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卒業後
561 星暦555年 青の月 26日 結婚式の映像記録(5)
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結婚式が終わった後の後日談的なおまけ。
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>>>サイド ジェルド・アウヴァーン少佐
宙に浮かぶ映像の中で、王太子と王太子妃が左右の観衆に向かってにこやかに微笑みながら手を振っている。
色々と準備が大変だったが、王太子夫妻の結婚式は無事終わった。
本当ならば10日ぐらい休みを取りたいところだったのだが・・・記録用魔道具の映像をすぐに確認したいとデザヌ大佐が主張した為、朝から今回の企画の提案者の一人と一緒に映像を細かく検証する羽目になった。
「あ、そこをもう一度戻ってくれ!」
デザヌ大佐が再び声を上げる。
どうせあんただってそこに居たんだから良いじゃないか・・・。
昨晩の祝賀会での深酒が響いてまだ頭が重い。
お蔭で映像も殆ど興味も感じずにぼ~と見る感じになってしまっている。
なんと言っても自分もパレードに参加していたのだ。
実際に見た風景と映像と大して違いは無い。
確かにパレードの最中には気にしていなかった点や見えなかった角度も見えて興味深いが・・・何も祝賀会の翌朝から確認しなくても良いだろうに。
少なくとも企画側のウィルとかいう青年は深酒していなかったのか、特に辛そうな様子を見せていないのがせめてもの救いだ。
王太子夫妻が新婚旅行から帰ってきたらこの映像を記録した魔石を献上しなければならないので、確かに今のうちに確認するほうが承認手続きとかは楽なのだが・・・どうせまだ10日程あるのだ。
そんなに急がなくても良いだろうに・・・。
「ここのこの男の姿を画像に取り出せないか??!」
じ~っと映像を見つめていたデザヌ大佐が振り返って何やら人影を指さしながらウィルに要請した。
これで5回目の中断なのだが、ウィルは特に嫌そうな顔はせずに扱っていた魔道具から魔石を取り出し、横の魔道具にそれをはめ込んだと思ったら何やら覗き込んで作業をした後に、体を起こした。
横にあったマグからお茶を飲みながら何やら待っていたと思ったら、弄っていた魔道具の前の方を開いて、紙を取り出した。
「どうぞ」
デザヌ大佐は礼も言わずに差し出された紙をひったくるように手に取り、食い入るようにそれを見つめた。
どうしたのだ?
思わず好奇心を感じて覗いてみたら、そこに居たのはごく平凡な感じの中年の男だった。
が。
普通の一般市民にしては妙に隙がない?
「ザルガ共和国の情報管理委員会に出入りしていた男だ。
委員会の手の者なのだろう。
他国の情報収集機関を見張っている人間を全員呼び出してこのパレード映像を確認させ、見覚えがある顔を全て出力させよう」
デザヌ大佐が画像を手渡しながら提案した。
ほおう・・・?
そうか、この記録式魔道具を使えば、他国の危険人物や情報機関に属する人間の正確な姿絵を出力できるのか!
これを重要拠点の衛兵に渡しておけば『うっかり立ち入ってしまった人間』を捕まえた時に『うっかり』ではなかった人間を判別し、もっと詳しく尋問できる。
「この記録用魔道具を港や転移門のところに設置しておけば怪しげな人間を全て記録できますね」
人の出入りを見張ったところで、見張っている人間が各国の情報機関に所属する人間の顔を直接知っていなければ余程目立つ形相でないかぎり基本的に人を捕まえることに役には立たない。
だが、この魔道具で記録しておいて後から情報機関の監視役の人間に確認させれば、少なくとも情報機関に関係する人間が来たかどうかだけは分かるし、その人物の姿絵を記録に取ることが出来る。
それこそ、王宮の宝庫の外にもこれを設置しておけば誰かが何かを盗んだ際にも記録が残るし。
そんなことを考えていたら、ウィルの顔が妙に引きつったように見えた。
「片っ端から何から何までも記録しようとすると膨大な量の魔石が必要になりますよ?
