・・書類。
目を通したところ、殆どは恐喝の元となったのではないかと思われるような怪しげな情報が多い。
内容はみみっちいものが多かったが。
「おや。
子爵は恐喝で資産を作ったのか?
そういうタイプには見えなかったが・・・」
ギルドの男がため息をつきながら書類に軽く目を通し始めた。
お?
子爵のことを知っているのか?
俺は会ったことがないので何とも言えないが、別荘宅にも恐喝目的っぽい書類が集められていたから、そういう人間なのだろうと思っていたのだが。
「恐喝者にタイプってあるのか?」
恐喝者とのやり取りはあまり経験がないので、どういうのが『タイプ』になるのかちょっと興味を感じて聞いてみた。
ギルドの男が少し首を傾げた。
「まあ、タイプというか・・・恐喝で金を儲ける奴らは子爵みたいに色々な事業に投資しないんだよな。
恐喝で十分金が手に入るから、態々人を雇って商売をする必要が無い訳だ。
まあ、収入源が何もなかったら怪しまれるから何かしらはあるだろうが、この子爵はかなり手広く事業をしているだろう?
恐喝が収入源だったらここまで手を広げる必要はない」
ふ~ん。
なるほどね。
そんなことを話しながら子爵の事務所に戻ったら、アレクがまったりとお茶を楽しんでいた。
「あ、終わった?
何か見つかった?」
アレクが肩を竦めた。
「どうも子爵は何らかの形で内部情報を入手するのが上手かったようだね。
商売としてはちょっとありえないぐらい継続的に『幸運』としか言いようがない仕入れや売り上げで儲けている。
実際の売上や仕入れそのものはこちらの裏帳簿に記録されていて、ウィルが見つけた帳簿はどうもその『幸運』の元になった情報源に関しての記録の様だ」
「なるほど。
恐喝して金を得ていたのではなく、商売に役に立つ情報を提供させていたのか」
恐喝された相手にしても、自分が働いている先がちょっと損をする程度の情報を提供するのはそれほど躊躇しなかっただろう。
恐喝で儲けようと思ったらそれだけの資金力がある相手の弱みを握らなければならないし、それだけの資金力がある相手の報復にも備えなければならないが、下っ端の従業員の弱みを握って上手く内部情報を利用する程度だったら恐喝できる対象者はずっと多くなるし、相手に報復できる経済力がない可能性が高い。
手間がかかるが、単なる恐喝よりはある意味安全だし簡単かもしれないな。
とは言え。
こちらもあまり換金価値は無さそうだけど。
「あとはこちらの情報は事業とは関係ないようだな。
何か医療関係の購入に関する情報のようだが・・・別に子爵夫人は毒を盛られて体調を崩しているということは無かったのだよね?」
アレクが最後に何やら紙を指さしながら聞いてきた。
おや。
ちょっと不穏な話になったぞ。
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