今回は何十年に一度の王太子殿下の結婚式でしたから予算が潤沢だったと思いますが・・・それでも記録しているのはパレードと神殿での儀式と合わせて2刻程度でしたし。
予行演習の時の魔石はそれなりに沢山渡されましたが、あれだって安くなかったはずですが大丈夫ですか?
基本的に長時間使える大きな魔石は高くつきますし、もっと普通な値段の魔石だと短時間しか記録できないのでしょっちゅう魔石を入れ替える必要がありますよ」
ちょっと心配そうな顔をして聞いてきた。
ふむ。
予算か・・・。
確かに頭が痛いな。
どうやって使うかは、よくよく考えなければ。
「ちなみに、この映像をもっとゆっくりとか早くは動かせないのかね?」
デザヌ大佐がウィルに尋ねた。
「このように立体的な大きな映像として再生する場合は速度は実際の行動と同じ速度になります。
こちらの編集と出力用の魔道具でしたら少しずつ画像を飛ばす感じで見て行ったらもっと早く見れますが、これだけを飛ばしながら見ると映像の一部を見損ねる可能性がありますね」
ウィルが肩を竦めて答えた。
「画像を止めながら見るという形でしたらゆっくり見るのも可能です」
そうか。
転移門を出入りする人間をずっと記録できるとしても、その映像を確認する人間は記録したのにかかったのと同じだけの時間が必要になるのか。
そうなると予算だけでなく、時間的制約も厳しくなるな。
極端に重要な拠点の出入りの確認だったらそれだけの時間と費用をかけられるかもしれないが、それ以外の場所での大々的な設置は難しいか。
残念だ・・・。
【後書き】
「やべえ、これからは『探し物』を頼まれた際は、忍び込む前に出入り口を含めて視界内に記録用魔道具が設置されていないか確認しなくちゃならないのか!」
と思って顔が引きつっていたウィル君でしたw
ちなみに結婚式とパレードは直接は見に行かず、夕方になってケレナやシェイラも合わせてみんなで記録用魔道具の映像を見て楽しみました。
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>>>サイド ジェルド・アウヴァーン少佐
宙に浮かぶ映像の中で、王太子と王太子妃が左右の観衆に向かってにこやかに微笑みながら手を振っている。
色々と準備が大変だったが、王太子夫妻の結婚式は無事終わった。
本当ならば10日ぐらい休みを取りたいところだったのだが・・・記録用魔道具の映像をすぐに確認したいとデザヌ大佐が主張した為、朝から今回の企画の提案者の一人と一緒に映像を細かく検証する羽目になった。
「あ、そこをもう一度戻ってくれ!」
デザヌ大佐が再び声を上げる。
どうせあんただってそこに居たんだから良いじゃないか・・・。
昨晩の祝賀会での深酒が響いてまだ頭が重い。
お蔭で映像も殆ど興味も感じずにぼ~と見る感じになってしまっている。
なんと言っても自分もパレードに参加していたのだ。
実際に見た風景と映像と大して違いは無い。
確かにパレードの最中には気にしていなかった点や見えなかった角度も見えて興味深いが・・・何も祝賀会の翌朝から確認しなくても良いだろうに。
少なくとも企画側のウィルとかいう青年は深酒していなかったのか、特に辛そうな様子を見せていないのがせめてもの救いだ。
王太子夫妻が新婚旅行から帰ってきたらこの映像を記録した魔石を献上しなければならないので、確かに今のうちに確認するほうが承認手続きとかは楽なのだが・・・どうせまだ10日程あるのだ。
そんなに急がなくても良いだろうに・・・。
「ここのこの男の姿を画像に取り出せないか??!」
じ~っと映像を見つめていたデザヌ大佐が振り返って何やら人影を指さしながらウィルに要請した。
これで5回目の中断なのだが、ウィルは特に嫌そうな顔はせずに扱っていた魔道具から魔石を取り出し、横の魔道具にそれをはめ込んだと思ったら何やら覗き込んで作業をした後に、体を起こした。
横にあったマグからお茶を飲みながら何やら待っていたと思ったら、弄っていた魔道具の前の方を開いて、紙を取り出した。
「どうぞ」
デザヌ大佐は礼も言わずに差し出された紙をひったくるように手に取り、食い入るようにそれを見つめた。
どうしたのだ?
思わず好奇心を感じて覗いてみたら、そこに居たのはごく平凡な感じの中年の男だった。
が。
普通の一般市民にしては妙に隙がない?
「ザルガ共和国の情報管理委員会に出入りしていた男だ。
委員会の手の者なのだろう。
他国の情報収集機関を見張っている人間を全員呼び出してこのパレード映像を確認させ、見覚えがある顔を全て出力させよう」
デザヌ大佐が画像を手渡しながら提案した。
ほおう・・・?
そうか、この記録式魔道具を使えば、他国の危険人物や情報機関に属する人間の正確な姿絵を出力できるのか!
これを重要拠点の衛兵に渡しておけば『うっかり立ち入ってしまった人間』を捕まえた時に『うっかり』ではなかった人間を判別し、もっと詳しく尋問できる。
「この記録用魔道具を港や転移門のところに設置しておけば怪しげな人間を全て記録できますね」
人の出入りを見張ったところで、見張っている人間が各国の情報機関に所属する人間の顔を直接知っていなければ余程目立つ形相でないかぎり基本的に人を捕まえることに役には立たない。
だが、この魔道具で記録しておいて後から情報機関の監視役の人間に確認させれば、少なくとも情報機関に関係する人間が来たかどうかだけは分かるし、その人物の姿絵を記録に取ることが出来る。
それこそ、王宮の宝庫の外にもこれを設置しておけば誰かが何かを盗んだ際にも記録が残るし。
そんなことを考えていたら、ウィルの顔が妙に引きつったように見えた。
「片っ端から何から何までも記録しようとすると膨大な量の魔石が必要になりますよ?
今回は何十年に一度の王太子殿下の結婚式でしたから予算が潤沢だったと思いますが・・・それでも記録しているのはパレードと神殿での儀式と合わせて2刻程度でしたし。
予行演習の時の魔石はそれなりに沢山渡されましたが、あれだって安くなかったはずですが大丈夫ですか?
基本的に長時間使える大きな魔石は高くつきますし、もっと普通な値段の魔石だと短時間しか記録できないのでしょっちゅう魔石を入れ替える必要がありますよ」
ちょっと心配そうな顔をして聞いてきた。
ふむ。
予算か・・・。
確かに頭が痛いな。
どうやって使うかは、よくよく考えなければ。
「ちなみに、この映像をもっとゆっくりとか早くは動かせないのかね?」
デザヌ大佐がウィルに尋ねた。
「このように立体的な大きな映像として再生する場合は速度は実際の行動と同じ速度になります。
こちらの編集と出力用の魔道具でしたら少しずつ画像を飛ばす感じで見て行ったらもっと早く見れますが、これだけを飛ばしながら見ると映像の一部を見損ねる可能性がありますね」
ウィルが肩を竦めて答えた。
「画像を止めながら見るという形でしたらゆっくり見るのも可能です」
そうか。
転移門を出入りする人間をずっと記録できるとしても、その映像を確認する人間は記録したのにかかったのと同じだけの時間が必要になるのか。
そうなると予算だけでなく、時間的制約も厳しくなるな。
極端に重要な拠点の出入りの確認だったらそれだけの時間と費用をかけられるかもしれないが、それ以外の場所での大々的な設置は難しいか。
残念だ・・・。
【後書き】
「やべえ、これからは『探し物』を頼まれた際は、忍び込む前に出入り口を含めて視界内に記録用魔道具が設置されていないか確認しなくちゃならないのか!」
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